思い出にしがみついても何もないのに

帰り道。わたしはね、すごく悲しいけど気持ちいいよ。駅からの帰り道は思い出だらけで苦しいけどちゃんとなつかしいよ。中学校のころはスクールバスでさ、住んでるところによって乗るバスが決まっててね、でもさーわたしはどうしても好きな人と一緒に帰りたかったから違うバスにこっそり乗るようになってた。なつかしい、好きな人とか協力してもらうとか。キャー!バスに乗って友だちと固まって、自分たちしか知らない言葉やネタで笑い尽くして、あーあ!すっごい楽しかったなあ。死にたいね!バスは先生いないから携帯いじって写真とか、後ろにいる好きな人が偶然うつっちゃった~とかやってくれてさあ、イワシとか甘栗食べてゴミを席と席の隙間に埋めたり。バスを降りたらさ、お弁当が落ちてたり、でんぐりがえしで横断歩道渡ったり、私たちはどこまでも自由で。小学生男子みたいにふざけて帰ってた。目と目の間に目を描いて帰ったりね。好きな人は先にぐんぐん進んで、でもやっぱりふざけてて、棒をわざと高いところにあげて「取って」「疲労骨折じゃなかったらおんぶしたのに」とか言ってて。ああ。うん、ふふ~。とっても好きだったんだね。

わたしの帰り道はね、なぜか毎日向かい風だし、うしろからちょっかいかけられるし、笑いすぎて進めないし、だったのに、だったのにさ、もうひとりで帰るようになっちゃったんだ。もうあのときの友だちも好きな人も私もいないし、ただただひとりで歩く。あるいはタクシーから眺める。

ここでキスしたとかここで座り込んでたとか、あそこで転んでめちゃくちゃ笑ったとか、全部全部なくならないとおもってたのにね。わたしは歩くと鮮明に思い出しちゃってかなしい。戻れないのにね。

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