見出し画像

House vs. Hurricane / Filth (2017)〜エレクトロコアからピュアなハードコアへ〜

オーストラリア出身ポストハードコアバンド、5年振り通算3枚目のフルアルバム。

前作リリース後に1度解散、まさかのカムバックでサプライズリリースされたのが本作。

とはいえメンバーはそれぞれ別の道を歩んでいるようで、現在も解散は宣言していないものの開店休業状態。

さてこのバンド、00年代後半を象徴するキーボードフィーチャーのサウンドを用い、数多のバンドがひしめくコンテストで優勝し、デビューEPで瞬く間に有名になったものの、続くデビューアルバムで総スカン食らった印象が強い。

サウンドとしての完成度で言えば明らかに成長していたデビューアルバムだけど、彼らが目指したのはキーボードとバンドサウンドの調和にあって、ぶっ飛んだ曲展開がほとんど聴けなくなってしまった。要はインパクトに欠ける作品だったわけ。

で、彼らの取った次なる行動はキーボードを捨てること。

これがキーボーディスト脱退によるものなのか、バンドとしての決断だったのかは不明だけど、次なるアルバム『Crooked Teeth』ではより直情的なハードコアサウンドへと変貌。この変化によってさらにファンを困惑させることになり、そのままあれよという間に解散。

新たに加入していたスクリーマーDan Caseyは明らかにハードコア寄りの咆哮を得意としていたので、個人的にはこの選択は間違ってなかったと思ってる。というかあの時点でバンドが取れたベストな選択をしてたはず。上手いこと時流に乗れなかっただけで、決して妥協を感じるような作品ではなかった。

サプライズ的な復活を遂げた本作はさらにピュアなハードコアに接近。もはやEP期の面影は皆無で、完全に別バンドと化している。

あまり評価されることがないけど、ここのスクリーマーDanはかなり優れたボーカリストだと思う。
それこそEvery Time I DieKeith Buckleyを彷彿とさせる色気のある咆哮は唯一無二の存在感を放っていて、それまで彼らの特徴でもあったRyan McLerieのクリーンを完全に食っちまうぐらいにはカッコいい。

だから前作『Crooked Teeth』でハードコアに寄ったのは間違いでもなんでもなく、ベストな選択だったんだよね。

唯一の不満点を上げるとすれば、デビューアルバムの空間的な音作りを若干引きずってて、ハードコアの直情的なアグレッションを出し切れずにミドルテンポの楽曲が多かったことかな。

で、このバンドすごいのがその部分をきちんと修正して本作をリリースしていること。つまりEPからデビューアルバムへの変化も、前作のハードコアに寄った部分も、今作のアグレッションを強めた作風も、俯瞰的に見ればかなり順当な進化をしている。それだけに活動が順調にいかず悔やまれるバンド。

#1Filth」はわずか2分の短尺にアッパーなサウンドを詰め込み、ノリノリのハードコアを聴かせるリードトラック。やっぱDanの咆哮はめちゃくちゃ良いよ。地声混じりのスクリームにめちゃくちゃ色気がある。

#2Give It Up」は前曲の疾走感はそのままに、ここぞというポイントでRyanのコーラスが彩るキラーチューン。元々レンジが広いタイプのクリーンじゃないから、このぐらいのが良いんだよね。

#3She'll Be Apples」はザクザクと刻んでいく漢気溢れるハードコア。リフにもフックがあるし、メロディーも良い。前述したEvery Time I Dieとかが好きな人はハマるんじゃないかな。

#4Pillowtalk」はストレートなハードコアにブレイクダウン疾走という王道展開。クリーンは明確なコーラスで用いる感じじゃないのも良いね。

#5Nerve Damage」はテクニカルなリフとパキッとタイトなリズム隊、サザンロックなテイストが上手いことブレンド。やっぱETID感が強い。ラストでかなりカオティックな落としを見せる。

#6Greasepaint」は空間的な音作りとアグレッシブなハードコアを上手くミックスしていて、確かな進化を感じる曲。前作でやってたことも、デビューアルバムも決して無駄では無かったなと思えるね。

#7Rowdy」は雰囲気を変えてまったり進行するのかと思ったら全然そんなことないサザンロック+ハードコア。

#8Peroxide」も叩きまくりのドラミングに性急なリフ、攻めて攻めまくる咆哮で押し切るハードコア。Ryanのクリーンは本作で完全にエッセンス程度に収まるようになったね。

#9Lobster Breath」はギャングスタイルのボーカルも織り混ぜながら攻撃的に攻める。クリーンは一切無しでひたすら咆哮。

#10Brain Dead」はアッパーなハードコアからいくらかテンポダウンしつつ、結構ガッツリとRyanの歌唱が食い込んでくる。ヒリついた焦燥感が印象的な後半の展開が最高に良いね。

#1180's Kids」はマスコアちっくなジェットコースター系ハードコア。エッセンス程度にクリーンの導入はあるがやはり全体的にETIDリスペクトな音。カオティック成分とサザンロック、ハードコアをブレンドした本作を象徴する曲だね。

今作は潔い程に疾走感に振り切ったハードコアを披露していて、前作の不満点も完璧に解消された名作と言っても良いと思う。

キャリア的には順調にはいかなかったものの、これが復活作ならファンも納得、かと思いきやMVの再生数もこれまたいまいち伸び切らず。

なんか不遇なバンドだなあ。

★★★★★

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?