造血を維持しつつ選択的に血液がんを根絶する [Nature April 2024]

造血を維持しつつ選択的に血液がんを根絶する
原著: Selective haematological cancer eradication with preserved haematopoiesis
Simon Garaudé, Romina Marone, Rosalba Lepore, Anna Devaux, Astrid Beerlage, Denis Seyres, Alessandro Dell’ Aglio, Darius Juskevicius, Jessica Zuin, Thomas Burgold, Sisi Wang, Varun Katta, Garret Manquen, Yichao Li, Clément Larrue, Anna Camus, Izabela Durzynska, Lisa C. Wellinger, Ian Kirby, Patrick H. Van Berkel, Christian Kunz, Jérôme Tamburini, Francesco Bertoni, Corinne C. Widmer, Shengdar Q. Tsai, Federico Simonetta, Stefanie Urlinger & Lukas T. Jeker

簡単な要約

造血幹細胞移植(HSCT)は各種血液腫瘍を根治する唯一の治療法である。一方で標準的な化学療法は標的を絞ることはできず、またHSCT後の正常細胞を損なわずに腫瘍細胞だけを治療するのは困難である。抗原特異的な細胞減少療法はターゲットを絞って腫瘍細胞を根絶させることができる有望な治療法である。しかし、ターゲットの選択は複雑であり、血液細胞のサブセットに発現する抗原に限られているため、治療法の展望は部分的であり、開発に関わるコストも膨大である。ここで我々は、汎血液マーカーであるCD45をターゲットとした抗体・薬剤複合体(ADC)を用いてHSCを含む全血液細胞を抗原特異的に減少させることを実現した。CD45を標的とするADCから遮蔽されるように遺伝子編集された造血幹細胞(HSC)と、CD45を標的とするADCを組み合わせることにより、造血系を維持したまま白血病細胞だけを選択的に根絶されることを可能にした。CD45標的ADCと遺伝子編集HSCは、病因や細胞の起源に関係なく、病的な造血システムを置き換える普遍的な戦略を構築することができる。この試みは血液腫瘍を超えて広範な意味を持つことを示唆している。

実験内容

CD45は血液細胞に広範に発現しているマーカーである。CD45の欠損は複合型重症免疫不全を引き起こしてしまうが、アミノ酸を置換し抗体が結合できなくするだけならば発現と機能は維持されると仮定した。CD45標的ADCから逃れるHSCを開発し、HSCT後の治療法として活用することを目的とした。CD45を標的としたBC8、MIRG451のマウス抗体がCD45のどの位置にアミノ酸変異があった場合、結合できなくなるかを検討した。CD45K352の変異があった場合、BC8の結合は保たれるがMIRG451の結合の大部分が失われることが分かり、同部位を効率よく遺伝子編集できる条件(ABE8e-SpRY plus sgRNA-49.3)を見いだした。筆者らは臨床的に使用される可能性を考慮しMIRG451をヒト化しCIM053-SG3376を開発した。Jurkat細胞(T細胞白血病細胞株)と上記の遺伝子編集を施した造血幹前駆細胞(HSPC)を共培養し、CIM053-SG3376を投与したところ、Jarkat細胞は効率よく除去されたのに対し、遺伝子編集したHSPCは保たれた。免疫不全マウス(NBSGBW)に遺伝子編集していないHSPCもしくは遺伝子編集したHSPCを移植し15週経過したところで、SalineもしくはCIM053-SG3376で3週間治療し、骨髄、脾臓、血液を解析した。CIM053-SG3376で治療したマウスでは遺伝子編集していないHSPCはほぼ完全に除去されたのに対し、遺伝子編集したHSPCは維持されていた。治療後の骨髄を二次移植したところ、LT-HSCが検出可能で各種分画に分化した細胞も認められた。また、先ほどと同様あらかじめNSGBWにHSPCを移植し、その8週間後に急性骨髄性白血病(AML)細胞(AML細胞株もしくは患者由来AML細胞)を移植する。さらにその12週間後よりSalineおよびCIM053-SG3376で治療したところ、遺伝子編集したHSPCは保たれていたが、AML細胞はほぼ完全に除去されていた。遺伝子編集されていないHSPCはAML細胞と同様にほぼ完全に除去されていた。

感想

骨髄系マーカーであるCD33を編集することで抗CD33抗体からの標的を逃れ、同様の治療法を提案していた論文が以前あったが、コンセプトは同様。今回の論文はCD45なのでAMLだけでなくALLや自己免疫疾患など広い範囲での応用が可能となる。患者から造血幹細胞を採取し、遺伝子編集して患者に戻すという自家移植のセッティングだと腫瘍細胞の混入を避けるのは難しい。結局、まずは同種移植をすることになるわけで、同種移植自体の負担をなくせるわけではなさそうだ。ところで最近は通常のCas9ではオフターゲット効果のリスクが高いという認識が強くなっている。臨床応用に際しては、今回使用されたABEやCBEを用いた塩基編集の需要は今後も高まってくるだろう。ヒト化した抗体を新たに作製した点も含めて、今回の論文は臨床応用を強く意識していた印象だ。




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