正気を保つコツ
いつも
ちゃんとした格好をして
ちゃんとしたことを言って
ちゃんとした仕事をして
よりちゃんとしようと
情報を獲得し
コツコツと実践しては
その様子を話してきかせてくれる
友達がいる
艶のある髪を揺らし、
小鳥の囀りのように話し
鈴を転がすように笑う。
服には奇抜なところがなく
ノートに落書きなんて一切しない。
…まともすぎて
一周まわって面白いとも思う
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彼女がまともな話を
熱心に話すのを
私はいつも大変真面目な顔で
頷いてきいている。
私は普通まともな話はそれほど好まない。
けれども彼女の話をきくのは面白い。
まともな彼女が
実践してみたい
温泉での美しい所作
などという話をしている
その相手が私なのである。
完全に
相手を間違えている。
シュールだ。
話の内容が
ちゃんとしてればしてるほど
ただその1点がひたすら面白い。
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しかしそのうち
金太郎飴のように
どこを切ってもまともというのは
一種異様であるように感じてくる
「一体どうやって正気を保っているのだろう?」
そんな疑念がわいてくる。
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ある日彼女に
ホテルのフェイスエステに
いってみないかと誘われた。
彼女は今度は
お顔のお手入れに
熱心に取り組んでいたのだ。
エステには
続けて通うのは厳しいが
ホテルならば一度きりでも
問題ない。
私は面白そうなので快諾した。
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彼女と私は薄いカーテンを隔てたベッドに横になり同時に施術してもらうことになった。
いってみてビックリした。
どうして
こんなに気持ち良いの?
アロマエッセンスの良い香りに包まれ、ボリュームを抑えたスタッフさんの声とBGMが私をすっかりリラックスさせる。
いろんなものを塗ったり落としたりしてくれるのだけどその手の温度、感触の心地よさといったらない。
クリーミー、サラサラ、クリーミー
あったかいタオル、冷たいタオル、あったかいタオル
……
あまりの心地よさに
私は耐えきれず
寝てしまった。
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ムヒャハピャハッ
ゴエーツッ
私はこれまでの
人生で聞いたことのない
音で目を覚ました。
変な音はカーテンを隔てた向こうから出ていた。
「どうしたの?」
私は尋ねた。
彼女が話せるようになるまで私は待った。
しばらくして彼女は平静になった。
いつも通りの小鳥の囀りの声で
「だってミルコちゃん寝息たててるんだもん。」
と言った。
恥ずかしいな。
私はどうやら
イビキをかいていたようだ。
私はエヘヘと笑った。
彼女もコロコロ笑った。
それにしてもさっきの音はなんだったのだろうか?
イビキのことを寝息と言う
いつもの彼女に戻ったことに
私は非常に安心した。
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帰り道
彼女が
正気を保っている秘密は
変わった友達と付き合って
時たまあの音を出すこと
かもしれないと私は考えた。
なんのはなしですか
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