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Underoath / Voyeurist

フロリダ州タンパ出身のポストハードコアバンド、3年振り通算9枚目のフルアルバム。

初期はカオティックなハードコアを演っていたバンドですが、2004年リリースの『They're Only Chasing Safety』でポストハードコアの新たな可能性を提示、これがスマッシュヒットを記録し、次作の『Define the Great Line』で全米2位を叩き出しました。

まさにトップバンドへと上り詰めた彼らですが、以降の作品では不用意にキャッチーになることはせず、自分達の思い描く作品を妥協無くリリースしていた印象です。

ドラマー兼クリーンボーカリストAaronの脱退も影響してか2013年に1度活動休止、しかし2015年にはカムバックを果たし以降着実にキャリアを重ねています。

ポストハードコア界の伝説にして頂点の座を思うままにしてきた彼らですが、その姿勢はかなり前衛的なものがあると思います。

実際に初期2作は相当カオティックなハードコアでしたし、『Changing of Times』では、エモ、メタル、ハードコア、ブラックメタルをシンセでごった煮したような作風でした。

新ボーカルSpencerが加入し、ポストハードコアの新たな潮流を作り出したという功績は計り知れないですが、“売れてしまった”だけで、バンド自身は意外と好き勝手やっているような感じもします。

復帰作『Erase Me』ではキラーチューンこそ大手を奮って絶賛されていましたが、想像以上に歌う彼らに“あの時のアンダーオースはどこに・・・”との心無い声も結構あったみたいですね。とはいえ全米16位と健闘しています。

そんな彼ら、名作たる4th,5thのライブレコーディング盤のリリースを経て、本作『Voyeurist』のリリースに漕ぎつけています。

要するに、“あの時のUnderoath”を完全に意識した形で本作をぶつけてきたわけです。

#1「Damn Excuses」はそんな片鱗をいきなり感じさせられるナンバー。これが先行公開された時はさすがにざわついていましたね。

#2「Hallelujah」はSpencerとAaronの掛け合いが当時のファンなら発狂間違いなしの仕上がり。新しいUnderoathとしての要素はしっかり残しつつ、あの時の香りを微かに感じさせてくれます。

#3「I'm Pretty Sure I'm Out Of Luck And...」は懐かしいコール音がイントロとなり、ポストロック要素を交えながらミニマルに進行。突如としてSpencerが叫ぶ様はカタルシスそのもの。個人的にはもう少し尺が長くても良かったです。

#4「Cycle」は今を時めくGhostmaneがフィーチャー。ライブ音源がMVとして上がってますが、Spencerのキレ具合が半端ないです。Aaronは年相応といった円熟が感じられますが、Spencerは恐ろしいぐらいのパフォーマンス。

#5「Thorn」もAaronとSpencerの掛け合いから始まります。割としっとりした曲調ですが細かいドラムアレンジが効いていますね。キーボードも良い仕事をしています。こういう浮遊感のあるアレンジをさせたら最高ですよね。

続く#6「(No Oasis)」はアルバム後半へと繋げるクリーンのみで構成されたナンバー。どちらかというとこういう曲は長めの展開で魅せるのが巧かったバンドですが、本作はどの曲も非常にコンパクト。

#7「Take A Breath」は『They're Only Chasing Safety』を彷彿とさせるポストハードコアナンバー。この曲もかなり良いですね。要所で味付けるエレクトロ要素も他バンドとは一線を画すオリジナリティーがありますね。

#8「We're All Gonna Die」は本作の中でも屈指のメロディーセンスが光るナンバー。退廃的なリリックとは裏腹に妙にキャッチーです。

#9「Numb」はブツブツとした打ち込みやSEを駆使し、アッパーに叫びまくります。そしてこれまたメロディーが良い。後半スクリーム混じりに歌い上げるSpencerとAaronの交錯がたまりません。

#10「Pneumonia」は『Lost in Separation』の時を彷彿とさせるゆったりとした展開美で空間を支配していくナンバー。2分後半から曲調が変わり、より荘厳なギターが前に出てきます。そして4分後半でカタルシス。この音の洪水は完全にポストロックです。

セールス的には前作より振るわなかった本作ですが、濃密すぎる37分を提供してくれます。むしろ全然物足りないくらいです。
個人的には彼らの作品って45〜50分くらいのボリュームが無いと満足出来ない身体になってしまっています。

前作もボーナストラック入りの13曲でちょうど良い塩梅だと感じたので、本作も若干の物足りなさが残ります。
というか前作はボートラ扱いだった2曲がエラい出来栄えよかったので、本作も追加収録盤とかリリースされないですかね。

前作と同じくらいのクオリティーだと思いますが、本作は過去作品が好きだった人におすすめしたい作品ですね。

★★★★☆




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