無題PART14或は専属運転手

夜子の会社には、社長の運転手も毎朝顔を出した。車を洗い終えた後、社長の出勤までヒマなのだ。

「これがボスの若かりしころの仕事かぁ。」ストーブに当たりながら、取り止めのない話をしていく、強面だが実は優しいところのある運転手の話に夜子は聴き耳を立てていた。

ちなみにボスは、運転手の仕事に一切口を挟まない。お返しに、運転手も、ボスのする社長の物真似などをを「ひでぇな」と笑いながらちゃんと黙ってくれている。お互い領分をよくわきまえている。

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夜子がちょこちょこ聴き続けた話はパズルのピースのようなものだ。
全体像は未だもって不明だ。

それでも社長の専属運転手という仕事についてはこんなことが言えそうだ。

昼は楽勝。
何故かというとスケジュールがわかってるからだ。

問題は夜。
ハシゴ酒を待たなくてはならない。
しかも二軒目三軒目にどこに行ったかなんて社長に聞いてはいけないのだ。
馴染みの店の全てのママさんに顔を覚えてもらって、誰と飲んでいたか、出会ったかを聞き出し、おおよその推測をたて、その店のママさんに確認する。
これを深夜までやる。
深夜まで辛抱強く待って、最期が愛人に持たせた店だと、またこれが待って良いのか難しい。
自分のサロンのように安心できるその店で、秘密の話をしていたりもするのだから、家に帰る場合も充分考えられるのだ。
社長の帰宅は毎晩遅い。これは夜子の推察だが、秘密の会合がいつ行われているかわからなくするためには毎晩のように飲み歩いていなければバレてしまうのだ。

運転手はそんじょそこらの社員より社長のことをほとんどと言って良いほど知っている。
逆にいうと運転手を任せられたというのは、社長から全幅の信頼を得ているということでもある。

運転手はまるで超能力者のようであると夜子は思った。人の顔や名前をなかなか覚えられない夜子にはとても務まらない。

ひょっとすると運転手は夜子の勤める会社のスパイも兼ねていたかもしれない。ボスは自分が任された会社に社長が入ってくることを禁じていたからだ。そういえば運転手もボスもそんなこと百も承知で毎朝顔をあわせていたのかもしれない。何もわからない。

とにかく運転手の仕事のうち夜子が覚えておこうと思ったのは
ベンツはママレモンで洗って良いということくらいだった。

運転手の話のうち1番夜子を笑わせたのは
「社長、昨日庭の池に向かって小便してたわ。」
である。

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「423○‼️緑！おうい誰かホワイトボードに書いてくれ！！」

一度ボスが昔の癖を出したことがある。
ホワイトボードに書き終えた誰かが
意味の説明を求めた。
朝帰りの社長を送って来た、たぶん愛人であろう女性の車のナンバーだった。
意味がわからなかったが、みんな笑ってその数字はしばらくホワイトボードから消えなかった。

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愛人といえば、ボスにも彼女がいた。多分いた。
「ちょっとみてくれよー。俺の彼女綺麗だろ。」
と写真を見せてきたから間違い無いと思う。他の社員のリアクションが薄いことからずいぶん長い付き合いなんだろう。
しかしこのような時に普通どういった相槌をうつものなのかさっぱりわからなかった夜子は驚きを隠して、
「本当にお綺麗ですね。」
みたいなことを言ったと思う。
つまらない感想だ。

ボスは嬉しそうにして、その後声を張り上げて会社の男どもに
「誰か割引券いるかー？」
と言った。
「俺もらっとこっかなー。」
「じゃっ俺も！」
「ありがとうございまーす。」
何人かホイホイ貰ってた。

なんの割引券かと思ったら
ラブホの割引券だった。

とんでもねぇ会社に来ちゃったなと
夜子は口をアングリさせながら思った。
元運転手はそんなとこまで
敬愛する先代の社長の真似をするのかあ。

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そしてボスを快く思っていた男達は
今度はボスの真似をして、各々の武勇伝を職場で誇らしげに語り合うのだった。

1番面白かったのは骨折して出勤してきた男の話だ。
骨折の理由を尋ねたらとんでもなかった。

女性にアパートに手引きされてイチャイチャしてたら旦那が帰ってきて、慌てて玄関の靴を持ってクローゼットで息を殺してた。女性が旦那に風呂を勧めたから、その隙に、2階のベランダから飛び降りたというものだ。

「足2本とも折れれば良かったのに❣️」
と言いながら朝子も夜子も腹を抱えて笑った。

全く碌でもない話ばっかり聞いていたが、皆屈託なく話すので、夜子は自分の旦那じゃないぶんには大変面白かった。

ちょっと思うのはみんな派手に遊びますけど、必ず奥さんと子どもの待つ家には帰りますね。遊び慣れてるからでしょうか？夜子にはよくわかりません。遊びには女性関係に限らずパチンコ、いっぱい呑み、ちょっとした寄り道も含みます。なんとか気分転換して家という現実に帰っていくんですよ。なので、知らなかったらすむことが世の中には多くあるような気がします。

あれ？なんのはなしでしたか？