零細起業の経営実務(22) 値段の決めかた
起業を考えている研究者さんに、リーゾの経験をお話しするシリーズ。今回は、いまだに悩ましい、商品の値段の決め方についてです。
朝の連ドラで、ヒロインたちが手作りのベビー服をお店に並べ、お客さんが来て応対し、「これはおいくら?」と聞かれて顔を見合わせるシーンがありました。よいものを作るのに懸命で、値段を決めるのを忘れていたんですね。
そこまではさすがにないのですが、リーゾを始めたとき、商品やサービスの値段をどうしたらいいか、すごく困りました。すいすいシリーズに限らず、研究用の試薬キットは成分のほとんどが水で、配合された成分の種類や割合、pHなどの工夫で機能を生み出しているもの。ボトル代などを足してもたいした金額にはなりません。
それに開発費や固定費などの経費を販売個数で割って1個あたりのコストを出して足し、さらに利益を乗せれば、理屈上、適正な価格は出せます。
でも、肝心の販売個数は売る前にはわからないので、実際にはこの方法は無理!
そもそも困っている研究者さんにしか必要のない製品なので、無理をして安くしても売れるものではなく、安すぎると逆に信用してもらえない恐れもあります。
で、結局は『同じような製品がどのくらいの価格で売られているか』を参考にして、値段を決めました。
・・・と、適当に決めてしまったわけですが、このような値段の決め方は、教科書的には『顧客価値ベースの価格決定』あるいは『知覚価値価格設定』というそうです。お客様の心理に寄り添う価格決定です。
では、交配袋はどうでしょうか。
交配袋も、値段決めにはかなり悩みました。大きさが違うと材料代も違いますが、手作りなだけに、もっとも響いてくるのは工賃=人件費です。
悩んだ末、「100枚をひとりで作るのに、何時間必要か」を見積もった結果をベースに、材料費と流通経費、若干の利益を足して計算することにしました。
(つまり、100枚作るのにひとりで3時間なら、100枚あたり3000円を原価にプラスする、ということです)
ちなみにこのような値段の決め方は、教科書的には、『原価ベースの価格決定』あるいは『マークアップ価格決定』というそうです。
・・・が、実際に作って販売し始めてみると、想定外の問題が生じました。
最初は抜き取り検査で済ますつもりだった強度のチェックが、結局は1枚ずつ全部見ないと怖い、ということになり、大幅に時間が超過する事態に。人件費を入れると赤字、という困った商品になってしまいました。
人件費が出るなら雇用を創出できるのでいいようなものですが、やはり経営者としてそれは困ります。でもいきなり値上げするのも、計画性のなさを露呈するようで(ここでしちゃってますけど)、格好悪いです。
そこで、意地でも値段は上げずに、「品質はこのままで、製作時間を短縮しよう!」と呼びかけ、工程をひとつずつ見直しました。
例えば、「幅を計りながらシール→カット」を「仕上がりサイズにカット→端をシール」の順に変更したり。不織布ロールのディスペンサーを工夫して2枚重ねでカットできるようにしたり。足踏みシーラーを導入したり。シーラーの過熱を防ぐために、シールとチェックを数枚ずつ交互に行うようにしたり。
その他、道具の配置から人の姿勢まで細かい改善を積み重ねて、製作時間は当初の計画通りかやや少ないくらいのレベルまで短縮し、めでたく「雇用を創出できて、利益も出る商品」にすることができました。
このように、決まった値段のもとで、原価の方を下げる努力をすることにも、教科書的には名前がついていて、『原価企画』というんだそうです。
最後に「美食同玄米」の価格はどのように決めたのか?ですが、これは上記の2つとは全く違う考え方で、最初からお米としてはありえないレベルの高い値段をつけると決めていました。そのために売れなくてもディスカウントは絶対にしない、売れ残ったら社内で全部食べる、とまで覚悟しました。
その理由は、一言で言えば、『品質のよいものを高く売っている』ということを、買う人に伝えたかったからです。
教科書的には、価格設定の前に考えるべき『価格設定の目的』を、『生き残り』でも『シェア獲得』でも『利益最大化』でも『投資回収』でもなく、『品質リーダーをめざす』と決めたことになるようです。
高い値段ではありますが、実際のところ手間がかかりすぎて十分な利益が出ず、ここでもまた『原価企画』をがんばっています。年を追うごとに目覚ましい進歩があり、今期収穫分からは収支が改善しそうです。
新製品や新サービスがちょこちょこ誕生するリーゾでは、値段決めの悩みはこれからも尽きそうにありませんが、付け焼刃ながらセオリーを学べたことで、少しは自信を持って設定できるようになるといいなあと思っております。
※今回参考にした書籍はこちらです。
『正しい「値決め」の教科書』 中村 穂 著(すばる舎)
(2016年12月7日配信のすいすい通信より)
「すいすい通信」
https://rizo.co.jp/merumaga.html
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