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ユートピアのつもりがディストピア

A・W・シェフ「嗜癖する社会」1990年代は嗜癖の時代とも呼ばれる。 誠信書房 より
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■完全主義
嗜癖者を、強い向上心と意欲を持つ人びとと考えるのは難しいかもしれませんが、嗜癖者の多くがその傾向を持っているのは事実です。アルコホリック、薬物乱用者、強迫的な過食者たちは完全主義者です 。自分は物事を完璧にやれないから良い人間ではない。方法さえ見出せば完璧にやり遂げられるはずだと彼らは考えています。

嗜癖者の治療に携わる人びとは、回復へ向かう際の大きな障壁として完全主義をあげています 。完全を目指さなくてもいいのだと嗜癖者に悟らせること、何はともあれ自分は良い人間なのだと認識させることは、非常に困難なことです。 自分は悪い人間であり、良い人間にならなければという考えに、彼らは固執します。それは自分の病気を治そうとする試みではありません。

完全を目指すことは多大な重荷となります。それは、常に答えを知っていること、常に的確な情報を得、正しい行いをし、決して過ちを犯さず、常に自分の失態を叱責し鞭打たねばならないという意味なのです。同時に、彼ら完全主義者を取り巻く人びとも完全でなければならないということです。完全主義者は他人の欠点を指摘することにはきわめて才たけているものです

嗜癖システムでは、完全となることは可能だと考えます。完全主義がいかに白人男性システムと反応性女性システムの二元化に関連しているかを例証してみましょう。そうすることで、嗜癖システムと白人男性システムがまったく同 一のものであることが、よりいっそう明らかになるでしょう。

(中略)このシステムにおける女性がいかなるものであるかは、おのずと想像できるでしょう。女であり人間である人びとは、何ができるかによらず、生まれ出た瞬間から二重の悪を背負うことになります。良いものとなるには、システムが定めた神のごとくならなければなりません。

それができれば、彼女は受け入れられるでしょう。神となることも可能だと いう同じ幻想の下で、男性も苦悩しています。神のごとくなることを受け入れた男性や女性たちは、その人間性を卑め、捨てなければなりません

しかし私たちは人間です。 神をいかに定義しようとも神になることは不可能です。人間としての潜在能力を認識しないままに私たちは挑み、そして失敗し続けます。完全主義者とはこうした強迫行動を繰り返す人のことです

嗜癖システムにおける完全主義はまた、白人男性システムの第二、第三の神話と関連しています。第二の神話は、白人男性システムは生来的に優越しているというものでした。 自分が生来的に優越していることを証明するためには、あるがままの自分を否認しなければなりません。自分自身とその人間性を拒否することが、完全主義の幻想を支えていくのです

第三の神話は、白人男性システムはすべてを知り理解するというものです。私たちの文化においては多くの者が、あらゆる事柄を知り理解しようともがき、当然ながら失敗し、その繰り返しに日々を送っています。このシステムの中に女性が入りこむと、彼女たちもまた同じ重荷を背負いこみます。彼女たちは、何も成し得ず、何も知らず、興味さえも抱いていないような事柄を狂信的に追いかけています。彼女たちは白人男性のようになろうとしています。要するに自分が知っていることを否定し卑下しているのです。 同じように、嗜癖者たちは(彼らはまた完全主義者でもあります)、自分の資質や長所、持っている知識に決して目を向けようとはしません。代わりに、彼らは自分が知らないこと、できないこと、理解していないことにばかり固執します

完全主義を要求するシステムにおいては過ちは許されません。私たちはどんな間違いも犯さないかのように振る舞わなければならないので、自分の失敗から学ぶことができなくなります。私たちは失敗を隠し、繕わなければなりません

ある集会に参加した患者が興味深い話をしてくれました。彼女は地元の精神科医によるワークショップに参加し、その医者の率直さにとても感銘を受けたといいます。彼は、男性、特に男性の精神科医にとって、「何でも知っているかのように振る舞わないということがとても重要だ」と主張したという のです。 この患者は、 これは大きな前進への一歩だと感じたと言い、私もまた同感でした。

この医者の指摘は、彼が真実の一段階を通過したことを物語っていますが、まだ次の段階へ進んだとは言えません。「自分が完璧ではないことを、自覚しなければなりません」と彼は言ったそうです。「私たちはミスを犯します。完全でな いことを認めてもいいのです」。彼が見落としているのは、ミスを犯すことそれ自体が、完璧になること、つまり自分自身を知るための方法なのだという点です。彼にとって、間違いは依然として受け入れがたいも ののようです

嗜癖システムが完全主義を達成するためのもう一つの方法は、あらゆる物事を定義してしまうことです。システムによって定義できない何かは(その定義上)存在できないし、それが存在しないのならば、それに対処しなくてもよくなります。人は全知のイメージでもって、完全さが守られる事柄のみを選んで対処すればよいのです。その結果、知識の膨大な領域において、無効な探索されないものが残されてしまいます







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