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[西洋の古い物語]「金属王」

こんにちは。
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
今回は、怠け者の若者が鉱山の支配者「金属王」に出会って心を入れ替えたお話です。
ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。

※画像はルイ・イカール「ピンク・レディー」(1933年)です。物語とは関係ないのですが、そろそろ紫陽花が咲き始めましたので、つい心惹かれてパブリック・ドメインからお借りしました。

「金属王」
 
ずっと昔のこと、金銀の鉱脈が岩に走り、鉄の鉱層で綴じ合わされた高い山がありました。時々、山腹の巨大な峡谷では、轟音と紅蓮の炎と雲のような黒煙が噴き出すことがありました。これを見た谷間の村の人々は、「ほら!金属王が鍛冶場におられるぞ」と言うのが常でした。村人たちは、山の薄暗い奥深く、金属王とその配下の鉱山の霊どもが金や鉄の中で作業をしていることを知っていたのでした。
 
谷間を嵐が荒れ狂う時には、金属王は住まいの洞窟を後にして風の翼に乗り、雷鳴のような叫び声を轟かせながら赤熱の雷光を谷間に投げつけ、そこここで農夫や家畜を殺したり、家や納屋を燃やしたりしました。
 
しかし、お天気が穏やかで、そよ風が洞窟の入り口あたりで優しく吹く時には、金属王は山の深いところにある鍛冶場に戻り、そこで鋤の刃や他にもいろいろな鉄の道具を作りました。それらを彼は、貧しい農夫たちへの贈り物として、洞窟の玄関の外に置いておくのです。
 
たまたまある時、その谷間に一人の怠け者の若者が住んでおりました。彼は畑を耕すことも、手仕事に精を出すこともしようとはしませんでした。彼は強欲でしたが、採掘せずに黄金を手に入れたい、労働せずに富と名誉を得たい、と望んでいました。そこである日、若者は金属王の山の宝物を見つけようと出かける次第となったのです。
 
点灯したランタンを片手に持ち、もう一方の手には手斧を携え、小枝の束を小脇に抱えて彼は暗い洞窟へと入っていきました。湿った空気が彼の頬を打ち、蝙蝠は彼の面前で翼を羽ばたかせました。恐怖と寒さに震えながら、彼はアーチのような黒ずんだ天盤の下の長い通路を急ぎました。進みながら彼は、戻ってくるときに彼を正しく導くよう、小枝を一本また一本と落としていきました。
 
遂に彼は通路が左右の二方向に枝分かれしている所に着きました。右手の小径を選んで彼は歩き続け、とうとう鉄のドアへとやってきました。そのドアをハンマーで
二度叩きました。ドアはさっと開きました。そして強い空気の流れが勢いよく噴き出してきて、彼の明かりを吹き消しました。
 
「入れ!入ってこい!」と雷の轟音のような声が叫びました。その声は洞窟中に反響しました。
恐怖にほとんど打ちのめされ、体中を震わせながら、若者は入りました。一足進むや、どっしりとした柱に支えられた丸天井から眩しい光が照りつけ、水晶の側壁に沿って奇妙な影のような姿がひらひらと飛び回っておりました。
 
巨大な体躯、荒々しい目をした金属王は、鉱山の異形の霊たちに囲まれて、純銀の塊の上に座っておりました。彼の前には輝く黄金が山盛りに積まれてありました。
「入れ、我が友よ!」彼は再び叫びました。今回も声の反響が洞窟中に轟き渡りました。
「近う寄れ、そして儂の隣に座るのじゃ。」
 
若者は真っ青になって震えながら進み、銀の塊に腰掛けました。
「もっと宝を持ってこい」と金属王は叫びました。彼の命令に鉱山の霊どもはまるで夢のようにはばたいて飛んでいき、一瞬後には戻ってきて、驚愕している若者の前に赤金(金に銅を含ませた合金)の棒や銀貨の山、貴重な宝石を高々と積み上げました。
 
この全ての宝物を見ると、若者の心臓は宝物をつかみたいという欲望でもう破裂しそうになりました。なのに、手を延ばそうとしても、腕を動かすことも、足を上げることも、首を回すこともできないのです。
 
「この宝を見るのじゃ」と金属王は言いました。「だが、もしお前が我らとともに鉱山で働くなら得られるだろうものに比べれば、これはほんの一握りに過ぎぬ。仕事はきついが報いはたっぷり!そう言いさえすれば、1年と1日の間、お前を鉱山の霊にしてやろう。」
 
若者は恐ろしくてたまりませんでしたが、口ごもりながら「いいえ」と言いました。「いいえ、私は働かないためにやってきたのです。あなた様からいただきたいのは、ここに置いてある黄金の棒1本と宝石一握りだけです。それらが私のものになれば、私は村の若者たちよりも良い服を着て、自分の馬車に乗ることができますから。」
 
「怠け者の恩知らずな恥知らずめ!」と、金属王は腰掛けから立ち上がりながら叫びました。その姿は頭が洞窟の天盤につくほど、まるで塔のように聳え立つかと見えました。「お前は、儂の鉱山の霊どもの重労働によって得られた宝を、支払いもせずに手に入れようというのか!立ち去れ!家へ帰れ!労せずして得るような財宝をここに求めるでない!不満ばかり言うお前のその性分を捨て去れ、そうすればお前は石を黄金に変えることができるのだ。お前の庭と畑をよく掘り返して、種をまき、勤勉に世話をせよ、そして山腹を探せ。そうすればお前は自らの勤勉によって金銀の鉱山を手に入れるであろう!」
 
金属王が話し終えるか終えないかのうちに、鴉のような金切り声や夜鷹の鳴き声のが聞こえ、すさまじい嵐の大風が若者に激しく吹きつけました。そして彼をつかみ上げると暗い通路を追い立て、山腹へと追い落としました。一瞬の内に彼は自分の家の戸口の上がり階段の上にいるのに気付きました。
 
その時から、不思議な変化がこの若者に起りました。彼はもう怠けたり一攫千金を夢見たりせず、朝も昼も晩も勤勉に働き、畑に種をまき、庭を耕し、山腹を採掘しました。何年もの年がやって来ては過ぎ去りました。彼がやったことはすべてうまくいき、その国一番のお金持ちになりました。しかし、彼は、金属王や鉱山の霊たちに二度と会うことはありませんでした。
 
 
「金属王」のお話はこれでお終いです。

心を入れ替えて自分のなすべき仕事に精を出した結果、若者はお金持ちになり、きっと幸せにもなったことでしょう。
私も、疲れて帰る道すがら、もっと楽でお給料の良い仕事があればいいなあ、なんて思うこともありますが、金属王の言う通り、不満ばかり言っていないで、なすべき仕事をコツコツ誠実に続けていくことが大切なんだなあ、とあらためて教えられた気分です。

このお話の原文は以下の物語集に収録されています。

今回もお読み下さり、ありがとうございました。
次回をどうぞお楽しみに。

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