下書き再生工場参加します♡「へそのラムネ♡」
「今日はもう誰も来ないな。」
男は1人でやってる喫茶店の閉店準備をはじめることにした。
カランカラン♪
入り口のドアにぶら下げてあるドアチャイムの音がする。
振り向くと、そこに女が立っていた。
美しいが、どことなく憂いを帯びている。
「あの、もう閉店ですか?」
やれやれ。
閉店準備の手をとめて男はいった。
こんなことはときどきあることだ。
「大丈夫ですよ。飲みのもくらいはまだ出せます。」
女はほっとしたように案内した椅子に腰かけ、メニュー表に目を通さずにコーヒーを注文した。
「よく冷える夜です。」
男がそれだけいってカウンターにもどろうとした。
小さな声で女が言った。
「やっぱりホットミルクにしようかしら。」
「ホットミルクですね。少々お待ちください。」
ホットミルクの注文はなかなかでない。
男は小鍋で注意深くミルクを温めた。
「おまたせしました。」
温めておいた大きめのカップにミルクを注いで女のところへ差し出す。
あとはミルクに任せよう。
男がカウンターにもどろうとすると
カップを口に近づけながら女が口を開いた。
「わたし誰も愛せないの。」
泣いている。
男は立ち尽くして黙っている。
「へそにラムネがあるのよ。」
女は続けた。
そのラムネは月に一度ポロリと落ちる。
しかし落ちたと同時に小さな新しいラムネがヘソに現れる。
そして一月の間にどんどんおおきくなるのだと。
この体質のせいで、どうしても誰とも結ばれないのだという。
話し終えてもなにも気配が変わらないのを不思議に思って女が顔を上げる。
男は頬を濡らしていた。
女があわてて、テーブルの上のペーパーナプキンを差し出す。
「あなたが気にすることないわ。なんにも関係ない人に話してみたかったの。」
男は自分の店のペーパーナプキンをごっそり掴んで渡してくれる女の親切に少しおかしさを感じながら、自分も話てみようと思った。
「そういうわけではないんですよ。ただ、私も時々鼻からサイダーがでるので結婚できません。ですから自分のことを重ねてしまったのかもしれません。」
「サイダーはどんなときにでるの?」
女は泣くのをやめて完全にサイダー男の涙に興味を移した。
「この人が愛おしいなと思ったとき。」
というかわりに、男は頬を赤らめた。
女はその様子を見てしばらく考えた。
「ねぇ。ひょっとするとそのサイダーを…」
どういうわけだか男はその先を女に言わせてはいけないのを知っていた。
つまり気がつくと男は女の唇を
美しく長い彼の人差し指でそっと押さえていた。
それから男は黙ったまま扉を閉めて灯りを落とした。
女もその様子を黙ったままみていた。
そして二人はいよいよコーナーのソファ席に移動した。
女はソファに寝転んで、スカートに入れたブラウスを引っ張り出した。
そこにラムネが鎮座した女のへそがあった。
「とてもきれいなラムネだ。」
男ははじめてあったこの女のことをたいそう愛おしいと思った。
ほどなくして女のヘソに男の鼻からサイダーが落ちた。
🫧シュワシュワシュワシュワ🫧
サイダーのせいでラムネが溶けだし
その気泡と音と共に産まれたのが
2号店である。
2号店の店長は女がつとめることになった。
2人はそれからも会った。
次は3号店が生まれてしまったらどうしようかと思ったが、次に生まれてきたのは男の店長代理だった。
安心した2人は次に3号店を産み。
その次には女の店長代理を産んだ。
そして4号店を産んだころ、女は次はお腹の中から5号くんが産まれそうなことを知った。それを聞いた男は大いに喜んだ。
5号くんは店長になるかどうかなんてわからないねと2人で話したりして夢中になっていたら、いつのまにかヘソあるラムネも鼻からでてたサイダーもなくなっていた。
夫婦になった2人は
馴れ初めを聞かれると
どうもよくわからないなと
今でもおもう。
2人の間に産まれた赤ん坊は
キスするとオナラが出るんだけど
2人はちっとも気にしていない。
そして4店舗とも今日もぼちぼち営業中だ。
すのうさん楽しい企画ありがとうございます♪
みなさんの作品も楽しませていただいてます🌸
不思議なボツネタばっかりでみてるだけで楽しいです😇!
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