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背骨を折る一本の藁

ラビ・バトラ「貿易は国を亡ぼす」1993年12月20日 初版第一刷発行/光文社 より
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貿易が国を損なうとき、保護主義だけではどうしようもない。それにともなって国内の企業や産業のあいだで競争がさかんにならなければならない。競争がなければ、地元の会社はあっさりと価格をつり上げ、見掛け倒しの製品をつくり、役員に法外なボーナスを支払うだろう。これこそまさに独占的な保護主義がやっていることである。しかし、本書が求めるのは、

競争をうながす保護主義、つまり輸入と競争する独占企業を解体して小さな会社にし、同時に略奪をほしいままにする外国との競争から、それらをしっかり守る

という考えである。今日、保護主義から恩恵をこうむるのは生活水準にかぎらない。

国際貿易はあらゆる経済活動の中で最悪の汚染源である

ことに気づいている者はほとんどいない。事実、

外国貿易は、同じモノを地元で生産するのに用いるエネルギーの倍の量を消費する

外国貿易の環境破壊は、製造業や農業やサービス業とくらべてはるかに大きい。かりにアメリカが競争をうながす保護主義を採用するとすれば---つまり、外国との競争から守って国内産業の独占をはかると同時に、小さい単位に分割するならば・・・短期間でその経済的病弊をほとんど癒すことができるだろう。

生産性、賃金、実質収入が急上昇する一方で、財政赤字は急減し、エネルギー価格も急落するだろう

同時に、貿易赤字は解消され、何よりも地球の汚染が抑制されるだろう

このすべては、関税率を現行の平均5%から40%程度まで引き上げるという簡単な措置から始まる

のだ。読者は、控え目に言 っても、うさんくさく思うことだろう。しかし私は、自分の主張と、それを支える証拠が読者を信者に変えてくれるも のと確信している。この著作は、わが国がメキシコおよびカナダと自由貿易協定を討議しているときに世にでる。ずばりと言わせてもらえば、NAFTAは低落の一途をたどるアメリカの生活水準にとどめの一撃を加えることになるだろう。『大恐慌』で、私は金融規制を撤廃し、かつ富める者をさらに富ませる政策に反対して、政府に警告した。私の警告は無視された。そして、わが国はいま貯蓄金融機関の巨額の損失、富の集中という前例のない、いわば社会 の腫れものと大量失業の責任を負わされている。

再三にわたって、政権担当者は私の政策批判に耳をかさなかった。いま私に望みうるのは、NAFTAに関する私の現在の警告が馬耳東風と聞き流されないことである。アメリカはいま岐路に立っている。NAFTAがひきおこした激しい論議からうかがえるのは、提出されている協定が新しいシステムをつくることもできるが、また壊すこともできるということである。その自由貿易協定は、すでに重荷にあえぐアメリカの背骨を折る一本の藁にもなりかねな いと、私は強く懸念している。 (1993年)

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