【長編小説】アイドル山田優斗の闘い|7)第6章 衆議院議員 山田優斗初登院

 翌日は、国会は開催中だったので、早速山田優斗は衆議院に登院した。総選挙の直後であれば、新人議員がそろって取材を受けるのが通例となっていたが、今回は当選したのは山田優斗一人であった。だが、総選挙後と同じ様な大変な数の取材陣が待ち構えていた。彼は選挙運動の際の公約の一つに、公文書の保管原則の作成と情報公開法の改正を最初に上げていた。彼はそれを速やかに進めるため、事前に党側と交渉して、公文書関連法規検討特別委員会に籍を置くことが決まっていた。

 待ち構えた取材陣に彼は強く言い放った。

「昨日の会見でもお伝えしましたが、私は本当に多くの方々の期待に送り出されて議員とならせていただきました。火急速やかにと申し上げた通り、公約させていただいたことをすすめさせていただきたいと思います。党のご配慮で私の希望しておりました、公文書関連法規検討特別委員会に本日出席させていただけます。私は本日議員立法で、公文書保管に関する法律と情報公開法に関する改正案を提案させていただきます。一般公開される内容を除いて公開されない情報に関しましては、わたくしが委員会の内容をWEBで私の事務所のホームページで公開させていただきますので、私を支援いただいている方達、または私の活動に関心を持っていただいている方々は是非ご覧になっていただければと思います。宜しくお願いします。」

 一般の政治に詳しくない人にとっては「彼は新人なのに頑張っているね」くらいの印象であったろうが、政治のプロと政治記者たちは驚愕した。プロスポーツの新人が自分のチームの弱点を明確にし、その弱点の具体的修正方法を提示しているというのだ。しかも政治家になったその初日に。スポーツの世界ではそんなことも実際にあり得るかもしれないが、政治の世界では絶対ありえない年功序列のまかり通る世界である。最初に矢面に立ったのは、与党で彼を公文書関連法規検討特別委員会に属することを許した担当者だった。彼もこれまでに前例に倣い、新人はたいして何もできないだろうから、せめて希望の委員会に参加させるくらいはさせてやってもいいだろうという温情的な判断をしたのであった。この判断の誤りを咎められのちに彼は党を追われることになる。

 彼の国会でのインタビューを見て驚いた人間よりも、数倍の驚きに遭遇したのは、公文書関連法規検討特別委員会の各委員達だった。彼の法案自体は当日彼が、動議を申し出許されて委員会に提案されたが、実際には法律案が事前に各委員に提示をされていた。彼らが一様に示した反応は「素晴らしい」ということであった。特にこの委員会の最大の重要人物であり野党の幹部であるD野氏は一番心を許している大手新聞の記者にこう漏らしていた。

「最初に法案を見たときにまさかと思ったよ。だって、本来我々が法案として提出すべきものを1年生の与党議員が提案してきたのだから。」と。

「長く同じ場所にいると、よくも悪くもその場所に慣れてしまうだろう。わが党の法律案がまさにそれで、とりあえずかくあるべきはおいておいて、妥協してでも実際に成立しそうなちょっといい案を提案していた、だから、あの法案を見たとき私は頭から水をかけられたような感触を味わったよ。『いったいお前は何をしているんだと。何をするために議員になったんだ』と。それに彼はあれを出して自分の党でどのような扱いを受けるのか逆に心配になるよ。その辺、御社の与党担当からよく情報収集してくれないか」

最後はそんな依頼まで行っていたのだ。
 兎に角政界にいる全員が、山田優斗という今までになかった異分子の動きに注目していた。

 翌日東京の大手民放の夜の人気のニュースショーのプロデューサーに電話があった。相手は山田優斗事務所の外の顔、秘書の白井だった。

「初めまして、衆議院議員山田優斗事務所の第一秘書の白井と申します。」

と言って話し始めた白井の提案に、プロデューサーのKはすぐに興味を示した。提案の内容は、ニュースショーへの山田優斗の出演交渉だった。出演して何をするのか?白井が希望したのは今委員会で協議されている法案内容の説明ということだった。通常だったら簡単に断る話ではあったが、何せ山田優斗は時の人であった。数字のとれる人間なのだ。Kは山田優斗が出演するためにいくつかの条件を示した。まず、事前に話す内容を原稿にして全て局に提出すること。加えてその内容は最低限、与党、野党の立場を対等な量で両論併記にすること。この番組の以前には絶対他局に出演しないことだった。Kが気抜けするほど白井は簡単に条件を受け入れ、逆にこんなことを言った。

「山田がお話する内容は、両論併記ではなく、つまり与野党どちらの立場にも立たず、現時点での世界の状況と昨今の日本の状況から必要なものは何かを説明するもので、内容に関しては決して偏ったものではないと考えているので、事前に貴局がお選びになった専門家の方何名かに内容を見ていただきご不満がある場合はカットするなり、最悪主演させないという判断をもらっても私どもは受け入れるつもりでおります。」

といった。プロデューサーKの回答は当然YESだ。
こうして山田優斗のこのニュースショーへの初出演が決まった。

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