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貿易の自由化がもたらした害

ラビ・バトラ「貿易は国を亡ぼす」1993年12月20日 初版第一刷発行/光文社 より
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多くの国の体験が示す実例によると、繁栄は農業やサービスよりも製造業の拡大にずっと多くを負っている。これは製造業の労働生産性が他の部門よりずば抜けて高いからである。したがって、その給与は他の分野の150ないし200’%におよぶ傾向がある。自由貿易が製造業を奨励するとき、一般の生活水準ばかりでなく、総体としての生産性が高まる。しかし、それが製造業を犠牲にしてサービス業を育成するとき、実質賃金ばかりでなく、生産性の伸びも低落していく。

貿易ではなく、製造業が繁栄の主たる源泉

である。昔もいまも、このことは歴史によってあますところなく確認される。アメリカでは、1970年以来一貫してサービス業が製造業にまさっていた。その結果、

経済の展望そのものが変わった 貿易の自由化がこの変容の元凶

であることが判明している。それはアメリカの歴史に前例のないことである。今日、労働人口のわずか17%しか工業部門に従事してはいない。残りは、サービス業と農業に従事している。したがって、インフレ調整後の賃金が1972年以来19パーセントも下がったことは驚くにあたらな い。他方、貿易量は倍増し、関税は5パーセントに急落した。いまや

小売業における税引き後の実質利益の薄さは、大恐慌のころに匹敵している

のだ。1970年代以来、外国の、ときには一日数ペニーで働く労働者がつくった安価な輸入品が、アメリカの工業を次々に破壊し、絶滅させさえした。一方、政策担当者は、民主党と共和党をわず、拱手傍観(手をこまねいて何もせず、ただそばで見ていること)した。なかでも、鉄鋼、カメラ、テレビ、ビデオカセットレコーダー、繊維製品、靴などをつくる地元の会社が、日本、台湾、韓国、シンガポール、中国からの輸入品の餌食にな ったことは、公然の秘密である。アメリカの貧窮者や失業者の苦しみをよそに、輸入品の奔流は恐ろしい速度で流れつづけている。

いまのままこの趨勢がつづけば、1990年代が終わるまでに、アメリカの自動車産業はほとんど消滅してしまうだろう。そして、コンピューター、工作機械、医薬品も同じ運命をたどるだろう。理由は以下のとおりである。 外国の労働がそれほど安くては、アメリカの技術がいかに優秀であろうと、アメリカの産業は外国の製品と競争していけないというだけのことだ。

自由貿易は、アメリカにたいしてヒトラーと帝国主義の日本が戦争中にできなかったことをやってのけた

こうした明白な証拠にもかかわらず、自由貿易がなぜこれほどにもてはやされ、保護主義がこれほど評判が悪いのか。現在、アメリカは戦後最長の景気後退のさなかにある。しかし、保護主義勢力は通常、不景気のときに勢いづくものだが、これまで保護主義には政界や学界の支持がほとんどなかった。産業がこれほどひどく荒廃したのに、なぜ保護主義者には輸入品の奔流を妨げる立法措置に関して証明すべき点がほとんどないのか。それは

保護主義者がまだ筋の通った主張をしていない

からである。 彼らはいつも、いわゆる「独占的な保護主義」に味方してきたが、それはとりもなおさず国内産業を、その独占的構造を変えずに保護することだった。また彼らは、押し寄せる輸入品のアメリカ経済におよぼす破壊的な影響を、証拠書類として提示することにも失敗した。

他方、自由貿易主義者には、多国籍企業とアメリカのエリート層の支持を受けて強力なプロパガンダを展開する院外団(ロビイスト)がついていた

本書は、ことによると、保護主義に賛成する体系的かつ説得力のある主張を提示する最初の試みとなるかもしれない。私は貿易の自由化がもたらした旧に復することの不可能な損害を立証するばかりでなく、保護主義が潜在的にもつ悪い影響から守るために、適正な保護主義政策を考えている。アメリカ の生産性が上がるとき、その成果をさらっていくのが外国の労働と多国籍企業であることを示すために、私はほかならぬ『大統領経済報告』が提供する数字を利用した。読者がいっそう勤勉に働き、能率をあげているというのに、賃金がひどく下がるとすれば、システムのどこかが間違っているのだ。

自由貿易がアメリカにもたらしたことこそまさにそれ

であり、この政策のもたらした荒廃をあばくのが本書の役割である。




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