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ダージリン



 マイルドミントに緑茶の味が滲んでくる。本日の香りはラムネ。安いバスボールが香っている。


 最近上手く寝れなくなっている。最初は夜から逃げるためにとった細やかな抵抗だった。活動時間を少しでも伸ばして少しでも前に進もうと思っていた。今考えれば起きている時間、何をやっているわけでもないし極めようとしていることもなかった。ただ寝ないことで蝕まれるこの身体を、気怠さを感じていたかったのかもしれない。

 でも今は違う。遮られる視界と窓に張り付いた朝に目を背けている。視界が遮られることは怖い。いつか入った戦慄迷宮然り闇は人間を考えさせすぎる力がある。脳内のイメージが鮮明に映像化される感覚がある。怖い。怖い。これからのこと。横にいたはずの人。前を歩く人。そのすべてが自分を不安にさせる。怖い。

 そんなことを考えながら今日も目をあける。もう日は高くなっている。10時36分に一度目を覚ます。再び目をあけた11時ぴったり。昨日の飲み会の会場であった机は空いた地ビールの瓶とクッキーのごみで散らかっていた。昨日の賑やかな雰囲気はもうそこには無かった。今日は朝からずっと一人であった。まるで昨日からそうであったかのように感じた。

 丁寧な暮らしなんかとは程遠い、それはとても怠惰な、自堕落な、陰翳な生活。決められていることは今日を生きること、水をたくさん飲むことそれだけ。それだけを守って生きていく。


 何度目かの長風呂ブーム。それはバスボールを買ったことに起因している。中からおまけが出てくるような安いもの。2時間以上を目安に。と言いつつ気付けば3時間入っていることも多い。昔から他人が出す生活音と無音が苦手で普段はそれらが気にならなくなるぐらいの音量で音楽をかけている。でも今日気付いたことは、風呂なら無音に耐えられるという事だった。3時間も風呂場に留まっている間、読みかけの小説を読む。風呂場が作り出す独特の無音空間は心地が良かった。『不器用で』好きな芸人が書いた小説。とても面白かった。読みながら自分も『不器用』なのかもしれないと考えた。


 また眠れない夜に書こうと思う。言語化の波が来た時に。キーボードのタイピングの練習に。私はまだ眠れない。私はまた眠れない。


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