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【純潔攻防戦】予防接種の折チュー案





『やだ!!』

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「ヤダじゃない!!いくよ!!」


『ヤダヤダヤダ!!無理!!絶対いや!!』




ぐんっと、ソファーにうつ伏せでしがみついて一向に動こうとしない絵梨花


もう今年で3回目だが、毎度当日の絵梨花は全く言うことを聞かない。一種の冬の風物詩と言える光景だ。


鍋、雪、クリスマス、そして





予防接種を頑なに嫌がる絵梨花。



「もう予約してるんだから、出ないと間に合わなくなるって」


『私は予約してなんて言ってない!』


「しないと行かないだろ!」


『行かなくてもかからないもん!』


「小学生じゃないんだら、いい大人にもなってダダ捏ねないの!!」


『やーーーだーーー!行ったもん!今年はもう2回も注射いったもん!来年の分まで終わりです!』


「あれはワクチンでしょ、これはインフルの予防接種」


『やだやだやだやだやだやだ。無理。3回も打ったら死んじゃう。私にそんなにプスプス穴開けて、可哀想でしょ!!』


「訳わかんないこと言ってないで、いくよ!」


『訳わかるもん!皆マスクしてうがいしてるから、インフルかかんないもん!例年の1%以下だよ発症率!!かかんない、かかんない!』


「その1%に入ったら元も子もないだろ!」


『無理!!絶対無理!!』



ブランケットを頭から被って、外部との通信を遮断しようとした絵梨花に、ついに俺は毎度恒例の奥の手を使うこととした。






「…じゃあ、もう知らない。予防接種受けないなら、念の為寝る時は移らないようにベット別々で寝るからね。」









『う゛ぅ〜…それは…やだぁ……』

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"○○さん、生田さん、2番にお入り下さい"


柔らかい看護師さんの声にも関わらず、絵梨花は鬼の形相でビクッ、と反応した。


「大丈夫だから。10秒で終わるよ。」



そう言いながら、重い足取りの絵梨花の背中を摩りつつ、診察室に入る。



「おふたりとも、体調は大丈……彼女さん、大丈夫ですか…」



あまりにも険しい表情で椅子に座った絵梨花に対して、先生もギョッとした表情を浮かべる。



『…大丈夫でございますです…』


「…もう日本語が変だよ、絵梨花…」


「熱…は、ないみたいですね。これまで予防接種、ワクチンを打って体調が悪くなったり、副作用があったことはありますか」


『あります。』


「えっ…じゃあ今日の接種は…」


「無視してください先生、すみません。そんなことないです。去年も同じこと言ってましたけど、注射が嫌なだけです。」


『だって!!嫌だもん!!』


「…あ、あの…病院ですのでお静かに…。彼女さん…本当に副作用がありますか?嘘をつかれると、接種が出来なくなるんですが…」


『……ないと言えば、ないです。…とてつもなく、嫌ですけど。』


「好き嫌いは聞いてないから。」



「分かりました。…じゃあ、とりあえず○○さんの方から打って行きますね。上着を脱いで、シャツ、捲れますか。」


「はい、お願いします。」


コートを膝にかけると、ロングTシャツをまくり、二の腕を差し出す。



「じゃあ、アルコールお願いします。」


「はーい。」


先生の隣にいた若い看護師さんが"ちょっとヒヤッとしますね。"と、言いながらアルコールを塗ったガーゼを塗布する。…絵梨花がめちゃくちゃ看護師さんを睨んでいるのは、見えなかったことにした。


「はい、じゃあ、チクッとしますね。」


「お願いしますー。」


ピリッ、という鋭利な痛みの後、グーッとワクチンが流し込まれる感覚を感じながら、ものの数秒で接種が終わった。



「はい、おしまいです。お疲れ様でした。あまり揉んだりしないでくださいね。お風呂は普通に入って大丈夫ですけど、激しい運動はしないように。」


「ありがとうございました。」


そしてついに、鬼門の絵梨花の番を迎える。



「…覚悟はいいですか?」



と、最悪の聞き方をする先生。見るからに顔が強ばってしまっている、絵梨花。



『ぐるる。』



…ついに俺の彼女は人じゃない声が出るようになったのか。


「…あの、生田さん…力抜いてください…腕の筋肉が緊張して…正しいところに針が刺さらなくなるので」



『うぃ!』



虚勢を張って元気よく返事をしたはいいものの、絵梨花は左腕を先生に向かって投げ出したまま、顔は明後日の方を向いてプルプルしている。



「じゃあ、アルコール塗りますね。」


と、改めて看護師さんが絵梨花の二の腕にアルコール塗布すると、いよいよその時が近づいてきたと察したのか、絵梨花はグッと俺の肩を掴んだ。


「大丈夫だよ、絵梨花」



そう声をかけると、うん、とまるでサヨナラのピンチ登板したリリーフピッチャーかのような硬い覚悟を決めた顔で、絵梨花は頷く。





「じゃあ、行きますね。チクッとします────────」




そういって、先生が絵梨花の腕に注射針を接触させようとした瞬間だった。




『きゃああああああああああ!!!!!!やっぱ無理ぃいいいいいいいいいいいいいいいい!!』

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ガタッと両腕を振り払って、立ち上がった絵梨花。


「あっ…!!」



という先生の声がした後──────





プス。



と、俺の左の太ももに、羽生のショートプログラムより華麗に注射が着地した。






「ん?




………っいってええええええええええ!!!?」









その日の、就寝時。



「…落ち込まなくていいのに。びっくりして、俺も声あげちゃったけど、全然痛くなかったし」



そう声をかけるけど、絵梨花はグッと上目遣いをしたまま申し訳なさそうに押し黙っている。



『…ごめんね、私が落ち着いてなかったから…』



「いいって。…それより、ちゃんと受けられて偉いね。よく頑張りました。」



優しく絵梨花の頭を撫でると、嬉しそうに笑いながら、猫のように頬を擦り寄せてくる。


『んー。…これで一緒に寝られる。』


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「…そうだね。…俺も絵梨花が予防接種受けてくれて嬉しいよ。もし掛かってしまった時に、絵梨花が重症化したら、嫌だもんね。」


『…ありがとう。…いつも、私の事考えてくれて…』


「好きだからね。」


『私も好き』


「…いやいや、俺の方が」


『…え、私だって。』


「……俺でしょ」


『はい、違います。私です。残念でした。』


「…俺!!」


『私!!』


「俺!!!!」


『私!!!!』


「…仕方ないな」


『…こうなったら』



「『とりあえず、チューするか。』」






ピピピピッ…ピピピピッ…



「…どうだった…」


『37.8°C……○○はぁ…』


「…37.7°Cぉ……あー……」






「『激しい運動、するんじゃなかったぁ……』」

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fin.






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