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失われた50年 その4

第二の敗戦

出典:独立行政法人経済産業研究所
「政府債務残高名目GDP比は過去120年最悪の水準」より


ラビ・バトラ「JAPAN 繁栄への回帰」1996年3月6日 初版発行/総合法令出版

赤字国債による失業対策という過ち

1965年までの政府予算は均衡していた。1947年に制定された財政金融法によって、インフラ(社会的生産基盤)を整備するための建設国債の発行は認められていたものの、これらの債券は発行されることはなかった。とにかく 1965年まで、予算の政策はしっかりと均衡を作り出していたのである。

1965年から1974年の間 には、財政赤字補填のために実際に建設国債が発行された。ただしその額は小さく、本来の目的はインフラの整備を通して民間企業の資本形成を促進しようとしたものだった。したがって厳密にいえば、 この建設国債の発行は法的に財政赤字補填しようとしたものではなかった。またそれは、財政赤字に対する政府の施策を表明したものでもなかった。

本当の財政赤字が始まったのは、失業に対して政府支出が増大していった1975年になってからのことである。この年、いわゆる赤字国債が戦後初めて発行されることになったのである。この意味からいえば、1975年は転換の年であり、プラウトのいう均衡財政の最後の年であったといえる。

日本政府は当初、この赤字国債の発行も一時的なものであり、財政の状態はできるだけすぐに、遅くとも1980年までには絶対に回復すると考えていた。しかし赤字は1980年まで増え続け、さらには1990年まで続くことになったのである。

GDPに対する財政赤字の割合は1970年には0.5%であったが、1975年には3.5%に急上昇した。その後ゆっくりと上昇して、1979年にはピークに達し、6%となった。その割合はピークを過ぎるとゆっくりと下落して1990年 には 1.3%まで減少し、この年には赤字国債の発行はされなかった。ただしそれもあくまで一時的な中断で、1995年の末までに、地方債・国債の発行 ベースで財政赤字の割合は7.5%にまで再び上昇してしまったのである。

財務省:特例公債からの脱却と重要施策の推進 ―対外関係の重視とバブル経済終焉の中で―


1975年 から1990年までの赤字の割合は平均すると4%であり、同時期のアメリカの3.7%より高かったといえる。財政赤字に関してはアメリカは世界の先駆者といえるが、赤字の割合に限って考えれば、日本はアメリカを上回っていたことになる。

公平に見るならば、1975年以降にも日本の赤字には投資による要素が多少なりとも含まれていたが、アメリカの赤字のほとんどが消費によって作られたことに触れておくべきだろう。しかし、この赤字の出し方に関してアメリカを糾弾することで、日本が赤字支出への対応をいかに急激に変えていったかをみることができる。

そして日本の政策は、今や失業対策として財政赤字政策をすすめるアメリカの学者によって、導かれることになったのである。

この財政赤字政策は機能するときと機能しな いときがある。要は、需要と供給ですべて決まってくるのである。

国全体の供給がその需要より下回っているときには、財政赤字は物価を引き上げ、インフレを加速させていく。1970年代に起こったケースがこれにあたる。石油価格の急騰によって供給が急落したときである。このようなときに赤字国債で失業対策をするのは明らかに間違いであった。この政策はアメリカの専門家と、その専門家の教え子である日本人によって推奨されたが、その間違いのために両国は大きな損失を被ったのである。

赤字国債などによる財政政策は、国全体の需要が供給を下回っているときには効果がある。そのときにはインフレを管理できるからだ。ただしそんなときでさえ、赤字国債は安易に発行してはならない。なぜなら政府に利払いが発生するからである。財政赤字を補填するならば、その代わりに紙幣の増刷をすべきである。

たしかに赤字国債の発行は、当然訪れるが一時的でしかない「危機」を解消してはくれるが、その反面、未来の世代に永続的な問題を残すことになるのである。

1988年のアメリカの負債の利払 いが15%だったのに比べ、日本では、予算の20%にのぼる額が負債の利払いに当てられてしまったのも今述べた理由からである。

日米両国とも過去の債券発行による巨大な負債を積み重ねてきたという点では同様であるが、GDPに対する比率という点では、日本の負債による負担はアメリカよりもずっと重い。1990年代 に入って金利は急激に下落してはいるものの、現在の利息にかかる負担は依然として大きいのである。

プラウトが赤字国債発行による財政補填に基本的に反対するのは、それが結局はこのような利払いに追われる状況をもたらすからである。

出典:日本生命/3分でわかる新社会人のための経済学コラム より

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