令和6年度司法試験・労働法(第2問)

令和6年度司法試験の労働法(第2問)の再現答案及び心情などを掲載します。
用途に応じてご活用いただければと思います。
なお、再現答案は体感1,2割増で美化されています。



再現答案

第二 設問2
1.     労働組合法(以下、「労組法」という。)7条2号について
(1)  X組合の求めるべき救済
X組合は、Y社が①業務手当廃止の撤回と②組合費のチェック・オフの実施について誠実に交渉しなかったことを理由に、誠実団交応諾命令及びポスト・ノーティス命令を求めるべきである。なお、集団的労使関係の迅速な回復のために、専門知識を有する労働委員会に広範な裁量を与えた法の趣旨からすれば、誠実団交応諾命令もその裁量の範囲内として許容される。
(2)  X組合のなすべき主張
X組合は、①②が義務的団交事項にあたるにもかかわらず、Y社が誠実に交渉しなかったことを主張すべきである。
(3)  労働委員会が発することになる命令
ア. X組合の主張が認められれば、X組合の求める命令を発することになる。
イ. まず、Y社は「使用者」(労組法7条柱書)にあたる。
ウ. 次に、X組合は「使用者が雇用する労働者の代表者」(同条2号)にあたる。      
エ. では、「正当な理由なく」「団体交渉を…拒」んだといえるか。
(ア) 前提として、①②が義務的団交事項に当たる必要がある。
 労組法の趣旨は、団体交渉を促進し、「労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ること」にあるから、義務的団交事項にあたるかは、(a)労働条件に関する事項または労使関係に関する事項であって、(b)使用者に処分権限があるものを指すと解する。
 あ. ①について
業務手当廃止の撤回は、(a)賃金という労働条件に関する事項であり、(b)撤回するか否かは使用者に処分権限が認められるから、義務的団交事項にあたる。
 い. ②について
組合費のチェック・オフの実施は、(a)労使関係に関する事項であって、(b)使用者に処分権限があるから、義務的団交事項にあたる。
(イ) もっとも、Y社はX組合と計6回も団体交渉に及んでいるから、「拒」んだといえないのではないか。
 ここで、上記労組法の趣旨からすれば、使用者は単に交渉に応じればよいだけでなく、誠実に交渉する義務を負うと解するべきである。具体的には、主張の根拠を示したり、資料を提示したり、論拠をもって反論したりして、合意決定の可能性を模索する義務があると解する。
あ. ①について
 たしかに、Y社は業務手当をはじめた経緯を説明している。
 しかし、経緯は、その廃止の撤回とは関係がない。また、X組合が資料を示して具体的に説明するよう求めた際も、「正式な計算書類は外部に非公表である」として、「当社決算の概要と過去10年の推移」という一枚紙の文書を示したのみである。Y社は非上場の株式会社であるところ、会社法上、貸借対照表の公告(同法440条1項)や、計算書類等の備置き及び閲覧(同法442条1項)が義務付けられているから、Y社の言い分には疑義が残るし、一枚紙の文書では、とうてい資料を示して具体的に説明したとはいえない。加えて、業務手当の廃止によってどれだけの経費削減効果があるのか、他にどのような経営改善の努力を行なっているのか等の説明もなされなかった。
 よって、合意決定の可能性を模索する義務を履行したとはいえず、誠実交渉義務に反する。
い. ②について
 Y社は、X組合に対し、「少数組合の場合は法律上も無理がある」と述べて拒否しているが、X組合がいうように、実際に少数組合に組合費のチェック・オフを認めた例は多くあり、法律上無理はない。にもかかわらず、同様の見解を述べてただ拒否するのみであるから、合意決定の可能性を模索する義務を履行したとはいえず、誠実交渉義務に違反する。
 以上より、Y社は、①②について「正当な理由なく」「団体交渉をすることを…拒」んだといえる。
オ.   したがって、労働委員会は①②について誠実団交応諾命令及びポストノーティス命令を発するべきである。
2.     労組法7条3号について
(1)  X組合の求めるべき救済
 X組合は、Y社がA組合とのみ③チェック・オフ協定及び④ユニオン・ショップ協定(以下、「ユ・シ協定」という。)を締結したことが支配介入にあたるとして、ポスト・ノーティス命令を求めるべきである。
(2)  X組合のなすべき主張
 X組合は、Y社がX組合とは①②について令和5年10月から令和6年4月までの6ヶ月間もの間、団体交渉を拒否している一方、A組合とは、その結成後初めての団体交渉で③④を締結していることは、「労働者が労働組合を…運営すること…に介入すること」にあたり、支配介入であると主張すべきである。
(3)  労働委員会が発することになる命令
ア. Xの主張が認められれば、ポスト・ノーティス命令を発することになる。
イ. Y社は「使用者」にあたるのは明らかである。
ウ. 支配介入とは、労働組合の自主性、団結力、組織力を損なう行為をいう。
ここで、使用者が複数の組合と団体交渉を行う際には、使用者は各組合と誠実に交渉し、中立保持義務を負うと解する。各組合の団体交渉権(憲法28条)を尊重すべきことは当然だからである。
もっとも、各組合と誠実に交渉した結果、それぞれ違った結論に至ることは当然にありうる。また、多数組合には従業員が多く所属しているわけだから、使用者として多数組合の意見を重視するようになるのは自然なことである。
そうすると、複数の組合があった場合に、それぞれの組合で締結された協約に差があったとしても直ちに支配介入であると解すべきではなく、それが一方組合に対する団結権の否認や嫌悪の意図が決定的動機となって行われたなどの特段の事情がある場合に限って、支配介入にあたると解すべきである。
(ア)③について
X組合は25人の少数組合であり、組合費の確保は組合の存続にとって非常に重要な意味を持つから、確実な組合費の確保のため、チェック・オフ協定を締結する必要は高い。しかも、Y社は、「法律上も無理がある」といって拒否するばかりで、実際には法律上無理はないから、チェック・オフ協定の拒否に固執する理由はない。
たしかに、X組合は地域合同労組であり、A組合は企業別労働組合であるし、人数もX組合は25人である一方、A組合は150人であるから、Y社としてA組合との交渉を重視することは自然ともいえる。
しかし、A組合はY社の管理職を除く200名のうち150名が加入しており、その割合は3/4であること、Y社のほとんどの労働者は本社と向上が一体となった施設で勤務していることから、もし仮にX組合を解体できれば、労組法17条の適用により、A組合との協定による一般的拘束力を認めることができ、労働条件の統一を図ることができるから、かえってX組合に対する団結権の否認の意図を推認できる。
また、Y社はA組合との団体交渉の場において、「従業員の真の利益を考える組合の出現を心から歓迎する」と述べており、X組合の嫌悪の意図が読み取れる。A組合との協約締結後に、その模様を掲載したA組合のニューズレターをY社の従業員向けの掲示板の脇の机に積み重ねて置き、Y社の労働者は誰でもそれを持ち帰ることができたところ、Y社はそれを黙認していることからも、X組合に対する嫌悪の意図を推認できる。実際にX組合からは10名が脱退しA組合に参加していることから、その影響力の大きさも窺える。
 加えて、たしかにX組合は演説やビラの配布などの組合活動を行っているが、これは始業前という就業時間外に、Y社の本社・工場の門前という職場外のものであり、また、その態様が社会的相当性を逸脱したと認められるものでもないから、正当な組合活動である。よって、これもって、Xとチェック・オフ協約を締結しない理由にはできない。
したがって、団結権の否認及び嫌悪の意図が決定的動機となったといえるから、X組合とはチェック・オフ協定を結ばず、A組合とは同協定を結んだことは支配介入にあたる。
また、支配介入意思、つまり反組合意思も上記の通り認められる。
(イ)④について
A組合は組合員が150人の大規模な組合であるから、ユ・シ協定の締結により団結権の維持強化を図る必要は高い。また、A組合とユ・シ協定を結んだところで、X組合に参加している者との間では公序良俗に反し無効であるから、X組合に対しては実質的に意味をなさない。そもそも、X組合はユ・シ協定について締結を求めていないから、A組合との間で同協定を締結しても別異な取り扱いにあたらない。
よって支配介入にあたらない。
エ. 以上より、③のみ支配介入にあたるから、労働委員会は③についてポスト・ノーティス命令を発することになる。



心情

労組法7条2号について
・形式面について
設問での形式的な指定が多いと感じたため、それらの指定に正面から答えられるようなナンバリングを意識した。
・義務的団交事項の検討について
特にありません。
・誠実交渉義務の検討について
検討事項が少なく、あてはめで差がつきそうだと感じたので、事実を使い切ることを意識した。また、非上場の株式会社と書いてあったため、会社法に触れてほしいのかと思い、計算書類の条文をサッと一読して、関係のありそうな部分を抜粋した。

労組法7条3号について
・中立保持義務の検討について
200人のうち150人という事情や、「本社と工場が一体となった施設」という事情から、一般的拘束力について触れてほしいのかと思ったので、触れた。


振り返り

労組法7条2号について
・誠実交渉義務の検討について
7/15
少数組合のチェック・オフは法律上無理がある、というY社の主張の趣旨がいまだに掴めない。

労組法7条3号について
・求めるべき救済の検討について
7/15
ポスト・ノーティス命令しか思い浮かばなかったが、例えばY社A組合間の③④の協定の撤回命令は認められるのだろうか。
・中立保持義務の検討について
7/15
申し訳程度に書かれているX組合の組合活動をどう使うべきか、いまだにわからない。


結果

結果が分かり次第、追記します。


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