【指の腹弾き(指頭奏法)のメモ書きです!】

【指の腹弾き(指頭奏法)のメモ書きです!】(これは、アマチュアのギター演奏に関して、爪のコンディションに依存しない、安定な音の出し方に関する個人的なメモ書きです。指の腹弾きを始めたばかりですし、もし間違い等がございましたら、ご容赦くださいね。また、通常の「指頭奏法」とは弾き方が全く異なる可能性もありますので、ここでは「指の腹弾き」としました。なお長文ですのでご注意ください。)

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昨年末、重い段ボール箱を抱え上げようとして、手が滑ってしまい、右手の指の爪が全て完全に割れてしまいました。爪は当分復活しそうにありません。そんなとき「国分寺クラスタ」のフリーコンサートでご一緒するスチール弦のギター弾きさんが「指の腹弾き」を始めたという話を聞きました。面白そうなので、私も真似しまして「指の腹弾き」を始めることにしました。ここで「指の腹弾き」の当面の目標は、「爪弾きと同じ音量が出ること」と、「爪弾きより綺麗な音が出ること」の2つです。

爪がなくなると、普段の弾き方で弦を弾いてもほとんど音がでませんでした。擬音での表現が難しいのですが、指先が弦を掠る「スカッ、スカッ」という微かなノイズがするだけです。これまでは、プランティングという言葉については、知っていたのですが、指先は弦を捉えるだけでした。プランティングをしているつもりでしたが、実際には単に「爪の先端部分を弦にサイドからぶつけて音を出していた」ことがわかりました。

「弦をサイドからぶつける弾き方かどうか」を自分で確認するのは、通常はなかなか難しいと思われます。弦を交換してしばらく演奏して、高音弦の表面やガット弦の表面が傷ついてカサカサになるようでしたら、それはおそらく「弦をサイドからぶつける弾き方」をされているということになるでしょう。

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話を戻しますが、爪なしでも音をちゃんと出すヒントを得るために、「指の腹弾き」をされているギタリストさんの弾き方をいろいろ観察しました。それで分かったのは、どなたも弦を指先でしっかり掴んで、つまり、指先で弦を抑え込んで、押し込んで弾いているということです。どなたもしっかりプランティングをしている。つまり『指の腹だけで弾いても、しっかりした音が出るような弾き方をすること』が、プランティングの真意らしいと気付きました。

練習方法を根本的に改めました。題材につきましては、以前練習したことのある「カルカッシのエチュード」にしました。まずは1音1音をスローモーションで弾きます。ただし、親指、人差し指、中指、薬指で音を出す際に、指先で弦を掴んで、すぐに横方向に弾いたりはしません。手順としては、サウンドホール側に向かって、まずは指先が表面板に付くまで弦をしっかり押し下げます。指先が確実に表面板に付いたことを確認したら、腕ごと引っ張って、指を瞬間的に外します。すると比較的まともな音がします。「指の腹弾き」の可能性が見えてきました。

この弾き方はなかなか大変でして、最初は全くできませんでした。とくに中指と薬指の力が全く足りません。筋力が足りないので、弦の張力に対抗して、指先を表面板まで押し込むことができませんでした。しかも、しばらく練習を続けると、軟らかい指先に硬い弦が食い込んで、指先が真っ赤に腫れてきます。痛い。それでも、痛みのことは気にしないで、指先を表面板まで押し込む弾き方をひたすら続けました。

半月くらいたちますと、右手の指先が硬くなりました。同時に、指先を表面板までしっかり押し込んでも、痛くなくなりました。練習の成果で、中指と人差し指にも必要な筋力がついたようです。しっかり表面板まで押し込むことが、容易にできるようになりました。右手の指先が硬くなりますと、たとえ「指の腹弾き」であっても「爪弾き」のようにしっかりした音がします。爪がありませんので、もちろんカチャカチャ音はしません。さらに、音色や響きもかなり綺麗です。

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「爪弾き」の場合、指先と爪とのわずかな距離のせいで、弦を弾いた際に音が出るまでに、気持ちの上でわずかな「遅れ」があります。また「爪弾き」では、爪の先端部分が弦に当たる際の「微妙なさじ加減」で音量や音色が大きく変わります。爪先がつるつるなのか、がざがざなのかをはじめ、その日の爪のコンディションや、指先の動きのわずかなずれに、かなり影響されます。いわば演奏が偶然に支配される。そのため、アマチュアレベルでは、音量や音色を細かく意のままにコントロールするのがかなり難しいように思えます。本当は「こんなに弾きたい」と思ってギターを弾いているのですが、頭の中で鳴っている音と、実際に楽器から聞こえてくる音との間には大きな乖離があります。つねにフラストレーションがたまります。

一方「指の腹弾き」の場合は、その「遅れ」がありません。また、音色や音量が偶然に左右されることはありませんので、概ね頭のなかで考えた通りの音色と音量がギターから聞こえてきます。極言しますと(頭の中でしっかり考えられるのでしたら)弦ごとでも、あるいは1音1音であっても、音量や音色を意のままに変えることができます。

高速なアルベジョの際に、急激にクレッシェンドし、急にデクレッシェンドする弾き方もできます。あるいは、2弦だけ音量や音色を変えるような、アマチュアでは通常はできない芸当も、さほど難しくありません。ビラロボスのエチュード1番をイエペスが弾いています。高速なアルペジョですが、中間部で2弦の音だけを「タ・タ・ターン、タ・タ・ターン」と綺麗に響かせて、徐々に消え入るように弾いています。アマチュアの通常の「爪弾き」では(もちろん高速には弾けるようになりますが)、どんなに頑張ってもこの表現は難しいと思われます。たとえできても、2弦を強調するところまででしょう。イエペスの演奏のように、2弦だけを大きな音で、しかも柔らかく綺麗に響かせて、徐々に消え入るような表現はできません。ところが「指の腹弾き」ではそれが可能です。

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「指の腹弾き」を始めてわかったことですが、「爪弾き」なのか「指の腹弾き」なのかは大きな問題ではありません。もともとその区別はない。基本は同じです。重要なのは、プランティングを気まじめに実施すること、それだけです。つまり、爪で弦を弾いて音を出すのではなく、弦をしっかりつかんで深く押し込んで、そのあと瞬間的に除荷することで音を出します。その際、爪はあくまでおまけです。

通常は、アマチュアのクラシックギターの演奏の場合、楽譜通りに弾くことや、ノーマルテンポで弾くことだけで精一杯でして、曲の表現が思うようにできません。それは「爪の当たり方の微妙なさじ加減」で、音色や音量を変えようとしているからです。ところが、上述の「指の腹引き」の弾き方をしますと、たとえアマチュアであっても、音量や音色を自在に加減できます。それは、弦に対して指や爪の先端がぶつかることなく、静かにしかも確実に力を伝えているからです。そのことにより『プランティングする際に、音量、音色、質感など、いろんな曲想をつけることができる』。今後の可能性に大きな違いがあります。【このメカニズムにつきましては文末に追記しました。】

おそらく爪で演奏する際の基本は、『指の腹だけで弾いてもしっかり音が出るような弾き方で「爪弾き」をする』ということのようです。そうすれば、演奏時に可能なアーティキュレーションの幅が、飛躍的に広がるはずです。頭の中で当初意図したとおりの表現ができる可能性があります。

上述の「指の腹弾き」につきましては、先日、ライブハウス「荻窪アルカフェ」でのライブと、神奈川県鶴見のサルビアホールでのプチ発表会にて、この弾き方を実際に試してみました。まだ完璧ではありませんし、すべての音を丁寧にプランティングするのでスピードがでません。それでも、どなたも爪を使わない「指の腹弾き」による演奏であるとは気付かなかったようです。当初掲げた「爪弾きと同じ音量が出ること」と「爪弾きより綺麗な音が出ること」については、まだ不十分ながらも、概ね達成できたものと考えます。今後は、爪を伸ばしてみまして、この弾き方がどう影響するかを試したいと考えております。長文のご拝読ありがとうございました。

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【補足です:通常の「爪弾き」の場合、うまく音量と音色をコントロールできないメカニズムについて】動力学的な観点から手短に解説します。

一例ですが、ボーリング場で、重い球を転がすことを考えます。レーンすれすれに静かに投球しますと、ボーリングの球は正確な位置に転がっていきます。一方、高い位置からボールをレーンに向かってドスンと落として投球しますと、球は目的のほうには転がりません。ボールはあらぬ方に転がってしまいます。その原因は、ボールがレーンにぶつかる際に、衝撃荷重が発生するからです。

これは、爪の先端と弦の関係も同じです。「爪弾き」の際に、指先が弦を捉えていても、ほんのわずかでも爪を弦にぶつけてしまいますと、そこには必ず衝撃荷重が発生します。衝撃荷重はしばらくすると散逸してしまいます。しかし、すぐには減衰しませんので、エネルギーの行き場を失って、弦の上で雑多なノイズとなって暴れます。そのため、弦の振動、つまり音量と音色を正確にコントロールできなくなってしまいます。