【長編小説】アイドル山田優斗の闘い|11)第10章 北海道へ(2)

朝10時、占冠村の市街地の中心部に多くの人が集まっていた。

「おはようございます。北海道知事候補の小柴太蔵です。北海道知事の選挙演説が占冠で行われるのは今回が、初めてだそうです。占冠よりも人口の多い街は数多くありますが、私は私が知事になった暁には、この占冠をある意味象徴の街にしたいと思っているからです。北海道にはさまざまな貴重な財産が有ります。自然、農水産物、たくさんのものがあると思いますが、まだ活用されていないものがたくさん残っていると思います。そのようなものを生かすのが私の役目、役割だと思います。生かされていないものはそれをお知らせするため私はここにやってきました。」

聴衆ざわざわという音の塊が巨大に膨れ上がっていた。

「皆さん、トリカムチュームという部質をご存知でしょうか?現在は取り立てて有用な用途は無く、発掘されることもなく地中に埋まっている状態です。トリカムチュームは北海道のいろいろなところにありますが、最大の埋蔵地は、この占冠とむかわ町との境の穂別福山の周辺になります。昔鉱山がありましたが、今は村の無くなっています。住所はむかわ町穂別になります。今は特に重要性のない金属ですが、先日その意味が根本的にわかる特許を取得する会社が現れました。大手金属会社のM金属です。彼らが取得したのはトリカムチュームに特殊な加工を施すことにより、全世界的に枯渇してきているレアアースのイリジウムの特性をほぼ再現できる技術です。これは世界的に重要な発明ですし、この占冠が日本と世界で重要なレアアースの生産基地として知られる日が来ることがすぐ目の前に来ていることをお知らせに来たのです。」

聞いていた人々は最初からザワザワとしていた。政治家のこのような発言に慣れていなかった。しかし、だんだんと話されている内容がわかってきて、次第に歓声と拍手が大きくなってきた。

「このような話をするためには、当然先方の了解を取らずにアナウンスすることはできません。M金属は、私が当選したらば、私の任期内に大規模なトリカムチュームの加工工場をこの占冠に建設意向があることを表明してくれています。これはもちろん公にしていい話ですが、私の方からM金属にお願いして、今日私の方から直接占冠の方々に直接お報せしたいと申し上げたら、M金属の方が快くOKしてくれたということです。」

山田優斗は大柴の後を受けた。

「小柴候補の応援でご一緒しています、山田優斗です。M金属の今回の特許のお話を小柴さんにお知らせしたのは私です。ですが、それ以降M金属との折衝を行われたのは小柴候補とそのスタッフの方です。その行動力は私が補償いたします。それと皆さんによく考えていただきたいんですが、今日お話しした内容を本日話してしまうことはいろいろ影響が大きくなります。例えば、現知事が再選してこの話を聞いて我々の考えているようなプロジェクトを進めたようとすることは大いに考えられますが、それでも我々は何の抗議もできません。小柴候補が最初だということ以外、独占的な権利は何もないのです。小柴候補とこの件で打ち合わせをした際に、私はこの件を選挙期間中にお話しすることに反対しました。先にお話ししたような可能性を心配したからです。ですが小柴候補は絶対に選挙期間中にお話しすることを譲りませんでした。理由は、第一はこの案件を最初進めたのは小柴太蔵だったこと。第二は彼が強く言っていましたが、たとえ誰が知事になったとしてもこのプロジェクトは絶対に進めなければいけないからです。なぜならこのプロジェクトを進めることは絶対北海道と占冠のためになると思うからですと言いました。正直この言葉には感動しました。この選挙前は全然面識のない方で、逆をいうと一般に言われて言うようなよくないイメージを持っておりました。ですが、今回のことで実際に直接お話しし、今回のようなプロジェクトを進めていく中で、彼の政治と地元に対する意欲と情熱を目の前に見せられて、私は自分の認識を改めざるを得ませんでした。彼は知事になるべき人です。政治の世界に染まりきっておらず、素人でもない。彼は力も情熱もあります。是非彼に実際に知事の地位を与えて頂き、その情熱を仕事に発揮させられる力を与えてください。是非、よろしくお願いします。」

会場の拍手は鳴りやまない中、二人は会場を後にしていった。翌日の地元紙の朝刊の一面には小柴あの顔が大きく載っていた、全国紙と経済新聞は大きく取り上げていた。後追い取材を希望するマスコミも多かったが、さすがに小柴のところには行けないので、山田優斗と白井が何本か取材を受けていた。明らかに選挙の潮目は変わっていた。その様子を見守るように山田優斗は北海道から帰京したのだった。

 ** D Side 3 ***************
巨体の男は、また苦虫を潰したような渋い顔をしていた。若い男の方を向いて言った。

「お前に一つやらせてみようと、へんな親心を出したのがよくなかった。山田優斗を北海道に行かせたのは全く愚策だった。奴は完全に時流に乗ってしまった。この流れをせき止めるのは大変なんだ。奴の望んでいることを十分把握してから正確な対策を講じる必要がある。本当は前を首にしたいところだが、人手が足りないからとりあえず仕事をさせてやる。」

巨体の男は若い男の方は全く見ずにテレビを眺めていた。
男は横にいた若い男に向かって言った。

「今は正直奴が何を狙っているのかはまだ分かっていない。この状態でとるべき最善策は何だと思う?それは、奴の思考能力を奪うために、まず体力を奪うことだ。とりあえず、神田幹事長のところに電話して、山田優斗に次の仕事を依頼するように頼んでおいた。」

「それと今度山田が行く先の選挙参謀の金井という男に頼み事する旨、大まかには伝えてあるので、お前が直接金井に電話して詰めてくれ、具体的な内容はこれに書いてある。」

男は若い男に紙を渡した。

「もう失敗は許さないからな。」

男はそう言って若い男をにらみつけた。
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