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[西洋の古い物語]「楽しきイングランドの聖ジョージ」(第2回)

こんにちは。
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
竜退治で有名な聖ジョージのお話の2回目、竜との闘いの場面です。
ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。

※画像は、ギュスターヴ・モロー作「聖ゲオルギウスと竜」より。聖ゲオルギウス(英語名では聖ジョージ)が馬上から槍で竜を突こうとしている場面です。

 
「楽しきイングランドの聖ジョージ」(第2回)
 
というわけで、聖ジョージが愛馬ベヤードに乗って進んでいきますと、海岸へとやってきました。そこには、エジプトの地へと渡るのに都合の良い船が停泊しておりました。その船に乗り込み、長い航海の後、彼はかの地(エジプト)に到着しました。その頃には、夜が静かな翼を広げ、暗闇が全ての上に垂れ込めておりました。
 
とある貧しい隠者の庵を見つけましたので、聖ジョージは一夜の宿を乞いました。すると、隠者は答えて言いました。
「楽しきイングランドの騎士様ですね、と申しますのは、あなた様の胸当にかの国の紋章が刻まれているのが見えますので。あなた様は当地へ不吉な時においでになりました。
 
今という時は、生きている者は死者の埋葬さえかなわないのです。と申しますのも、恐ろしい竜によって行われているむごたらしい破壊のためなのです。竜は昼も夜も国中をうろつき回っております。もし毎日一人の無垢な乙女を貪り喰らうことができないと、あやつは死へと至る疫病を人々の間に送ってよこすのです。
 
そしてこんなことが24年間も止むことなく行わられ、そのために今では国中にたった一人の乙女しか残ってはおりません。それは王様のご息女、美しいサビア様です。そして、明日、あの方は死なねばならないのです。どなたか勇敢な騎士様があの怪物を殺してくださらないかぎり。そのような騎士様に王様は王女様を娶らせ、然るべき時にエジプトの王位を譲られることになっております。」
 
「王位には関心はありませんが」と聖ジョージははっきりと言いました。「しかし、その美しい乙女御を死なせるわけにはまいりません。私が竜を殺しましょう。」
 
というわけで、翌日の明け方、彼は武具をしっかりと身に付け、兜の紐を結え、手に愛剣アスカロンを携えると、ベヤードにまたがり、竜の谷間へと入っていきました。
 
道中、彼は、年老いた婦人たちが啜り泣き、嘆きながら行進していくのをに出会いました。彼女たちの真ん中には、彼が見たこともないほどの美しい乙女がおりました。
 
同情につき動かされて彼は馬から降りました。そして、その姫君の前に低くお辞儀をしますと、これから恐ろしい竜を殺しますので、父君の宮殿へとお戻り下さい、と頼みました。その言葉に美しいサビアは微笑みと涙で感謝を示し、彼の求めに従いました。そこで、彼は再び馬にまたがり、冒険へと乗り込んで行きました。
 
さて、勇敢な騎士の姿をとらえるや、竜は革の張った喉から雷鳴よりも恐ろしい音を立て、ゾッとするような巣穴から転がり出てきて、燃える翼を広げ、敵に襲いかかる準備を整えました。
 
その巨大さといい、外見といい、最も豪胆な心臓をも震えさせたことでしょう。肩から尾までゆうに40フィート(約12メートル)はあり、身体は銀の鱗に覆われ、腹は黄金のよう、そして炎を上げる翼には一面ベッタリとした赤い血が付いておりました。
 
竜の攻撃はあまりに激しく、最初の突撃で騎士は危うく地面に落とされるところでした。しかし、体勢を立て直すと彼は竜に激しい槍の一突きを食らわせましたので、槍は粉々に砕け散りました。すると獰猛な怪獣は尾で彼を荒々しく打ったものですから、馬も乗り手もともに投げ出されてしまいました。
 
この時、大きな幸運により、聖ジョージは花咲くオレンジの木陰へと投げ込まれたのでした。その香りには、いかなる有毒な獣もその枝が届く範囲には入って来れない、といった効能がありました。
 
この木陰で勇敢な騎士は一息つき、体勢を立て直しますと、熱い勇気に満ちて立ち上がって闘いへと突進し、焔を吹く竜の磨いた如くに輝く腹を、頼りの愛剣アスカロンで切り付けました。すると、そこから、腹が真っ二つに裂けるほどのものすごい量の真っ黒な毒汁が迸り出て、騎士の武具に落ちかかるほどでした。
 
今回もあのオレンジの木陰が避難場所となりましたが、もしもあの木が無かったなら、その血は楽しきイングランドの聖ジョージに害をなしたことでしょう。その木陰で彼は、闘いの決着は至高者の御手の中にあると悟り、跪いて、自らが優勢となるような力が与えられんことを祈りました。そして、恐れを知らぬ勇敢な心をもって彼は再び前進し、焔を吹く竜の燃える片方の翼の下に切り付けました。剣は心臓を貫き、周りの草は一面死にゆく怪獣から流れ出した血で真っ赤になりました。
 
そこでイングランドの聖ジョージは竜の恐ろしい首を切り落とし、闘いの冒頭、怪獣の鱗に覆われた背中に当たって砕けた槍でこしらえた棒の先にその首を吊るしました。そして、彼は愛馬べヤードにまたがり、王様の宮殿へと進んでいきました。(続く)
 
 
「楽しきイングランドの聖ジョージ」第2回はこれでお終いです。

このお話の原文は以下の物語集に収録されています。

今回もお読み下さり、ありがとうございました。
次回をどうぞお楽しみに。

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