三冠馬を見守った馬

ウマ娘が予想以上の大ヒットですね。その影響で競馬自体に興味を持ってくださった方が多くて嬉しい限りです。そして自分もこの現状に何かできないか…?と考えました。ウマ娘に登場する馬の解説なんてもういっぱいあるし、レースの動画を保存していた訳でもないし…。そんな事を考えていた時に一つ思いつきました。

「ウマ娘に登場するまでもない地味な存在だった馬を解説すれば面白いんでは?」

競馬史から見ると名前を残すほどでもない、でもファンに強く印象を残した馬…、そんな存在を知ってもらえれば競馬の奥深さに少しでも触れてもらえるのでは…?そんな気持ちでnoteを始めてみました。拙い文章ですが、お付き合い頂ければ幸いです。

さて、第1回に抜擢させてもらったのは(競馬詳しい人にはタイトルでバレバレでしょうが)三冠馬ナリタブライアンと同じ世代でクラシックを駆け抜けた馬です。まず、その馬の紹介の前にナリタブライアンについて軽く説明します。

強かった。とにかく、強かった。

それ以上の言葉はいらない馬でした。シャドーロール(顔につけてる白いの)を装着して気性面での問題が解決されたナリタブライアンは京都3歳Sからまさに怒涛の連勝を続けます。京都新聞杯では足元をすくわれたものの、菊花賞で三冠を達成し、そのまま有馬記念で女傑ヒシアマゾンを引き連れながら上の世代を完封。年明けて阪神大賞典を制し、古馬でも全てを圧倒するのか、という矢先に関節炎を発症。そしてその後は勝ちはするものの、強かった彼の走りというのは戻りませんでした。

今回紹介する馬は、そんなナリタブライアンに先着した事がある馬です。

とは言え正面から力で破った…、そんな馬ではありませんが…w

シャドーロールをつける前のまだ安定感にかけるナリタブライアン。そんな彼に先着した馬は7頭います。特にボディーガードと言う馬は2歳時に2度も先着するという快挙を成し遂げていました。そしてその7頭の中の1頭が今回紹介する馬になります。はい、前置きが長すぎますねw

その名は、サムソンビッグ。

画像1

名牝クリフジに連なる母と日本ダービー馬サクラショウリとの間に生まれたサムソンビッグ。当時から見ても父サクラショウリというのは古くさい血統であり、期待馬と呼べるものでは無かったと思います。しかし、彼は2番人気で挑んだ新馬戦を5馬身差で快勝します!順調なデビューをはたした彼は意気揚々と2歳重賞、札幌3歳S(G3)(当時の年齢表記では2歳ではなく3歳)に駒を進めます。3番人気となかなかの期待を背負った彼は、

16頭中15着のブービーに終わります。

次走クローバー賞(OP)は7番人気で5着。そして次の函館3歳S(G3)。ここでサムソンビッグは運命の出会いをはたすことになります。それが後の三冠馬、ナリタブライアン。とは言えまだ新馬戦を勝ち上がったばかりの彼はシャドーロール装着前であり、自分の影に驚くような臆病な馬でまだまだ安定感にかける事があったのです。そんなナリタブライアンを抜き去ってサムソンビッグは見事2着になります!重賞で2着になるとどうなるのか。ウマ娘的に言うとファン数が増えてランクアップします。そして皐月賞などに参加できるファン数に達するのです!

これで今後が明るくなったサムソンビッグは次走を萩Sに選びます。そして鞍上になんと武豊を迎え、ここで勝てばクラシックを武豊で戦えるかもしれない…!という状況で3番人気で3着というなんともな結果に終わってしまいます。それでも陣営は諦めず武がダメなら田原でどうだ!と次走デイリー杯3歳S(G2)に出走します。そしてそこで500万下を快勝したナリタブライアンと再び出会います。まだシャドーロールはついてない、なら勝負になるかもしれない!田原、いけ!11番人気だけど、行ってしまえ!

15頭中14着のブービーに終わります。

これで完全に化けの皮が剥がれてしまった。あぁ、サムソンビッグは早熟で仕上がりが早かったからたまたま重賞で2着にこれただけの馬…。そう思われていたのではないでしょうか。次走の福島3歳S(OP)で2着にはなったものの、その次の当時は唯一の2歳G1である朝日杯3歳S(G1)に出走した彼は14頭中14番人気でした。朝日杯の時点で8戦目。ただレースに多く出ているだけの馬、たまたま賞金を稼げた馬。そんな感じだったのかもしれません。なんせもう世間の目はナリタブライアンに注目が集まってしまっていたからです。前走の京都3歳S(OP)からシャドーロールを装着した完全態ナリタブライアンは見事に3馬身ちぎり1着。菊花賞馬である兄ビワハヤヒデより上ではないか、なんて言われだしていました。そんなナリタブライアンは素晴らしい差し脚で見事に快勝。ビワハヤヒデは朝日杯は2着だったので「兄の無念をはらした優秀な弟」などとも言われ、来年のクラシックはナリタブライアンが中心になっていくのが確実視されました。あ、そうそう。サムソンビッグは、

14頭中13着のブービーに終わります。

年が明け、有力馬は春のクラシックに備えて短いお休みにはいる中、我らがサムソンビッグに休みはありません。重賞2着が1回だけではまだ心もとないのです。年明け間もないシンザン記念に出走を決めます。ラジオたんぱ杯3歳S(G3)(現在のホープフルSに相当)を6番人気で勝利し、その実力がフロックでないのを証明するために出てきたナムラコクオーが1番人気の中、サムソンビッグは最低人気の12番人気。はい、そろそろ予想できてる方も多いでしょうね。

12頭中11着のブービーに終わります。

まだだ…。まだ本番までに重賞はある…。1月がダメなら2月だ…。2月には共同通信杯ときさらぎ賞がある…。まだ諦める時間じゃない…。しかもきさらぎ賞なら有力馬は…。500万下を強い勝ち方をしたマチカネジンダイコにメイトウリュウオウ、そしてシンザン記念でコクオーに7馬身つけられたけど2着に滑り込んだイイデライナーくらいしかいない…いけるか…?そう思ったのかどうかはわかりませんが、きさらぎ賞に出走したサムソンビッグ。11頭中11番人気だった彼は。

見事に勝利します。

動画での解説の通りですが、逃げ馬のいない中スローペースで単騎逃げ。見事に余力を残したまま直線へ入り、そのまましのぎきってしまいます。これが競馬の恐ろしい所であり、面白い所であります。動画で言われてる通り、重賞での単勝としては当時2番目の高配当であり、現在でも10番目という記録であります。こうして大波乱を巻き起こしたサムソンビッグは重賞馬となり、クラシック出走を確実なものとします、してしまいます。

その後同じ2月の3歳重賞、共同通信杯になぜか出て快勝していたナリタブライアンと一緒にスプリングS(G2)に出走、実に4回目の対戦になります。重賞を勝った事があるのは、ナリタブライアン、サムソンビッグと新潟3歳Sを勝っていたエクセレンスロビンだけ。それなのに、サムソンビッグは10頭中7番人気と、少し盛り返したものの、そこまで評価は変わりませんでした、はい。では。

10頭中9着のブービーに終わります。

長い前哨戦も終わりを告げ、競馬界にこの年も春がやってきました。クラシック開幕です。桜花賞では、あのオグリキャップの妹のオグリローマンが見事に勝利し大きな話題となりました。続く皐月賞ではビワハヤヒデの弟のナリタブライアンが圧倒的な1番人気になります。2週連続でG1の兄弟制覇になるのかと話題にもなっていた気がします。そしてナリタブライアンは…完全に覚醒します。

最終コーナーで内が開かないと見るとスッと外に出し、その後は引き離すばかりでした。強い。強すぎる。本当にそれしか浮かびません。そんなナリタブライアンとサムソンビッグは皐月賞では5回目の対戦です。ナリタブライアンから見れば、10戦中5回もサムソンビッグがいる事になります。まさに宿命のライバルと言っても過言では…いや、うん。言い過ぎました。18頭中14番人気。重賞馬なのに、14番人気。そんなサムソンビッグ。

18頭中17着のブービーに終わります。

それでも無事に走り終えたサムソンビッグ。賞金もあるし、次は栄光のダービーへ…。…え?京都4歳特別(G3)(現在の京都新聞杯に相当)?はぁ、きさらぎ賞と同じ阪神2000m(この年は両方とも京都競馬場改修の為阪神開催)なら勝負になるかも知れない、と。すでに皐月賞の時点で12戦もしてるんですが…。わかりました、やりましょう!となったのかはわかりませんが、ダービーの前に京都4歳特別に出走したサムソンビッグは、きさらぎ賞と同じ条件という事で人気を少し上げ!14頭中8番人気になり!

14頭中14着のシンガリに終わります。

悪化しとるやんけ!!!!!

それでも彼にはきさらぎ賞で稼いだ資金があります。あってしまうのです。サムソンビッグが「ダービーに出ます!」と言えば、サムソンビッグより強そうでも、賞金が足りない奴が1頭出れなくなるのです。それが競馬です。そしてサムソンビッグは…、堂々と、ダービーに出走します。馬にとって1度だけの、大舞台。もちろん1番人気はナリタブライアン。単勝1.2倍。もはや誰も彼もがナリタブライアンの勝利を信じて疑っていない数字です。そしてそれに応えるかのように、圧勝してのけます。

外へ外へと行きながらもなぜか後ろの馬とは離れていく…。本当に1頭だけ違うレベルで競馬をやっているのがよくわかります。そして…わかりますでしょうか。直線で後ろの方で1頭だけポツンと内ラチ沿いを健気に走っている馬が。そう、我らがサムソンビッグ。ゴールする瞬間が映らない程度には離されて。18頭立ての18番人気だったサムソンビッグは。

18頭中18着のシンガリに終わります。

それでも。サムソンビッグは。この世代で。18番目に強い馬なんです。それが、ダービーであり、ダービーの重さなのです。(勿論これは一つの判断基準であり、異論はある事も事実です)

さすがにもうボロボロだったのでしょうか。サムソンビッグは夏を休み、秋に入ってもレースに出走する事はありませんでした。セントライト記念をウィンドフィールズ、神戸新聞杯をスターマンと夏を越えて成長してきた新星が勝利し、菊花賞前のトライアル、京都新聞杯で2冠馬ナリタブライアンがその上がり馬スターマンに足元をすくわれるという事もありました。他にはヤシマソブリンが古馬や大器と言われていたマル外タイキブリザード相手に福島民報杯を勝利、トライアルでは無いものの菊花賞の有力馬として名前を上げていました。

そして本番の菊花賞は、当然のようにナリタブライアンが1番人気。丁度前の週の秋の天皇賞では兄ビワハヤヒデがレース中に故障、なんとか5着にはなるものの引退が発表された直後のレースになっていました。多くの人がビワハヤヒデとナリタブライアンの兄弟対決を期待しており(当然僕も)、それがもう叶わない夢になってしまった。そんな中でもナリタブライアンは見事に、勝利してみせます。

はい。こういうのを圧勝と言います。とんでもない馬です。兄のレコードを塗り替えて三冠達成とか、出来すぎじゃないですか。もう本当に強くてかっこよくてドラマチックな馬です。…え?いた?誰が?サムソンビッグが?ハハハ、そんな馬鹿な…

ほんまにおるやんけ!!!!!!

そう、フルゲート埋まらなかった事もありますし、きさらぎ賞での貯金もあって、サムソンビッグは菊花賞に出走できてしまったのです。ぶっつけで菊花賞という無茶であっても…。はい。最後になります。15頭立て15番人気になったサムソンビッグは

15頭中15着のシンガリに終わります。

3コーナーをナリタブライアンが駆け抜けていく所で一気に下がっていくサムソンビッグは、ナリタブライアンに何と声をかけたのでしょうか。「お前ならできる」「さぁ後はゴールするだけだ」等々…。想像するのは自由です。

確かな事は、この年のクラシック三冠レースである皐月賞、ダービー、菊花賞に全て出走した馬は、三冠を達成したナリタブライアンとサムソンビッグだけなのです。たった2頭だけなのです。サムソンビッグがブービー、シンガリ、シンガリの「準逆三冠」を達成していても、ナリタブライアンと7回も走った馬はサムソンビッグだけなんです。

クラシックは終わりを告げ、冬が訪れます。ナリタブライアンは最強馬として有馬記念へ。サムソンビッグは愛知杯へ。その後2頭は一緒のレースを走る事は…ありませんでした。

4歳時、ナリタブライアンは故障に苦しみ、サムソンビッグは重賞馬になってしまった故に、オープン以上のレースしか走れず苦戦続き…。

そして5歳になると、サムソンビッグ陣営に動きが出ます。平地を諦め、障害に転向することになりました。重賞馬の障害転向と言えばウマ娘的にはメジロパーマーが思い出されます。パーマーは結局障害に合わず平地へ再転向しG1を勝つ事になりますが。そんなメジロパーマーとサムソンビッグの友、ナリタブライアンが同じ厩舎だったのも、また一つの縁だったりするのでしょうか。そしてサムソンビッグはその障害デビュー戦で2年ぶりになる3勝目を飾ります!見たか、ナリタブライアン!サムソンビッグは復活したぞ!

するとです。ナリタブライアンも闘志を取り戻したかのように阪神大賞典でマヤノトップガンとの激闘を制し、天皇賞春でもサクラローレルの急襲に合うもの2着。全盛期の走りを取り戻した…、とは言い切れない走りでしたが、復活を見事に果たしました。友人のエールは、きっと、届いてたんです。

サムソンビッグが夏前に障害2勝目をあげた後、遂にナリタブライアンが屈腱炎を発症し引退を発表します。サムソンビッグはそれがショックであったのか(?)故障で1年休養、6歳の夏にまたターフに戻ってきます。復帰初戦で名障害馬ポレール相手に善戦の3着するも、その後、シンガリ、ブービーと懐かしい着順をゲットした所で、サムソンビッグの長いレース馬生にも終わりが訪れます。

サムソンビッグは引退後乗馬になったそうです。サムソンビッグという名前とは裏腹に420kg前後の小さな馬体で一度きりのレース馬生を走り抜けたサムソンビッグ。幸せな余生を過ごしていてくれたら…と願わずにはおれません。

…当初予定していた以上のボリュームになってしまった…。いったいどうしてこうなってしまったんだ…。サムソンビッグとナリタブライアンの間に友情があったかどうか、本当の所それはわかりません。ただナリタブライアンと1番多く走ったのはサムソンビッグ。それは間違いないのです。

さてネタばらしを致しますと、ナリタブライアンとサムソンビッグ。その関係は古い競馬ファンにはとても有名でございます。それはよしだみほさんが描かれている競馬漫画、馬なり1ハロン劇場で2人が主人公の回があるからです!ウマ娘にも多大な影響を与えている偉大な漫画です。読んだ事がないという方もいずれ目を通して、競馬の奥深い楽しみ方の一つに触れてもらえればなぁ、なんて思います。

長々と解説しといて最後に宣伝かよ!だって?

そうだよ!!

読んでもらいたいんだよ!!

よしだみほ先生がウマ娘アニメ2期で応援イラスト描いてくださった事の大きさをみんなにも知ってもらいたいんだよ!!

そんな訳でナリタブライアンという大きな光の影に隠れた1頭の馬、サムソンビッグを紹介させていただきました。次回も同じナリタブライアン世代から1頭紹介させていただこうかな、と考えています。

長々とした拙い文章を最後まで読んでくださってありがとうございました。

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