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Strawberry Breakfast


「おはよう、飛鳥様」


彼女の綺麗な黒髪を撫でて呼びかけると、まだ重たい瞼を擦りながら、はにかんだ表情で悪態をつく。



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『何、飛鳥"様"って。キモイんだけど。どうした。』


バカにしたように笑う声も、少し乱れた髪も、シーツに顔を隠す仕草さえ、全てに愛情を注いであげたいほどだ。


彼女がそばに居るだけで、どんな朝だって、起きる理由になれる。



「今日は飛鳥のことをお姫様みたいに扱って、日頃の感謝を伝えようと思ってさ。」


『何それ。変な映画でも見たの?バカみたい。』


「面白そうだろ?」


『まぁ、やりたきゃ勝手にしなよ。』


「相変らず、釣れないね」


『で、どうしたの』


「朝ごはん、食べよう」


『うん。…あるの』


「ないよ。だから、たまには外で食べてみようよ。」


『お姫様扱いする割には、朝食の準備もないんじゃ、執事失格じゃない。』



「おだまり!!」



中々お姫様モードに入らない飛鳥をお姫様抱っこして、洗面所に連れ込む。


『ちょっと、やめてよ!!』



バタバタと脚を振っていた照れ隠しの抵抗も、寝室を出る頃には諦めて収まっていた。



「飛鳥様、愛してますよ。」


『ホント、気持ち悪いって。』


「照れてんの?可愛い」


『マジで、ウザイから』


言葉とは裏腹の表情でスウェットを脱いだ飛鳥の手を引いて、シャワーを浴びる。



「飛鳥、背中洗ってあげようか」


『怪しすぎ。よからぬ事を考えてるでしょ。』


「大丈夫、今日は飛鳥への感謝を込めてお手伝いするだけ。どうする」


『任せる。』



当然のように体を流すだけで飽き足りない俺達。



『ちょっと?』


「手が当たっただけだって。」



『もぉ、朝から性欲に忠実だね』


「だって、飛鳥が好きだから。それに抵抗しないじゃん。」


『するわけないじゃん。』


「意外と飛鳥も楽しんでる?」


『どうかな。でも直ぐに体を綺麗にできるから心置き無く出来るね。』



「………これ、どう」


『………最高です。』



お互いの愛撫に満足したところで、湯船に浸かった。


飛鳥の細身な体を後ろから抱きしめる。



『今日、どこ行く』


「この前見つけたんだけど、裏通りに新しいカフェ出来てたから、そこどうかな。」


『ずっと工事してたところ?』


「そう、パン屋の横。」


『歩くのめんどくさい。』


「運転致します。」


『よし、行こう。』


「じゃあ、上がろうか。」




『うん。…頭、乾かしてくれるんでしょ?』



浮ついた表情で、すっかりヒロイン気分の飛鳥にドライヤーを渡されて、洗面所の鏡を見ながら飛鳥の髪を乾かす。



「…前髪流すの、こっち向きでいい」


『良き。…割れちゃわないように丁寧にしてよね。』


「ほーい。」


『ねぇ、ねぇ』


「んー」



弱温風のドライヤーの音にかき消されそうなほど、小さな声で飛鳥は囁く。





『私も、愛してるよ。』

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振り向きの上目遣いでそれはずるいよ、お姫様。


飛鳥の澄んだ瞳の、奥の奥まで見つめながら、ゆっくりとお互いの顔が近づく、鼻先が擦れるほどに。


唇を当てようとして、意地悪をしたい気持ちが湧き上がった。


『…ねぇ…まだ』


「もっかい、聞きたい。」


『…今日は私、お姫様扱いじゃないの』


「うん。でも聞きたい。」


『理由になってないし、恥ずかしいから、やだ。』


飛鳥が喋る度に、吐息が口元にかかって、胸の下辺りの部分を羽根で触られているような感覚に陥る。


ゾワゾワと、心臓を撫で回されているような感覚。




「じゃあしない。」


『えっ、意地悪すぎない。』


「じゃ、俺も着替えたりしてくるから、30分後ね。」


『ふーん。分かった、楽しみだね?』


不敵に笑った飛鳥の表情に違和感を覚えながら、自室で服を着替えて、ヘアセットを済ませる。


飛鳥の準備が終わるまではリビングのソファでスマホを弄りながら、今日一日の予定を考えていた。


時計の丁度半周ほどした時、飛鳥が後ろから抱きつく。


『準備、出来たよ。』


「うん。」



スマホから目を離し、振り向いた先は飛鳥の顔の前数センチだった。



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「…飛鳥、わざとやってる?」


『何が?』


言葉はとぼけているが、明らかに飛鳥は綺麗に塗られたリップをプクプクと突き出しながら、俺を誘惑しようとしていた。



「…行こう。」


『うん、行こうか。』



い、こ、う、か。


ウィスパーボイスで音を発しながら、照明に照らされ光り輝く薄ピンクの唇を尖らせる飛鳥。


当然に、屈する俺。


唇を近づけようとすると、ふいっと、顔を背けられた。


「…飛鳥?」


『…私に言わせようとしたこと、言うなら、してあげてもいいよ。キス。』


「謀ったな。」


『言わないなら、しない。』



「ズルい。俺が好きなの分かってて。」


『どうする?』


「…愛してます。」


その言葉に、勝ち誇ったように笑った飛鳥は、自分の唇を俺に重ね、少し水気のあるリップ音を響かせた。


でも、もはや俺はそんなもので止まれるほどの心の余裕は持ち合わせていない。


飛鳥の小さい頭を右手で抑えながら、左手で飛鳥の体を抱き寄せて、ソファーに2人で倒れ込む。


『ちょっと…!!』


「無理です、ごめんなさい。飛鳥のせいです。」


『待って、服着替えたんだよ!!』


「脱がせます。」


『シャワーも浴びたし!!』


「後でもう1回入りましょう。」


『はぁ…!?朝ごはんは…!!』



「…3大欲求の中で、今順位の変動がありました。朝ごはん、無くても飛鳥がいるならいいです。」


『もぉ…!!』


なんて、言いながら、飛鳥は一切抵抗なんて見せないで、じっと俺の目を見つめている。


ワンピースのジッパーに手をかけようとして、ニヤリと笑った飛鳥に気がついた。



「…飛鳥」


『んー』


「…この真冬に、こんなノースリーブのワンピースだけで外に出る気だったの。…それに…」



『それに?』




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「随分と、脱がせやすい服、選んだね。」


『…何が言いたいの』


「…計算通り?」





ヒロインは、悪戯っぽく笑った。







『私は、さっきお預けくらった時点で朝ごはんより、アンタが欲しくなってたからね。』


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fin.





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