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[西洋の古い物語]「踊る12人のお姫様」第3回

こんにちは。
いつもお読みくださり、ありがとうございます。
12人の美しいお姫様たちの秘密の物語、完結編です。
ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。
※ 画像はカイ・ニールセンによる挿絵です。パブリック・ドメインからお借りしました。

「踊る12人のお姫様」(第3回)

 その日、花束をこしらえると、ミシェルは銀の垂れ飾りのついた枝を一番年下のお姫様に渡すつもりの花束の中に隠しました。

リナはそれを見つけてとても驚きました。でも、お姉様方には何も言わずにおきました。楡の木陰を歩いているとき偶然お庭番の少年に出会うと、彼女は彼に話しかけるかのように突然立ち止まりましたが、考え直すと、彼女は歩いて行ってしまいました。

その晩、12人のお姫様たちはまた舞踏会に行きました。夢想屋も彼女たちについて行き、リナのボートに乗って湖を渡りました。今回、ボートがとても重く感じると訴えたのは貴公子のほうでした。
「暑さのせいですわ」とリナは答えました。「私もとても暑いのですもの。」

舞踏会の間中、彼女はあちらこちらお庭番の少年を探して見回しましたが、彼の姿は一度も見えませんでした。

帰り道、ミシェルは黄金が散りばめられた葉の森から枝を取りました。今度は一番上のお姫様がその枝が折れる時に立てた音を聞きました。

「何でもありませんわ」とリナは言いました。「お城の小塔をねぐらにしているフクロウが鳴いただけですわ。」


 起床するとすぐリナは自分の花束の中にその枝を見つけました。お姉様方は階下に下りましたが彼女は少しの間あとに残り、牛飼いの少年に言いました。
「この枝はどこにあったの?」
「お姫様がよくご存知の通りです。」とミシェルは答えました。
「つまり、あなたは私たちについて来たということね?」
「はい、お姫様。」
「どうやって?私たち、あなたを一度も見なかったわ。」
「隠れていたのですよ」と夢想屋は静かに言いました。
お姫様は一瞬黙り、そして言いました。
「あなたは私たちの秘密を知っているのね!誰にも言わないでちょうだい。あなたが慎重にしてくれるなら、ほら、これがお礼よ。」
そう言って彼女は金貨の詰まった財布を少年に投げてよこしました。
「自分の沈黙を売りは致しませんよ」とミシェルは答えました。そして彼は財布を拾い上げることなく行ってしまいました。

 それから三夜の間、リナは何もおかしなことを見たり聞いたりしませんでした。四日目の夜、彼女はダイアモンドが散りばめられた葉の森の中でカサカサという音を聞きました。その日、彼女の花束にはダイヤモンドの木の枝が入っておりました。

彼女は夢想屋を脇に呼び、厳しい声で彼に言いました。
「お父様が私たちの秘密にどんな対価を約束なさっているかあなたは知っているわね。」
「知っています、お姫様。」とミシェルは答えました。
「あなた、お父様に申し上げるつもりじゃないわよね。」
「そんなつもりはありません。」
「怖いの?」
「いいえ、お姫様。」
「じやあ、どうしてそんなに慎重なの?」
しかし、ミシェルは何も言いませんでした。


 リナのお姉様たちは彼女がお庭番の少年と話しているのを見て、彼女をからかいました。
「あの子とどうして結婚しないの?」と一番上のお姉様が尋ねました。「あなたもお庭番になれば?素敵なお仕事だわ。公園の隅の小屋に住んで、旦那さんが井戸から水を汲み上げるのを手伝うのよ。それに、私たちが起きたらあなたが花束を渡してくれるのよ。」

リナ姫はとても腹を立てました。夢想屋が彼女に花束を渡すと、彼女は蔑んだ様子でそれを受け取りました。

ミシェルはこのうえなく恭しく振る舞いました。彼は決して彼女の方に目を上げませんでした。しかし、リナは一日中、彼がほとんど常にそばにいることを感じていました。姿は全く見えなかったのですが。

 とうとうある日、彼女は決心して全てを一番上のお姉様に話しました。
「なんですって!」とお姉様は言いました。「そのいたずらっ子は私たちの秘密を知っているのに、あなたったら私に何も言わなかったのね!彼を追い払わなくちゃ。一刻も無駄にできないわ。」
「でも、どうやってですの?」
「あら、勿論、牢獄つきの塔に連れて行かせるのよ。」
といいますのも、これが、昔、知りすぎた者たちを美しいお姫様たちが片付けた方法だったわけなのです。

でも、驚いたことに、末のお姫様はお庭番の少年の口封じをするこの方法を全く快く思っていないようでした。だって、彼はお父様に何も言っていないのですからね。


 この問題は他の10人の姉妹にも提起されるべきだということで意見が一致しました。すると、皆が一番上のお姉様に賛成しました。そこで末のお姫様は、もしお姉様たちがお庭番の少年に指一本でも触れたなら、彼女自らお父様に皆の靴の穴の秘密をお話ししに行くと宣言しました。

結局、ミシェルを試してみることに決まりました。つまり、彼を舞踏会に連れて行き、お夜食の後で彼に魔法の惚れ薬を飲ませて、他の者たちのように彼に魔法をかけようというのです。

お姫様たちは夢想屋を呼びにやり、どうやって彼女たちの秘密を知ったのかを尋ねました。しかし、彼は黙ったままでした。

そこで一番上のお姫様は、皆で合意したことを彼に命じました。有無を言わせぬ口調でした。
彼はただ、「かしこまりました」とだけ返事をしました。

本当は彼は、姿を見られずにお姫様たちの会議の場にいて、全てを聞いていたのでした。しかし、彼は惚れ薬を飲むことを心に決めていました。愛する人の幸せのために我が身を犠牲にしようと心に決めていたのでした。

でも、舞踏会では他の踊り手たちの傍らでみすぼらしい姿をさらすのは嫌でしたので、彼はすぐにあのローレルのところへ行き、こう言いました。
「僕の可愛いローズ・ローレルよ、僕は黄金の熊手でお前に土をかぶせ、黄金のバケツで水をやり、絹のタオルで拭ってあげたのだよ。僕を貴公子のように装わせておくれ。」

美しいピンク色の花が現われました。ミシェルがそれを摘み取りますと、たちまち彼はあの末のお姫様の目のように黒いビロードの衣装に包まれました。似合いの帽子にはダイアモンドでできた枝の形の飾りがついており、ボタン穴にはローズ・ローレルの花がさしてありました。

このようないでたちで彼はベロイユ公爵の御前に伺候し、お姫様たちの秘密を明らかにするよう試みるお許しを得ました。彼は実に気品に満ちて見えましたので、誰も彼が誰なのかわかりませんでした。


 12人のお姫様たちは寝室へと階段を上がっていきました。ミシェルもついていき、彼女たちが出発の合図をするまで開かれたドアの後ろで待っておりました。

今回は彼はリナのボートで湖を渡りませんでした。彼は腕を一番上のお姫様にお貸しし、一人一人と順番に踊りました。彼があまりに優美なので皆は彼と踊ることを喜びました。とうとう末のお姫様と踊る時がやってきました。彼女は彼がこの世で最高のお相手だと思いました。しかし、彼は彼女に一言も話しかけようとはしませんでした。

彼がリナを座席へと連れて帰りますと、彼女はからかうような声で彼に言いました。
「あなたの望みはすっかり叶えられたわね。あなたったら、まるで貴公子のような扱いを受けているのですもの。」
「ご心配はいりません」と夢想屋は答えました。「あなたを決して庭番の妻にはさせませんよ。」
末のお姫様は驚いた顔で彼をじっと見ました。彼女の答を待たずに彼はそばを離れました。

サテンの舞踏靴が擦り切れ、バイオリンが止みますと、黒人の少年たちが食卓を整えました。ミシェルの席は一番上のお姫様の隣で、末のお姫様の向いでした。

彼女たちは彼に一番おいしいお料理と最高に香り高いワインを与えました。もっととことん彼をのぼせあがらせようと、あちらこちらからお世辞や嬉しがらせが彼の上に積み上げられました。

しかし、彼はワインにもお世辞にも酔わないように気を付けておりました。


 とうとう一番上のお姉様が合図をしました。すると黒人の侍童の一人が大きな黄金の杯を持ってきました。

「この魔法のお城にはあなたにお見せする秘密はもう何もございませんわ」と彼女は夢想屋に言いました、「あなたの勝利に乾杯いたしましょう。」

彼は末のお姫様に名残おしそうな眼差しを投げました。そしてためらうことなくその杯を持ち上げました。

「飲んではだめ!」突然末のお姫様が叫びました。「私、お庭番と結婚してもよくってよ。」
そして彼女はわっと泣き出しました。

「飲んではだめ!」リナ姫はミシェルが黄金の杯から飲もうとするのをとめます。             (カイ・ニールセンの挿絵より)

ミシェルは杯の中身を後ろに投げ捨て、テーブルにぶちまけました。そしてリナの足元にひれ伏しました。残りの貴公子たちも同じようにお姫様たちの膝元に跪きました。お姫様たちは銘々の夫を選び、自分のそばに立たせました。魔法が解けたのでした。

 12組の恋人たちはそれぞれボートに乗り込みました。ボートは囚われていた他の貴公子たちを渡らせるために何度も往復しました。それから全員があの3つの森を通り抜けました。彼らが地下通路のドアを通ったとき、大音響が聞こえました。まるであの魔法のお城が地面に崩れ落ちたかのようでした。

一行はまっすぐベロイユ公爵のお部屋へと進みました。公爵は丁度お目覚めになったところでした。ミシェルは手にあの黄金の杯を持っていました。そして彼は舞踏靴の穴の秘密を明かしました。

「それでは、選ぶがよい」と公爵は言いました。「どの姫でもお前の好きな姫を。」

「私は既に決めております」とお庭番の少年は答えました。そして彼は末のお姫様に手を差し出しました。お姫様は顔を赤らめ、眼差しを伏せました。


 リナ姫は庭師のおかみさんにはなりませんでした。反対に、夢想屋が貴公子となったのでした。しかし、結婚式の前にお姫様は、彼がどのようにして秘密を明らかにできたのかを話してくれるべきだ、と主張しました。

そこで彼は彼を助けてくれたあの2本のローレルを見せました。そして彼女は、2本のローレルを根元から切って火の中に放り込んでしまいました。思慮深い娘さんならそうするでしょう。だって、ローレルを残しておいたら、妻よりも彼の方があまりにも有利ですものね。
そんなわけで、田舎の娘さんたちはこんなふうに歌うのです。

私たちもう森には行かないわ
ローリエは切られたもの

そして夏の月明かりのなか、踊り続けるのです。

「踊る12人のお姫様」はこれでお終いです。

この物語が収録されている物語集は以下の通りです。

https://www.gutenberg.org/cache/epub/540/pg540-images.html

Title: The Red Fairy Book
Editor: Andrew Lang


最後までお読みくださり、ありがとうございました。
魔法のローレルの助けがなくても、ミシェルは愛するリナ姫とずっと仲良く幸せに暮らしたことでしょうね。

次のお話をどうぞお楽しみに。

「踊る12人のお姫様」第1回はこちらからどうぞ。


「踊る12人のお姫様」第2回はこちらからどうぞ。


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