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YAKUSOKU

いつものように息子を駅で拾い、 
家まで車を走らせていた。

リリリンリリリンリリリン


携帯の着信音。

夕方のこの時間帯は
女たちは忙しいので
電話は珍しい。

車を路肩にとめて
電話に出る。

「今、家におる?
 おったらちょっと来てほしい。」

なんだお隣のおばあちゃんだ。

「もうすぐ着きますので、ついたら  
 ピンポンしますね。」

玄関扉を開けると
おばあちゃんが立っていた。

「生協で頼んだものが
 冷蔵庫に入らないの。
 たくさん届くのよ。
 こんなに頼んだかしら。」

食べるのを手伝ってほしいと
私に手渡してくる。

冷凍ピラフ
めかぶ
酎ハイ

どんどん渡しながら
おばあちゃんは言う。

「宅配の人変わったの。
『あんまりいっぱい持ってこないでね』って言ってるんだけど、ひとつも笑わないで注文書と品物を全部確認していきはる。なんかこわいわ。」

おばあちゃん
注文した覚えがないって何回か
生協とやりとりしてるからなぁ。
いつも注文してるんだよね。
そうなるよなぁ。


おばあちゃんと私は
一緒にボイストレーニングに
行ってる。

ただしおばあちゃんは休みがち。
「無理しないこと」これが約束。

6月のレッスンも当日になって
「暑い」という理由でお休みしてる
それでいい。
次は9月か様子みて10月だねって言ってる。

100メートルもない坂道を
一緒に歩きながら
おばあちゃんはいつも言う
「この坂登るのがいいんだ。
 私は自分で登りたい。
 他の集まりも自分で
 歩いて行きたい。
 送ってあげるって言ってくれる
 親切な人もいるんだけど嫌な 
 の。なんだか嫌なの。」


昨日夕方ピンポンが鳴った。
「ここに腰掛けていい?」

玄関先の植え込みのブロックに一緒に腰掛ける。

「あんな。私、あの先生好きやね 
 ん。だからあの教室通いたい。」

「一緒に習ってるけど、本当に続け
 る?1人でも行きたい?私のため
 じゃない?負担になってない?」

私は言った
「なに言ってるの。
 おばあちゃんお休みで
 1人で行く時も楽しいよ。」

ちょっとは大変なんだけどね。
先生におばあちゃんの出欠連絡
するのは。
前日に連絡して、当日出発30分前に気が変わったりもするから。

先生がいい先生でよかったなぁ♡
おばあちゃんのことわかってくれてる。私の立場も。

おばあちゃんはちょっと安心したみたい。

おばあちゃん:
「今度行く時なんやけど、
 車乗せてってくれへんか?
 車代は払うから。」

私:
「乗せてくのはいいよ。
 すぐそこだからお金はいいよ。」

おばあちゃん:
「いや払いたい。いうて。
 好きな金額。」

私:
「あー。もしかして逆にタダやと
 気い使うん?」

「わかった。グミちょうだい。
 子どもに。」

おばあちゃん:
「グミはあかんわ。お金にする。
 私が決めるわ。」

私:
「ほなグミ代もらうわ。
 期待してる。」

ふふふと2人で笑った。


90才のおばあちゃんの
次のレッスンは9月か10月

この約束覚えてるかな?
この約束実行できるかな?
この約束の意味はなにかな?
ただ喋りたかっただけかな?


ひとつ思うのは
よくわからない未来の約束を
私に頼んでくれたのは嬉しいな。

おばあちゃん約束励みに
この夏も乗り切ってちょうだい。

なんのはなしですか

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