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9月3日(日) | 桃山鈴子×森田真生「しずかに じっと ときを まつ」

《オンライントークイベント》

桃山鈴子×森田真生
「しずかに じっと ときを まつ」

【出演】
桃山鈴子×森田真生

【日時】
9/3(日)
14:00-16:00(開場 13:45 予定)
*途中10分程度の休憩を挟みます。
対談終了後には質問を受け付け、可能な限りお二人にお答えいただきます。

【参加費】
4400円(税込)
(申し込み方法はページ下部に記載)

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 昨年の夏、子どもたちと初めて、卵からアゲハチョウを自宅で飼育してみた。食欲旺盛なイモムシが、あるとき、突如としてそれまで食べていた山椒の葉を離れ、サナギになる場所を探し始める。「変態」という劇的なプロセスが始まっていく、その瞬間の静かさが特に印象的だった。

 アゲハチョウの幼虫がサナギになり羽化していく……僕たちの身近で毎年、何度もくり返されているはずのことだ。しかし、それを自分の目でちゃんと見届けたのは、このときが初めてだった。
 身近でどれほど驚くべきことが起きていたとしても、そのことに関心を集めてみないことには、気づくことすらできない。目の前にあることでも、しかるべき時間をかけて付き合ってみないと見えない。これは、本当に面白いことだと思う。

 いま軽井沢のセゾン現代美術館で、荒川修作とマドリン・ギンズの《意味のメカニズム》全作品127点を公開する展示会が開催されている(会期は10月9日まで)。その作品の一つで、壁に新聞やスポンジ、ペンキのブラシや温度計などが貼り付けられていて、その下に、次のような指示が書かれている。

 Vary the rate of pronunciation according to the length of time spent
touching the object.
 対象に触れる時間の長さに応じて、発音の速度を変化させてみなさい。

—— 荒川修作+マドリン・ギンズ「The Mechanism of Meaning(意味のメカニズム)No.2」
第4章「Degrees of Meaning(意味の諸段階)」

 新聞はひと目見れば新聞だとわかる。そのまま、その場を素通りすることもできる。だが、時間をかけて新聞の表面をなでるように「しーーーーーーーーーんぶーーーーーーーん」と発音していると、少しずつ、その新聞が重ねてきた時間が感じられてくる(*)。新聞はずいぶん古くて黄ばんでいる。いつの新聞だろうか。どれだけの年月を重ねてきたのだろうか。気になり始めて、発刊の日付を確かめてみようとすると、日付の部分は、すでに破り取られている。(*残念ながら現在、展示中の作品については原則として、実際に手で触れることはできなくなっている)

 誰でも新聞が新聞であることはわかる。だが、時間をかけて触れ続けてみないことには、見えてこないことがある。何かがわかるためには、それを正しく名づけられるだけではなく、しかるべき時間をかけて、付き合ってみる必要がある「しずかに じっと  ときを まつ」(桃山鈴子『へんしん』福音館書店)ことでしか、見つけられないことがある。

桃山鈴子『へんしん』(福音館書店)

 桃山鈴子さんは、イモムシを描く「イモムシ画家」だ。彼女は、イモムシを描くために、膨大な時間をかける。カラーインクをつけた細いペンで、点描を打ちながら描いていく。1匹のイモムシを描くのに、どれだけの時間がかかっているのか、気が遠くなりそうなほどである。

イモムシは、脱皮前に動かなくなる。その時が、絵を描き進めるチャンスなのだが、点描という手法は時間がかかってしまうので、全てを書き終えられないことが多い。
その結果、一つの個体の脱皮前と脱皮後の姿が絵の中に混在することもある。

—— 桃山鈴子『わたしはイモムシ』
桃山鈴子『わたしはイモムシ』

 人間の時間のリズムで、イモムシの横を素通りしていくだけでは、イモムシを知ることにはならない。桃山さんは、まるで自分までもがイモムシになったかのように、イモムシと呼吸を合わせ、歩調を合わせ、たくさんの時間をかけながら、イモムシの姿を描いていく。
 そこに「もう一つの宇宙」が開ける。 

桃山鈴子『わたしはイモムシ』

 アゲハ、オオスカシバ、ツマグロヒョウモン、クロメンガタスズメ、サザナミスズメ、キバラケンモン……桃山さんと出会って以来、僕も子どもたちと一緒に、たくさんのイモムシにめぐりあうようになった。ヒサカキの枝になり切ったトビモンオオエダシャクの幼虫に驚き、素早く歩くヒトリガの幼虫を追う。コスズメの幼虫ためにヤブガラシが生えている場所を覚え、羽化不全のアゲハチョウに砂糖水をあげようとする。
 これまでも身近にいたはずなのに、見逃し続けていたイモムシや蝶たち。その存在に関心を持つようになって以来、身近な宇宙が、意外な方向に、少しずつ広がっていくのを感じている。

 9月3日(日)に、鹿谷庵に桃山鈴子さんをお招きして対話をします。イモムシの魅力についてはもちろん、イモムシを描くということ、「イモムシになる」ということ、そして、待つこと、時間をかけること、そこから開ける「もう一つの宇宙」について、たっぷりとお話をうかがえたらと思っています。

 当日はオンラインにてリアルタイムのライブ配信となります。ご縁がありましたら、ぜひお立ち寄りください。
 一期一会のひとときを、みなさんとともに分かち合えること、いまからとても楽しみにしています。

2023年8月12日 森田真生

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開催に寄せて(桃山鈴子)

 誰に知られることもなくイモムシのひらきを描いていた頃、森田さんを
知った。福岡から数学の世界の事を発信されていて、私はそのウエブサイト
に流れ着いたのだった。数学が得意とはいえない私でも夢中になってしまう
ような魅力に溢れたあたたかい世界。もしかしたら世の中って素晴らしい場
所なのかもしれない……。たまにウエブサイトを訪れていたのは、この世に"希望”を感じたかったからだと思う。

 それから10年あまりの月日が流れ、私は表参道の青山ブックセンターに
ある青山塾でイラストレーションのクラスを受講していた。いつものように
授業前に本屋さんの棚を眺めていると、ひときわ光りを放っている本があっ
た。走光性をもつ虫のようにその本に誘引された。『数学の贈り物』という本だ。著者、森田真生……どこかで見た名前……あ!あのウエブサイトの方だ。

 イモムシたちがもりもりと葉っぱを食べて成長するように、森田さんの言
の葉をもりもり食べて、私は閉じこもっていた殻から脱皮ができたような気
がした。

 その翌年、描き溜めた200点あまりの絵を素材に、作品集『わたしはイ
モムシ』
が工作舎から刊行された。エッセイ「手のひらの天の川」に森田さ
んのトークライブの一部を引用させていただいた。

「数学では1という数の存在を証明することができない。1という数は、
私たちが信じているから存在しているだけだ。」

 私にとってのイモムシも、私が信じていなければタダの虫けらだ。私はタ
ダの虫けらであるイモムシと、私が信じる星のようなイモムシの両方を同時
に知って、観ている。(『わたしはイモムシ』工作舎)

「以一貫之」という言葉がある。たった一つ、自分がこれだと信じるものを
一生を掛けて貫き通すこと。そう理解している。簡単ではないことだ。だけ
どどうにか貫いてみたいと思ってここまで来た。

 いつだって一の背後には、一を支える数え切れない事象がある。たとえば私を支えてくれているたくさんのイモムシたちもいる。イモムシの美しさに支えられて私の絵は続いている。

 9月3日の対話は、私の口を通じてたくさんのイモムシたちが森田さんと話をしてくれるのかもしれない。そんな対話になったらいいなと心から思っている。

2023 年8月14日 イモムシ画家・イモムシ親善大使 桃山鈴子

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【お申し込み方法】
当イベントは「Zoom」ウェビナーによるオンライン配信イベントです。
ご参加ご希望の方は下記URLよりオンラインチケットのご購入をお願いいたします。ご購入をもってご予約は完了いたします。

オンラインチケットご購入ページ↓
https://tuning-bookstore.com/items/64d81d7f808e2c5a518ddb77

イベントの開催についてご不明な点がございましたら、
こちら[attuning.books@gmail.com]まで。担当:鎌田
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