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グレースと伝令者テオリア、そしてしばいぬ[外伝]①

ハイノン国にはカガワーナーという町もあった。ラーナ町のはるか東、カドゥーホイの町の南西に位置し、都会的な雰囲気でハイノン国の若者はみな憧れる、雨ざらしの巨像で有名な町である。

この町の港には世界中の船が毎日のようにやってきては出てゆくのであった。外国船も珍しくはない。

この日も、大海を大きく巡回する船からたくさんの乗客が降りてきた。
その中に一匹の犬を連れた女の姿があった。

一見すると女はごく普通であった。スカートの柄が寿司柄であるのと、美しくまとめ上げた髪にウミウシの髪留めをしている点を除いては。

女は船で仲良くなった犬をそっと撫でた。犬もごく普通である。女を怖がる様子もなく嬉しそうに尻尾を振って見せている。犬種は柴犬のようであった。睾丸はない。港町ではよく見かけるなんとも微笑ましい光景である。

実はこの柴犬、ハイノンから遠く離れた南の国ジューランドーニから来ており、もとは家族の願いを叶えるため自らの姿を柴犬に変えてしまった美しい1人の女であった。首輪にはピテュスと名が刻まれている。しかしなにぶん今は犬の身であるため、事情を知るものは誰もいないのであった。柴犬は人間の姿に戻るためにこの船に乗って来た。柴犬もまたあの不思議な帳面を愛読していたのであった。

そして柴犬を優しくなでる女の名はグレースといった。グレースは帳面からある知らせを知り、船に乗り込みカガワーナーの地に降り立ったのだった。
可愛いグレースを1人船に乗せるのを彼女の夫は大変心配した。いくら引き止めても行くことをやめないことを知り、夫は彼女を行かせることにした。
「これを髪にさしてゆくといい。きっとお前を守ってくれるから。」
そういって夫が手渡したのが、先ほど述べたウミウシの髪留めであった。なるほど素性もしれないものも多く乗る世界を巡るその大型船で、その類まれなる美貌にもかかわらずグレースに近づこうという勇敢なものはただの1人もいなかった。ウミウシは彼女を護ったのだ。

彼女と柴犬は陸地に立つと、ただちに丘を目指した。これはこの港では変わったことだった。カガワーナーの町に来るものはたいてい港を楽しむものだ。中には雨ざらしの巨像を見物しに行くものもあるがそれはごく一部だ。

この港を見下ろす丘の上。
そこに続く道は行き止まりだ。
そしてその道の突き当たりには一つの館があった。

[続きはティコが書きます🩷]

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