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切実に、旅に行きたい

2020年の春は、10年以上ぶりにストラスブールに行っていた。何か月も計画を練りに練り、素晴らしいお菓子の旅の計画だった。その頃すでに日本でも学校が休校になったりしていたけど。ロックダウンなんて、そんなことが起こるとは思いもよらなかった。旅先のフランスで、うっかりと私はロックダウンを体験してしまった。写真は、そのロックダウン直前の、奇跡のような1日。麗らかな快晴の日曜日の昼間なのに、観光地のプチット・フランスに誰もいない。怖くて美しい風景。非日常。時間が止まった世界にポトリと落とされた気分。ある意味貴重な体験だけど、帰国までのリアル脱出ゲームは、ドラマティックでスリリングで、ずっと浮足立っていて、映画みたいな日々だった。

そこから、丸2年が経とうとしています。まだ小学校3年生だった娘も、5年生になり、もうあの頃と全然違う。子供の2年は大人とは違うスピードで過ぎていく。ここで失ってしまったいろいろな機会は、世界中の子供達にとってどんな影響があるのだろうと、どうしても不安に思ってしまう。すごい時代を生きてしまったものです。でも、戦争してばかりいた時代よりはずっとずっと幸せだと思う・・・と、戦争を引き合いに出していたマクロンのロックダウンの演説を思い出しながら、自分や子供をなぐさめたりしている。
帰国してからも、60人のスタッフがいる会社の経営者としての重圧はかなり大きくて、ロックダウンを体験してしまった世界の大きな変化に対してのストレスも時差ボケも日本の政治家に対しての不満やら感染症の怖さなども影響して、自律神経はガッタガタだった。そりゃそうだ。それから2年間で、会社もいろんな変化があり、それぞれの理由で辞めてしまったスタッフもいるけれど、また集まってくれたスタッフは若い人も多く、即戦力で活躍してくれている人もいて、客観的に見たら、新陳代謝してすごくパワーに溢れたチームに変化したような気もします。ぷはー。romi-unieがなくならなくてよかったなぁ。経営者として挑戦し続ける原動力は、この素敵で居心地のよいお菓子の世界を否定されたくない、私の反骨精神なのだと思う。少しずつ大切に積み上げてきたものだもの。
小学生の頃に、本を見ながら始めたお菓子作りが面白くて・・・、お菓子教室に通って、パティシエ修行をしたり、フランスに留学に行ったり、イベントをしたり、お菓子のレシピ本をつくったり、自分のお店を作ったり・・・50年の人生を振り返ってみたら、それこそ小学生の私が、夢みるような日々なのだと思う。私がパティシエ修行をちょっとだけやった頃には、あまーいお菓子の世界のイメージは否定され続けて、ほんとに奴隷みたいな生活だなと日々思っていた。今でも時々「そんなんじゃやっていけないよ」と否定されることもある。でも想いを突き通してきて、できてきた。やっぱりお菓子の世界はいつでもキラキラしていて裏切られたことはない。職人の道はスルリと諦め、うまく自分が納得できる道を嗅ぎつけて生きてきたなと思う。自分自身の想いを大事にして、感覚のアンテナを研ぎ澄ませ、しっかり考えて挑戦も努力もしたと思うし、ふってきた幸運も味方してくれたけど、この道は、それなりに自分で必死でつかんだ人生だ。
まだまだ知らないお菓子の素晴らしい世界、豊かな体験は、旅をすると見つけてしまう。偶然の出会いだけれど、絶対心に何かしら残っているもので、それを大切にしながら、形にして、今につながっている。見たり食べたり嗅いだり、体験を通して心が動いたことが、心の引き出しにしまわれていて、それが偶然の重なりでお店づくりやお菓子づくりに繋がってくる。ヴェルサイユ宮殿に行っても、お城の観光というよりも、フランス菓子の歴史が通った花開いた、その地を感じている。一般的な観光のイメージよりも、私はそこでだいぶマニアックな聖地巡礼を体験していたりする。最近は、世の中にずいぶんと推し活が周知されることになってきたけれど、そうだ。私はずっとお菓子の推し活をしているのだと思う。

お菓子の推し活としての旅の体験は、偉大だ。その地で文化や風土、いろんな体験を通して、アイデアの種を心に貯める大切な学びの時。未知の体験に包まれる。とにかくその国や街角の景色、空気感、小さな習慣の違いや、知らないフルーツの香り、豊かな味わいのお料理、趣のある食器、外国人ゆえのちょっとした疎外感、歴史を感じる調度家具のあるお店の内装、日々の営みにひっそりと溶け込む感じ、お客さんのざわめきやムード、小粋なスタッフとのやり取り、飲んだことない複雑な味のお酒・・・あああああ!とにかく、そろそろ旅が必要です。不自由な世の中を2年間ほど過ごし、いろんなことを乗り越えて、またここじゃないどこかで、いろんなことを吸い込む必要があることを、ひしひしと感じている。とにかく、旅に出たい。まずは途中で帰ることになったフランスをリベンジしたい。その体験は、世の中に還元しますので、どうぞ旅に行けるように運命を導いてください!と神様に祈りながら、実現しないかもしれない旅の計画を立てよう。心の安定のために。

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