【長編小説】アイドル山田優斗の闘い|8)第7章 法案成立へ 再びニュースショー出演

  次の日の委員会が終了してそのまま、山田優斗はテレビ局にそのまま向かった。行きの車の中で秘書の白井は、山田優斗に聞いた。

「先生、本日の内容は大丈夫ですか?」

優斗は答えて言った。

「白井さん、大丈夫ですよ。もう全部入っていますよ。ここでリハーサルしますか?」

 オンエアーの最初の画面で山田優斗は、メインキャスターにこの法案の意味を問われて語り始めた。

「まずはこの機会を与えて頂けたテレビA社に感謝を申し上げます。そのうえで敢えて言わせていただきますが、私山田優斗は与党の国会議員でございますが、この法案に関しましては、選挙戦の中でも一番に選挙民の方々に訴えてきた内容でございます。その内容をご存知の方は分かっていただいていると思いますが、私は最初から主張は一貫して変えておりません。与党の立場を代弁しているのではなく、今あるべき姿を形にしたものであると考えております。その立場から私は今日どの党がどのような考え方かは一切お伝えするつもりはありません。」

「山田議員、わかりました。ではあなたは現状の何が一番問題と考えていらっしゃいますか?」

キャスターが優斗の話を受けて聞いた。

「現行の法律ですが、一見素晴らしい法文に見えますが、端的に言ってザル法だということです。昨年来、国家公務員の公文書偽造に関する事件が連続しています。このことがこの法律の実効性を端的に表しています。このような犯罪が起きないような実効性のある、現実的な穴をふさいでいくのが今法律に求められているものと考えています。」

「具体的に話させていただいていいでしょうか?この件に関して最も進んでいるのはヨーロッパの国々です。ドイツやフランスと比較すると日本の法律はいろいろ不備な点があります。具体的には次の3点です。」

山田優斗が画面の方に示したフリップには3つの事柄が記載されていた。その一つ一つを彼は本当に平易な語り口で、視聴者に対して語ったのだった。テレビでその内容が視聴者に伝わるかどうかは、その内容そのものよりそれを語っている人間の印象の評価が大きく影響するとある学者が述べている。その言を証明するように、山田優斗の語っている内容に対する賛成・反対はともかく、本当に多くの人間が彼の語り口のさわやかな印象に魅了されていた。こうして彼の選挙区とも今までの彼の芸能活動とも関係のない多くの人たちまでもが彼の語る言葉に魅了されたのだった。最後に彼はテレビカメラをもう一度正面に強い目線で見つめてこう言った。

「今日ここでお伝えしたことは、正真正銘、この法律を成立させることが日本のためになることと信じているからその内容を多くの方にお伝えするため出演させていただきました。これから私はこの法案を成立させるために私の全てをかけます。この法律を成立させることが私の公約のNO1の項目でしたから。今日のテレビを見られて私の発言に賛同いただけた方は是非、これからの私の活動にご注目いただき、できれば応援をお願いいたします。」

  山田優斗の発言を受けて、メインキャスターは横に座っている、この分野の日本最高の権威の意見を求めた。

「S教授、山田優斗議員のこの法案の内容を見てどう思われますか」

彼は答えて言った。

「正直この法案の内容を見て私はおどろきました。現時点で理想に近い内容だと私は思っています。このレベルの法案を提出できる山田議員のスタッフの方々の能力には、本当に私は敬意を表したいと思います。私も正直な意見を申し上げるとこの法案の無修正での原案通りの成立を望みます。」

 キャスターもあわてて説明した。

「S先生はまさにこの関係の法案の日本一の権威と言っていい方です。我々の意図としては問題があれば、正しく指摘いただける方と考えお越しいただいたわけですが、我々の意図と全く違うお答えに少し戸惑っております。」

2者がそれぞれの立場で彼の法案の内容の素晴らしさを評価する格好となった。この日の山田優斗が出演シーンの視聴率は28.9%番組開始以来最高の数字をたたき出した。この日を潮目に世の中が大きく動き出した。番組放送後、東京のキー局3局から出演依頼があった。1局は調整がつかず出演しなかったが、他の2局にはそのあと連日夜のニュースショーに出演した。内容は当然提出している法案の説明だが、スタイルはわざと最初の局と同じ形を踏襲した。そして山田優斗を知らない人たちにも、彼の誠実な語り口と、平易にわかりやすく説明する能力、そして彼の若さと整った容姿は、多くの賛同者を作り、そうでないものの多くはシンパシーを抱き、そこまでもいかなくても、少なくとも好ましい人物の印象を多くの人に与えた。彼がテレビに出演してものを語るたびにその人たちが加速度的に増えていった。彼が出演した2日目のニューショーに出演していた局の政治部の記者が法案の成立の見込みを聞かれて

「おそらく成立は難しいでしょう。少なくとも大幅な修正は免れないでしょう。」

という意見を述べた。単なるコメントに思えた一言が大きな波紋を広げた。その次の日の朝、国会前に山田優斗の出した法案の無修正成立を要求するデモに人が集まった。100名は超えていると思われた。まさに前代未聞である、まだ委員会レベルの成立していない法案の成立を求める集会が発生したのだ。

「委員会の守旧派は、現状を正しく認識すべきだ。反対した委員は即刻委員会から追い出すべきだ。」

もともとこの人たちがどのようにしてここに集まったかは定かではないが、このようなデモではあまり見かけない20代30代の女性がやはり7割くらいを占めていた。この内容をまた各局のワイドショーや夜のニュースショーが大きく取り上げたそれにより、国会前のデモの人数が毎日どんどん増えていった。このことにより委員会での風向きの完全に変わっていた。もともと党の意向はともかく、山田優斗の案は正当であると考えていた与党議員がある程度いたのは確かだったが、最初の党幹部の方針は、法案反対であった。しかし、事ここに至り国会前にこれだけ多くのデモ隊が集まる事態になっては自分たちだけが悪者になるのは得策でないと考えた。与党のこの委員会の有力議員が山田優斗の法案を原案通りで賛成をすることを発表した。そしてその翌日、山田優斗の議員立法案は委員会を通過した。このような流れをもう与党幹部も止めることはできなくなっていた。

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