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無意識のなかに潜むヴォータン的な要素

■ユングが「金髪の獣」を予言➡ アンソニー・スティーヴンズ「ユング」講談社選書メチエ より

恐るべき先見の明によって、ユングは1918年に発表した論文で、すでにナチスの勃興を予言していた。

キリスト教によって、未開ドイ ツ人は上半分と下半分に分裂し、暗い側を抑圧することによって、明るい側を飼い馴らし、文明に適応させた。だが、暗 い下半分はいまだに救出を、第二の馴化の呪文を、待っている。それまでは、先史時代の痕跡や集合的無意識と結びついたまま、独特な形でどんどん活性化されていくだろう。キリスト教的な世界観がその権威を失うにつれ、「金髪の獣」が、いつでも飛び出していってすべてをめちゃくちゃにしてやろうと身構え、地下牢のなかをうろつきまわる音が、ますますはっき りと聞こえてきて、人びとを脅かすであろう。「無意識の役割」

■「神々の黄昏」で終わるゲルマン神話
キリスト教と、ドイツ社会の統制のとれた階層的構造とが、ドイツ人の無意識のなかにひそむヴォータン的な要素を抑圧していた。ヴォータンは、嵐と狂気をつかさどる情熱的で非合理な戦の神であり、その暴力的な精神は人びとの心をつかみ、逆上させ、血と破壊を渇望させる。そうした恐るべき元型 の痕跡が、いまや動きだしている、とユングは訴えた。1926年、ユングはあえて異端的な説を述べた。すなわち、『ヴォータンの性格の底知れぬ深さのほうが』経済的原因や政治的原因にもとづいた説明よりも『国家社会主義をよく説明できる』と。ゲルマン神話の大きな特徴は、最後に神々が暗闇の力によって倒されることである。神話のドラマは「神々の黄昏」で終わり、1945年の第三帝国のように、神々の住むヴァルハラは炎に包まれる。1936年に、ユングは、ヒトラーはこれまで抑圧されてきたヴォータン的要素の虜になっている、と指摘した。

ドイツの現象の印象的な点は、明らかに「憑かれた」ひとりの男が国民全体を一色に染め上げ、それによってすべてが動きだし、地獄に向かって落下しはじめたことである。➡ ユング「ヴォータン」

■オーディン 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
アングロサクソン人に信仰されていた時代の本来の古英語形は Ƿōden(Wōden, ウォーデン)であり、これは現代英語にも Woden, Wodan (ウォウドゥン)として引継がれている。また、ドイツ語では Wotan, Wodan (ヴォータン、ヴォーダン)という。八世紀にイタリアで書かれた『ランゴバルドの歴史(英語版)』では G(w)odan(ゴダン)という名前で言及されている。

オーディンは、北欧神話の主神にして戦争と死の神。詩文の神でもあり吟遊詩人のパトロンでもある。魔術に長け、知識に対し非常に貪欲な神であり、自らの目や命を代償に差し出すこともあった。

(神話)ユグドラシルの根元にあるミーミルの泉の水を飲むことで知恵を身に付け、魔術を会得した。片目はその時の代償として失ったとされる。

また、オーディンはルーン文字の秘密を得るために、ユグドラシルの木で首を吊り、グングニルに突き刺されたまま、9日9夜、自分を創造神オーディンに捧げたが、このときは縄が切れて命を取り留めている。

オーディンとは本来この創造神の名前であり、最高神オーディンは、その功績から創造神と同じ名で呼ばれるようになったとされている。

グラズヘイムにあるヴァルハラに、ワルキューレによってエインヘリャル(戦死した勇者)を集め、ラグナロクに備え大規模な演習を毎日行わせるという。この演習では敗れた者も日没とともに再び蘇り、夜は大宴会を開き、翌日にはまた演習を行うことができるとされる。

愛馬は八本足のスレイプニール。フギン(=思考)、ムニン(=記憶)という2羽のワタリガラスを世界中に飛ばし、2羽が持ち帰るさまざまな情報を得ているという。また、足元にはゲリとフレキ(貪欲なもの)という2匹の狼がおり、オーディンは自分の食事はこれらの狼にやって自分は葡萄酒だけを飲んで生きているという。

その姿は、主に長い髭をたくわえ、つばの広い帽子を目深に被り、黒いローブを着た老人として描かれる。戦場においては黄金の兜を被り、青いマントを羽織って黄金の鎧を着た姿で表される。

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