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好物

今回は食べ物の話。味覚というか好物というのはかなり主観的なもので時と場合によって同じ物を食べても感じ方が大きく変わる。

例えば子供の頃は好きじゃなかったのに大人になったら好んで食べるようになった嗜好品。私の場合はコーヒーがそれにあたる。初めて飲んだときは苦くていまいちだな、と思ったのに、香りにつられてなんとなく飲み続けるうちに大好きな飲み物のひとつになった。慣れとともにその味が好みになる例だと思う。

あまり好きではない食材だったものが、たまたま美味しい個体に出会ったおかげでその後好きになる、というパターンもある。例えばビール。私はもともとビールは好んで飲まなかった。日本で飲める一般的なビールの味がなんとなく好きではなかったからだ。ところが、ヨーロッパへ行って種類が豊富なドイツビールに出会ってビールに対する印象が変わった。美味しいビールもあるんだ、と感じたのだ。それをきっかけに、それまであまり飲まなかった日本のごく一般的なビールもたまに飲むようになった。
同じようなことがアスパラでも起きた。野菜の中でもアスパラはどちらかというとあまり好きではない部類だったのだけれど、これもヨーロッパへ行って変わった。スウェーデンでは春になると地元の畑で採れたアスパラが出回る。他の国ではまず食べられないこのアスパラが絶品なのだ。塩茹でしてそのまま食べるだけで美味しい。この絶品アスパラは他の国では食べられないのだけれど、この味を知って以来、それまでは決して買わなかったアスパラを日本のスーパーでもたまに買うようになった。

普段、周りに豊富にあって簡単に手に入るものが、環境が変わって入手困難になると恋しくなる、ということも起きる。これまたスウェーデンに住んでいたときの話になるけれど、むこうは日本の食材がほとんど手に入らなかった。そうなると突然、それまではたいして好きでもなかったものが欲しくなったりする。例えば柚子胡椒とか三つ葉とか。日本に住んでいるときはあえて食べなかったのに、海外へ行って手に入らなくなったら途端に恋しくなって、見つけると好物のように大切に食べるようになった。
カステラも日本にいるときは特別に好きなお菓子ではなかったのに、海外在住時にたまに日本からのお客さんがおみやげで持ってきてくれて、久しぶりに食べる日本の味は懐かしさもあってとても美味しく感じた。それ以来好きなおやつのひとつになった。

日本と海外、で言うと逆のパターンもある。スウェーデンの伝統的なお菓子にセムラというものがある。これは見た目はシュークリームに似ているのだけれど、シューではなくてカルダモン風味のパンのような生地で、はさんであるのも甘くない生クリームとマジパンだ。シュークリームを想像して食べるとがっかりする、という日本人あるあるなお菓子だ。これを毎回がっかりしながら数年間食べ続けたら、あら不思議、日本へ帰ってきたらたまに無性に食べたくなるのだ。手に入らなくなった途端に食べたい物、懐かしい味になってしまういい例だ。

というわけで、好物というのは意外と簡単に変わるものだなぁと、ご近所さんにいただいたカステラを食べながらふと思ったので、忘れないうちに文章化してみた。

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