とうの昔にお積もりでしたとさ

　この記事は、熊野寮OP. Advent Calendar　2022(https://adventar.org/calendars/7876)の5日目記事になります。
　このような執筆機会を与えて下さったモモンガ氏と、この記事のきっかけになった同釜会に企画者、久しぶりに会った寮生、卒寮生諸氏に感謝致します。
　締め切りまでになんかよさげな記事を書きたかったのですが、ポケモンとスプラトゥーンのせいで時間が奪われたので、記事投稿の3時間前に急いで書き始めています。パッションだけぶつけた記事にするので、パッションを受け取って下さい。

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　部屋が寒い。本当に寒い。なんで冷え込む前にストーブを用意しなかったのかと後悔するほど寒い。昔からいつもそうだ、やろうと思ったことをやるのは良くて思った数日後だ。行動が遅いのだ。この馬鹿野郎、ああ鈍間野郎。罵ってみたとて暖かくなるわけでもないが、しかし毒づかざるを得ない。
　そういえば寮の自室も、これくらい寒かった。自室に石油ストーブの持ち込みは原則禁止であった。無論ズボラな僕のことであるから、電気毛布も湯たんぽもコタツも用意することはなかった。だから、冬はいつも冷えっぱなしだった。1回生の頃と4回生の頃に、発熱を伴う風邪をひいたことがあったが、理由は明白だろう。むしろ5年住んで2回だけ、というのがおかしいような気すらしてくる。
　閑話休題。
　最近、amazarashiというバンドの曲をよく聴く。ご存知の方も多いと思われるので、あれこれと説明することは避ける。公式youtubeチャンネルがあるので、この辺りから曲を聴いてみて刺さったら聴いてみると良いのではないかと思う。
　今回話題に挙げたいのは、このバンドの『馬鹿騒ぎはもう終わり』という曲である。さっきのyoutubeのチャンネルにも弾き語りバージョンが上がっているので聴いてみられるとよい。多分タイトルで検索したら出る。聴いていただけると、多分以下から始める話が分かりやすくなる。
　人生の4,5分程を使うことになるが、後悔はなさらないと思う。

　……聴かれただろうか。とりあえず、話を始めていく。
　聴かれたならばお分かりの通り、この曲は「若気の至りを極めた宴」を題材とした曲だ。所どころに描写されるパーティの様子は、若者ならではの派手さと愚かさが混ざっている。流石に瓶でテレビを壊している様子は見たことがないが、全寮コンパ等の後でトイレで寝ている寮生は見かけた事がある。そういう、もう遠く彼方へと行ってしまったレイト・ティーンエイジャーの頃の記憶が呼び覚まされるような言葉が、まず心を掴む。
　そしてその描写の合間に挟みこまれる「馬鹿騒ぎはもう終わり」というフレーズ。単なる宴の終わりではなくて、決して取り戻せない10代への寂寥が込められた短い音に、ほんの少し涙腺を緩まされる。

　先日同釜会へと参加した時のことを思い出す。開始の3時間ほど前に着いて、見知った同級生（まだ同級生がいる！）達や、見知らぬ後輩達とあいさつを交わした。会が始まってからは、ボイスチャットでしか話したことの無かった、6年以上年上の元同ブロック民とお会いした。宴も酣となってからは、ここ半年飲まなかった分をBar Kumaでしこたま飲んで、二日酔いを引きずった。
　心持ちは、学生時代に戻ったかのようなものだった。ずっとここにいたいとすら思えた。
　でも、よく見知った談話室は、僕の知っているそれではない。部屋の形は変わっていなくとも、住む人も、風土も、言葉にしにくい微妙な雰囲気も、何もかも変わっている。よく知った固いフローリングの床に寝そべって、5年間見つめた天井を見上げて、知らない匂いの空気を吸って、ここは僕の帰る場所ではない、と思った。当たり前だ。とうの昔に僕の青春は死んでいて、モラトリアムはお積もりになっていたわけだから。
　手の届かぬところに旅立っていった僕の青さを見送る帰り道。一路、京都駅へと向かう中でふと、『馬鹿騒ぎはもう終わり』を聴きたくなった。使い慣れた有線のイヤホンから流れる秋田ひろむの声が、一々感傷を刺激してくる。
　ひと時の熱狂が終わった後、僕が帰る場所はどこなのだろう。
　その問いに答えるように、最期のひとフレーズが僕の耳に届く。馬鹿馬鹿しくも涙が零れてきた。曲一つに泣かされる、なんて。後から思い返せば笑えるようなセンチメンタルだ。
　でも、多分。誰しもが一度は抱えた感情なんじゃないかとも思う。寮への郷愁という感情は。
　『馬鹿騒ぎはもう終わり』は、そんな帰らぬ日々への憧れを想起させる曲である。一度と言わず、何度もリピートして聴いてみて欲しい。

追伸
　amazarashiは疲れた時に刺さる良い曲が沢山あります。なんか暗い曲作る人たちでしょ、的なイメージしかない人はとりあえず『戸山団地のレインボー』とか『未来づくり』とか『ピアノ泥棒』とか『ナモナキヒト』とか『あんたへ』とか色々聴いてみたら良いんじゃないかと思います（全部曲名）。