【長編小説】アイドル山田優斗の闘い|14)第13章 晴天の霹靂

 優斗は事務所に着いたところ、飯島と白井はせわしなく2人で話し合っていた。

「お疲れ様です。どういう状況か分かっていることを教えていただけますか?」

「4名とも公職選挙法違反容疑です。今回先生が関係していないもう一名も含めて5名とも地域の有力者に金銭を渡した疑いだそうです。どうしてこうも明白な違反行為を行ったか不思議ですね。」

優斗が頷いた

「確かに不思議ですね?」

「それの回答もわかっていて、5人とも同じコンサルタントがついていました。御堂という男で、あまり経験のある人間ではないようです。何人か業界の人間に聞いてみましたが、今回初めて名前を聞いたという人がばかりですね。」

「素人が違法な方法の知恵をつけたということですか。」

「まあ、そのようです。」白井が答えた。

「優斗君」飯島が重そうな口を開いた。

「まだ、直接確認が取れていないんだが、変な話が私の耳に入って来たんで、早く君の耳にも入れておいた方がいいと思ってきてもらったんだ。捜査本部が優斗君に関心を持っているみたいだ。」

優斗が思わず声を上げてしまった。

「私にですか?捜査本部が?」

「そうなんだ。優斗君にしても、私たちにしても彼らの犯罪に関しては全く善意の第三者ということでしかない、これは真っ当な共通認識だと思うが、何らかの形で優斗君が関与していると考えられる要素があるんだろう。私が推測するに多分、彼らの口からそうとれる言葉が出ているとしか考えられない。実際そのような事実はないんだから。」

優斗が言った。

「まず、正確な事実関係を把握しないといけませんね。」

飯島が答えた。

「それは、今私が進めているので情報が取れ次第連絡する。少し言い訳にはなるが政界と言っても地方レベルまでは情報源も少し限られていて申し訳ないが、分かり次第連絡する。それから、今時点で考えられるパターンをシミュレートしておこう。」

それから30分ほど、飯島が手書きでメモを作りながら、何パターンかのシミュレイションを行った。結果として、やましいことがないのだから警察の求めには対応すること。その際は、必ず連絡を取り合って複数で対応するように意識合わせを行ったのだった。
 この後、優斗はすぐに自宅に戻った。しかし、優斗達の行なったどのパターンにもない現実がそこにはあった。優斗の自宅前に2人の刑事らしき人間が立って待っていたのだった。
そのうちの一人が声をかけてきた。

「こんばんわ、山田優斗さんですか?」

「はい、そうです。何でしょうか?」

「警視庁捜査2課の寺井といいます。」

男はそう言って身分証を見せた。

「大変恐縮ですが、ある事件で、急いで山田さんに確認いただけたいものがありまして、すみませんがご同行いただけませんか?」

優斗は聞き返した。

「私が確認する?何をですか?」

刑事が答えた。

「それはここではお伝え出来ないので署の方でお見せいたしますので...」

「秘書の方に電話していいですか?」

「それは構いませんが、署の方にはお一人でおいで頂きたいのですが..」

「わかりました。」

そういって優斗は白井に電話した。呼び出し音が繰り返されたが、白井は出なかった。

「宜しいですか、こちらの方へ」

そう言って外に止められた車の方に導かれた。

車に3人で乗り込み、15分ほど割と空いた都内の道路を進んで、彼らの目的地に着いた。
 警察署に着くとすぐに部屋に通された。ドラマや映画でよく見るような、薄暗い部屋に机と椅子が置かれていた。

「こちらで座ってお待ちください。」

と指指されたのは椅子のうちの一つだった。

優斗は無言で頷いて椅子に腰かけた。10分ほど誰も何も言ってこない状況はいささか心細いものだった。静寂の向こうから男たちの話声が聞こえてきた。

「山田優斗さん、ご足労頂いて申し訳ありません。今回来ていただいたのは確認いただきたかったからです。申し遅れました警視庁捜査二課の内藤と言います。山田さんも報道でご存知かもしれませんが、今回の区議会議員選挙で5名の選挙違反があったのをご存知かと思いますが、それに関して確認させていただきたいことがありお越しいただきました。この写真を見ていただけますか?」

そう言って内藤は一枚の写真を出した。スーツ姿のやせた男だった。短髪の73別けで銀縁の眼鏡をかけていた。優斗の印象は、官僚か銀行員か暴力団の企業舎弟だった。

「全く見たことがありません。」

「そうですか」内藤は答えて言った。

「御堂孝之という男です。この男は選挙違反で逮捕された5名が共通で関係していたコンサルタントです。この男が提出した資料の中に山田さんに関する部分が有り、それを見ていただくためにお越しいただきました。今うちのものがその資料を持ってきますのでもう少しお待ちください。」

「わかりました。」

頷きながら優斗はこの刑事は口調も物腰も非常に丁寧だと思った。実際に刑事の知り合いはいなかったので、ドラマなどの印象だが、刑事の中にこのような印象の人間がいるとは少し驚きだった。ドアの外で物音がしたので、その資料を持ってきたと思ったが、入ってきた刑事は何も持っておらず内藤に何か耳打ちした。

「山田さん、今署の受付に白井さんがお見えだそうです。今すぐお伝えしたいことがあるそうで、お伝えした確認はその後お願いできますか?」

「わかりました。」

「こちらにおいでください。」今来た刑事が、優斗を先導してくれた。連れてこられたのは署の入り口に近いところだった。白井が立っていた。

「先生、お電話に出られなくて申し訳ありませんでした。ここでは何なので、駐車場の車の中で話しましょう。」

二人で車に移動した。

「先生、時間がありませんので、ポイントだけお話します。確認してほしいものがあると言われたと思いますが、絶対に素手では触らないでください。この手の捜査での初歩的なひっかけです。事後に必ずこの書類には先生の指紋があったというアピールがされるはずです。書類の確認の際に、必ず手袋を用意してもらいそれをはめてから書類を確認してください。そして書類自体は見たことはないし、内容も事実と異なっていると回答していただければ大丈夫です。周辺事情などは事務所に帰られてから、飯島さんも含めてお話します。では宜しくお願いします。」

 そう言って白井は優斗に車から出るように促した。

 車から出たところで先ほどの内藤が待っていた。心なしか少し表情に変化があるように優斗には思えた。

「山田さん、どうぞこちらへ」そして、先ほどと同じ部屋に導かれた。

「お連れの方がお待ちいただいているようですから、手短にしたいと思います。」

そういって優斗の前に置かれたのは大きめの茶封筒だった。

「その中に御堂から資料が入っています。」

内藤が言った。優斗は白井の指示通り、内藤に言った。

「内藤さん、申し訳ありませんが、私に手袋を貸していただけませんか?手袋であればどんなものでも構わないので、」

内藤ははっきりわかるくらい顔をゆがめてその後表情を消してから言った。

「わかりました、少しお待ちください。」

別のものが持ってきた手袋をしてから、中に入っていた。コピー用紙のようなA4の紙3枚を取り出し内容を確認した。
 内容は山田優斗からの指示なので以下のこと必ず行うようにと記載された後に具体的な行動指示が、本当に具体的に書いてあった。
 当該の選挙区の有力者が列挙されており、その1名ごとに具体的にどのように金を渡し、どのように票の取りまとめを依頼するかが、マニュアルのように細かく書いてあった。記載の通りやればどんな人間でも実施できるようなものだった。
優斗は白井に言われた通り

「確認しました。私はこのような書類自体は見たことはないですし、ここに書いてある内容も事実と異なっています。この方と候補者の方たちにこのような行動を指示、示唆したことはありません。」

と力強くはっきりと回答した。内藤は頷いて

「わかりました、ご協力ありがとうございました。お引き取り頂いて結構です。お連れ様がいらしているようですから、ご自宅まではお送りしません。ご了承ください。」

「わかりました。では失礼させていただきます。」

 優斗は部屋を出て、白井のところに向かった。白井はスマホで誰かと通話していたが、優斗の顔が見えるとスマホを切って待っていた。

「お疲れさまでした。いかがでしたか?」

「白井さんの言った通り応じたら、すぐに開放してくれたましたよ。内藤という担当者が手袋くれと言ったら顔をゆがめていましたよ。」

「わかりました。とりあえずは問題ないと思います。まずは戻りましょう。」

白井はそう言って車を発進させた。

  優斗が事務所に戻ると、既に飯島は応接に腰かけていた。

「優斗君が、私の指示に従って白井に電話してくれたので、最悪の事態は避けようだね。私の方で調べた今わかっていることだけを共有しておこう。」

飯島がコピーを1枚2人に配った。

「これは、御堂孝之のホームページのコピーだ。載っている略歴は間違いないようだが、選挙コンサルタントの実績はほとんどないようだ。業界関係者に聞いても名前を聞いたことのある人間は一人もいなかった。一応事務所彼の事務所開設は5年前ということになってるがこの5年間一体何をして飯を食っていたか謎だ。また、今回捕まった5名の候補に御堂を誰が紹介したのかもまだ情報は取れていない。もう少し時間を欲しい。ただ、現時点ではっきりしていることもある。御堂が陥れようとしたのは、逮捕された4名ではない。ターゲットは君だよ優斗君。」

 優斗は大きく目を見開いた。

「それはどういうことですか?」

「私はいろいろな情報源を持っているが、今回の情報は、国民共和党の反主流派の情報網から全ての情報が来ている。彼ら自体の口から誰が君を陥れようとしているかは聞けているわけではないが、全ての情報を総合するとその答えは明確だ。我々の相手にしている敵は官邸関係者だ。」

「えっ」と言った優斗は言葉を失ってしまった。

  翌日、事態は新たな方向に進展した。前回優斗の経歴詐称の件を取り上げたのは別の週刊誌に優斗の記事がトップ扱いで載っていたのだった。

「人気爆発の衆議院議員 山田優斗 選挙違反に関与か?」

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