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ときめき芸術探訪:「DIC川村記念美術館」

皆様、こんにちは。
いかがお過ごしでしょうか。湿度と熱気はすっかり鳴りを潜め、硬質な大気に運ばれて届く秋の恵みの気配に思わず顔がほころぶ、今日この頃です。
連続コラム「ときめき芸術探訪」では、東京を中心とした主に関東圏に所在する芸術スポットの数々をご紹介します。穏やかに流れる時間の中で、静謐な場が守り育ててきた芸術表現の息吹に触れ、皆様の人生に一輪でも多くの歓びの花が咲くことを願っております。

第五回目にご紹介するのは、日本屈指の近現代美術コレクションを誇り、広大な庭園とヨーロッパの古城を思わせる優美な建築が特徴的な「DIC川村記念美術館」(千葉県佐倉市)です。さらに、当美術館で現在開催中の「ジョセフ・アルバースの授業 色と素材の実験室」についてもご案内します。

北総台地の自然と調和し、里山の地形を生かした緩やかな起伏のある3万坪の広大な敷地。その中心に位置する大きな湖では白鳥の姿を見かけることもしばしば。

DIC川村記念美術館とは?

「DIC川村記念美術館」(かわむらきねんびじゅつかん)は千葉県佐倉市の郊外に建つ私立美術館です。印刷インキで世界のトップシェアを誇る(旧・大日本インキ化学工業)DIC株式会社の創業者・川村喜十郎をはじめとする川村家3代や関連グループ会社が収集した美術品を公開するために設立され、敷地内には広大な池泉回遊式庭園も備えます。20世紀美術に主眼を置いた多彩なコレクション、作品にふさわしい空間づくりを目指した建築、四季折々の変化が楽しめる豊かな自然環境。これら「作品」「建築」「自然」の三要素が調和した美術館として、1990年5月、千葉県佐倉市の総合研究所敷地内にオープンしました。

近現代の多彩なコレクション

川村記念美術館は、17世紀のレンブラント《広つば帽を被った男》をはじめとして、クロード・モネ、ルノワールらの印象派、ピカソ、シャガールなどの西洋近代美術、ジャクソン・ポロック、アンディ・ウォーホル、マーク・ロスコ(専用の展示室も)などの20世紀の現代美術まで、近現代美術の多彩なコレクションを所蔵しています。
作品の収集が始まったのは1960年代後半、第二代社長の川村勝巳氏と第三代社長の川村茂邦氏の二代の間に会社が収集したコレクションを公開するために設立されました。90年に開館する美術館は、第二代社長であり初代館長でもある勝巳の盟友、海老原一郎氏の設計による建物であり、11の展示室を持ち、それぞれの展示室の設計はコレクションに合わせたオーダーメイドでもあります。

例えば2階には、自然光を活かした大きな空間にさまざまなスタイルのフランク・ステラの作品が並びます。これはニューヨークにあるステラのスタジオに見立てられている。世界的に見ても、これほどまでに多様なステラの作品が集められた美術館はありません。さらに、2008年にはDIC株式会社の創業100周年記念事業の一環として、「ロスコ・ルーム」と企画展専用の展示室を増築し、よりよい環境で作品を展示できるようになりました。「ロスコルーム」とは、抽象表現主義の代表的な画家マーク・ロスコの作品だけを展示した世界に4箇所のみ存在する空間(他は、ロンドンのテート・モダン、ワシントンDCのフィリップス・コレクション、ヒューストンのロスコ・チャペル)です。

© 1998 Kate Rothko Prizel & Christopher Rothko / ARS, New York / JASPAR, Tokyo G3055 
仄暗い「ロスコ・ルーム」から階段を上がった正面に位置する「トゥオンブリー・ルーム」。自然光が差し込む真っ白な空間で季節や時間帯によって、変化する光が楽しめる。アメリカの芸術家、サイ・トゥオンブリーの絵や彫刻のみを展示している。(美術館公式HPより)

美術館建築の設計は第二代社長・川村勝巳が通った東京府第三中学校(現 都立両国高等学校)の同級生でもあった海老原一郎です。海老原は1905年東京本所生まれ。東京藝術大学の前身、東京美術学校を卒業後、建築家としてのキャリアをスタートさせます。折しも1923年の関東大震災を経て、建物の主要建材が木材・レンガ・石などから鉄筋コンクリートへ移行してゆく時期でした。これに伴い、装飾優先の建築様式を離れた機能的で合理的なモダニズム建築が台頭。海老原はそうした流れを牽引するモダニストの一人として頭角を現します。海老原のモダニズムを感じさせる建築には、憲政記念館、大日本インキ(現 DIC)東京工場、日本バイリーン滋賀工場などがあり、中でも憲政記念館は、平屋の打放しコンクリートの設計が高く評価され、後の日本芸術院賞受賞にも結びついた作品です。

川村記念美術館に訪れた鑑賞者を迎え入れるエントランスホールの床には、海老原が美術館のために発案したデザイン・モチーフ「重なる二つの円」があしらわれています。この「重なる二つの円」は、「作家と鑑賞者の二つの精神の出会い」そして「川村勝巳と海老原一郎の友情」という意味が込められています。
1988年11月に始まった建設工事のさなか、ふとした怪我をきっかけに病に伏した海老原は、枕元にスケッチブックを置いて美術館の姿を描き続けました。エントランスホールの色鮮やかなステンドグラスが最後のデザインでした。84歳の生涯を閉じたのは1990年5月の美術館オープンから数日後のことでした。完成した美術館をその目で見ることは叶いませんでしたが、長い建築人生の最後に70年来の友と情熱を共有し、夢の美術館を完成させました。装飾的要素を取り入れつつ、鑑賞者と作品のための工夫が凝らされたDIC川村記念美術館は、まさに海老原一郎の代表作と言えるでしょう。
天井装飾の柔らかな灯りの下でマイヨールの《ヴィーナス》が静かに佇んでいます。

庭園

敷地内には6つの野外彫刻が配され、自然を背景に作品のダイナミックな魅力を味わうことができます。同じ作品でも、季節やその日の天気によって受ける印象が変わることも。

芝生の広場やテラスは飲食が可能なスペースです。レジャーシートを敷いて芝生の上でお弁当を食べたり、テラスでコーヒーを片手に本を読んだりと、思い思いのひとときを過ごすことができます。

春は10種250本の桜が次々と咲き、夏は水面にスイレンやヒツジグサが浮かびます。秋はリンドウが足元を彩り、頭上には鮮やかに色づいたモミジが広がります。やがて冬が訪れると、池にオシドリたちが飛来し、ユキワリソウの開花とともに春の足音が聞こえ始めます。

庭園の利用について

  • ペットを連れての入園はご遠慮ください。
    (ただし盲導犬・介助犬・聴導犬は可)

  • バイクや自転車の乗り入れはできません。
    駐輪場をご利用ください。

  • 動植物の採取は禁止されています。

  • 人に当たる恐れのあるボール、遊具の使用は禁止されています。

  • 池、流れには入らないでください。

  • アルコール類の持ち込みは禁止されていいます。

  • 指定場所以外での喫煙はご遠慮ください。

  • ゴミは各自でお持ち帰りください。

  • 園内では係員の指示に従ってください。

スケッチをされる方へ

  • グループでお越しの場合、お問い合わせフォームから申込みが必要です。

  • 通行の妨げにならないよう、ほかの来園者にご配慮ください。

  • 洗筆に使用した水や油は敷地内で廃棄せず、お持ち帰りください。

レストラン べルヴェデーレ

イタリア語の「美しい眺め」という店名のとおり、 窓からの景色を楽しみながらお食事ができるレストランです。千葉県産の食材を ふんだんに使用したイタリア料理をお召し上がりいただけます。
営業時間 10:00-17:00 (L.O. 16:30) 電話 043-498-0848

茶席

1階展示室の一角にある立礼式茶席では、美術鑑賞の合間にお茶と和菓子でひと休みができます。テーブルと椅子のお席ですので、どなたでもお気軽にお立ち寄り頂けます。

  • 営業時間 10:30-16:30

  • 席数 8席

※ご利用には入館チケットが必要です
※予約不可

抹茶と上生菓子 800円
日本橋・山本山の抹茶と上生菓子のセットがお召し上がりいただけます。
特別展示に併せて、和菓子作家監修の特別メニューが用意されることもあります。

現在開催中の展示「ジョセフ・アルバースの授業 色と素材の実験室」

ジョセフ・アルバース(1888–1976)は画家、デザイナー、そして美術教師として知られています。ドイツで生まれた彼は、造形学校バウハウスで学び、のちに教師となって基礎教育を担当しました。同校の閉鎖後は渡米し、ブラックマウンテン・カレッジや、イェール大学に勤務。戦後アメリカの重要な芸術家たちを育てました。

アルバースは授業の目的を、「目を開くこと」だと述べています。彼はただ知識を教えるのではなく、学生に課題を与え、手を動かして考えることを促しました。そうして答えを探究することで、色彩や素材のもつ新しい可能性を自ら発見させようとしたのです。そしてアルバース自身もまた、生涯にわたり探究を続けました。そこから生み出されたのが、バウハウス時代のガラス作品から、家具や食器などのデザイン、絵画シリーズ〈正方形讃歌〉に至る、驚くほど多様な作品群です。
本展ではアルバースの作品を、彼の授業をとらえた写真・映像や、学生による作品とともにご紹介します。制作者/教師という両側面からアルバースに迫る、日本初の回顧展です。
※会期中に一部展示替えがあります
 前期:7月29日(土)-9月18日(月)
 後期:9月20日(水)-11月5日(日)

会期:2023年7月29日(土) - 11月5日(日)
時間:9:30-17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜(ただし9月18日、10月9日は開館)、9月19日(火)、10月10日(火)

主催:DIC株式会社
特別協力:ジョセフ&アニ・アルバース財団、東京国立近代美術館
協力:エヒメ紙工株式会社、グリム・エヒメ株式会社、株式会社竹尾、DICデコール株式会社
後援:千葉県、千葉県教育委員会、佐倉市、佐倉市教育委員会

企画展の詳細についてはこちらから

美術館基本情報

開館時間

9:30 – 17:00 ※入館は16:30まで

休館日

月曜日
※祝日の場合は開館し、翌平日に休館

  • 年末年始

  • 展示替え、メンテナンス期間

入館料

『ジョセフ・アルバースの授業 色と素材の実験室』
2023年7月29日(土)-11月5日(日)

一般 1,800円
学生/65歳以上 1,600円
高校生以下 無料

『コレクション展示』

2023年11月7日(火)-12月24日(日)

一般 1,200円
学生/65歳以上 1,000円
高校生以下 無料

  • 障害者手帳をお持ちの方と付き添い1名 無料

  • 「学生」は専門学校・予備校の生徒を含みます

  • 「高校生」は高等専門学校の生徒を含みます

  • 高校生以上の方は学生証を、65歳以上の方は年齢の証明できるものをご提示ください

  • 企画展のチケットでコレクション展示もご覧いただけます

入園料

無料

住所

〒285-8505 千葉県佐倉市坂戸631
電話 050-5541-8600(ハローダイヤル)
交通アクセスについてはこちら

その他

・美術館の主なコレクションについてはこちら
・過去の企画展のアーカイブはこちら
・ミュージアムショップについてはこちら

DIC川村記念美術館公式ホームページ

色彩科学の世界的日本企業が手掛ける「DIC川村記念美術館」。西洋近代美術から日本の屏風絵まで幅広い作品を巡り、季節の移ろいとともに様々な顔を見せる約3万坪の緑豊かな庭園を散策することも出来る日本屈指の私立美術館に、この秋は是非足を運んでみてはいかがでしょうか。




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