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モトヤフ吉川浩満さんインタビュー

本日は、2022年8月30日に出版された『哲学の門前』(紀伊國屋書店)の著者である吉川浩満さんにインタビューさせていただきます。吉川さんは1996年にヤフーに入社、草創期の「サーファー」として活躍され、退職後は現在まで文筆家として様々な著書や訳書を刊行されています。

-吉川さん、本日はよろしくお願いいたします。まず最初にお名前とご年齢を教えてください。

吉川浩満(よしかわ・ひろみつ)です。1972年3月生まれの50歳です。
よろしくお願いいたします。

-最初に、私の方から吉川さんの現在の「顔」を読者に紹介させてください。

文筆家・編集者・ユーチューバー。慶應義塾大学総合政策学部卒業。
YouTubeチャンネル「哲学の劇場」を、山本貴光さんとともに主宰しています。
著書に『哲学の門前』(紀伊國屋書店)、『人間の解剖はサルの解剖のための鍵である 増補新版』(ちくま文庫)、『理不尽な進化――遺伝子と運のあいだ 増補新版』(ちくま文庫)、山本さんとの共著に『人文的、あまりに人文的――古代ローマからマルチバースまでブックガイド20講+α』(本の雑誌社)『その悩み、エピクテトスなら、こう言うね。――古代ローマの大賢人の教え』(筑摩書房)、『脳がわかれば心がわかるか――脳科学リテラシー養成講座』(太田出版)、『問題がモンダイなのだ』(ちくまプリマー新書)があります。翻訳では、山本さんとの共訳に『MiND 心の哲学』(ジョン・R・サール著、ちくま学芸文庫)、『先史学者プラトン――紀元前一万年―五千年の神話と考古学』(メアリー・セットガスト著、朝日出版社)などがあります。Twitter: @clnmn

-お生まれはどちらですか、またどちらにお住まいですか。

出身は鳥取県米子市。現在は東京都調布市在住です。
大学受験で初めて東京に来ました。大学は慶応大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の一期生です。

-これまでのプロフィールをご紹介ください。

大学時代に読書に熱中したこともあって、1994年に新卒で国書刊行会という出版社に就職しました。そこで2年半ほど働いた後、1996年8月にヤフーに転職し、2002年7月までの6年間ほど勤務しました。ヤフー退社後はフリーランスの文筆業(執筆・翻訳)の道に進みました。2018年からは大学の講師業2020年からは出版社(晶文社)での編集業も並行して行っています。

最初に就職した国書刊行会は、前衛的な文学作品や高額書籍を扱うマニアックな出版社でした。すばらしい出版社でしたが、上司だった藤原義也氏や礒崎純一氏さんの驚異的な仕事ぶりを目の当たりにして、こんなこと自分にはとてもできないと自縄自縛に陥り、2年半で退職することになりました。

-ヤフーに入ったきっかけは何でしたか?

Yahoo! JAPANのトップページに掲示されていたスタッフ募集に応募して採用されました。当時はまだインターネットの黎明期で、ヤフーという社名自体、世の中ではあまり認知されていませんでしたね。私自身は昔からデジタルガジェットが好きだったこともあって、すでに日米のヤフーを利用していましたが、多くの人にとっては得体の知れない存在だったと思います。

入社時はソフトバンク社員で(みんなそうだったと思います)、オフィスも箱崎のソフトバンクビルでした。スタッフの数は10人弱。私の社員番号は15番でした。元上司のサーファー小野澤忠仁さんに尋ねたところ、社員番号は6番までがジェリー(・ヤン)や孫(正義)さんら偉い人にとってあって、7番が初代リード・サーファーの及川さん、10番が小野澤さんだったのだそうです。

-ヤフーでのお仕事はどんな内容でしたか?

当時ヤフーでは、ディレクトリ型検索サービスのデータベースを人力で作成しており、その仕事をする者を「サーファー」と呼んでいました。私は、そのサーファー業務とエディトリアル(ウェブサイト紹介などのコンテンツ記事)の執筆・編集などを担当しました。最初期はスタッフの3分の1くらいをサーファーが占めていたと思います。

サーファー部は、さまざまな経歴の人たちが集まった、じつにユニークなチームでした。徹夜したり休日出勤したりで相当な過重労働でしたが、毎日が刺激的で、それほど苦にはなりませんでしたね。

-ヤフーで学んだことはどんなことでしたか?

急成長する組織ならではの高揚と軋みをともに経験できたと思います。また、自分自身の資質や能力を振り返るよい機会にもなりました。組織が急成長していくなかで、チーム運営や人事など次々に新しい課題に直面して、そのスピードについて行けなかったという実感もあります。

-ヤフー時代のエピソードやトピックはありますか?

創業期ならではのドタバタ劇をたくさん目撃したり経験したりしました。

なにぶん昔の話なので記憶違いだったら申し訳ないのですが、たとえば、スタッフがPCの電源ケーブルに躓いてサーバーがダウンしたりとか。当時は床に置いてあるPCが本番サーバーとして動いていたりしたので……。

ピザパーティーも懐かしいです。毎週金曜の夕方は、ほとんど全スタッフが集まって大量のピザを食べていました。宅配ピザのクライアントのバナー広告料とのバーターで提供されたピザでした。

それと、ITバブルの狂騒もありました。私たちはヤフー株価が国内の上場株で史上最高値となる1億6790万円(2000年2月22日)を付けたITバブルの真っ只中にいました。私も最初のストックオプションの権利をもらっていたのですが、気がついたときにはバブルが崩壊しており、絶好の権利行使のタイミングを逸してしまいました。

-辞めたから分かるヤフーの良さというものはありますか?

誰もが知っている・使っているサービスに携わるというのは、すばらしく充実した、やりがいのある仕事だと思います。

-ネクストキャリアを選んだ決め手は何ですか?

先ほども少し触れましたが、中間管理職としてのマネジメント業務で悩んでいたところ、渡りに船のタイミングで書籍執筆のオファーが舞い込んだことが決め手になりました。

朝日出版社という版元の編集者である赤井茂樹さんという方から来たこのオファーメールが、その後の私の人生を大きく変えました。1997年から趣味で大学時代の同級生の山本貴光くんと「哲学の劇場」というウェブサイト運営していたのですが、これを見てくれて、ウェブサイトの内容を膨らませて本にしないかと言ってくれたのです。

赤井茂樹さんという方がたいへんな実績を誇るカリスマ編集者であることや、朝日出版社が思想誌『エピステーメー』やポストモダン叢書などエッジの効いた刊行物を擁する憧れの版元でしたので、本の執筆という大義名分を得て、思い切ってヤフーを退職しました。

そして2004年、32才のときに刊行した書籍が、デビュー作の『心脳問題──「脳の世紀」を生き抜く』(朝日出版社)です。

-現在のお仕事は具体的にどんな内容でしょうか?

1.文筆業
2.編集業(2020年から晶文社でたずさわっている)
3.大学講師業
  →桐朋学園藝術短期大学(倫理学) 
   淑徳大学(クリエイティブライティング)
   就実大学(クリエイティブライティングの集中講義)
4.卓球コーチ
(ほぼ趣味だがデビュー作出版後から、部活以来中断していた卓球を再開)

-ここで事務局の私から、山本貴光さん(大学生の頃からの知り合いで30年来の交友関係のある方)が語っておられる吉川さん像を、著書「哲学の門前」より引用して、私から紹介させていただきます。

「……吉川くんは、これと関心を向けたものを深く深く掘り下げてゆく。私からすれば、それこそが哲学の思考の働かせ方だ。私が立ち止まる浅いところで、吉川くんはさらにこうも考えられまいか、いや、別の見方をするとこうも言えそうだ、と考えを進めたり転換したりする。もし哲学者という人がいるとすれば、彼のような人物のことを言うのだと思う。それは資質と言ってしまいたいようなもので、私もできるなら真似してみたいと思うがなかなかそうもゆかない。」
「……そのもっとも見て取りやすい発露がユーモアだ。ちょっとしたくすぐりから、起承転結のあるアネクドート(小噺)までを自在に操る吉川くんは、場に笑いを絶やさない雑談の名手である。もちろん彼自身がそういう話を好むということもあると思われるが、それにしても相手をもてなす姿勢があってこそ。これもまた、私には逆立ちしてもできない芸当である。」

左がご本人、右は山本貴光さん
(撮影:斎藤哲也)

-現在の仕事の面白いところや素晴らしいところを教えて下さい。

本を書いてそれが読まれることで、見ず知らずの人と密接でパーソナルな関係をもつことができる。よく考えれば奇妙だけれど、非常に面白い社会参加のかたちだと思います。得難い経験もたくさんできました。あと、人事マネジメントの悩みがあまりないところもいいですね。

-そう言えば山本さんとYouTubeチャンネルをやっておられますよね。

哲学の劇場」というチャンネルで、既に130回以上の動画シリーズをアップしていまして、今も毎週更新しているんですよ。登録者は5,000人以上になっています。

-色々多面的にご活躍ですが、特に今力を入れていることは何ですか?

今後は編集業(他人に本を書いてもらう仕事)にも、もっと力を入れていきたいと考えています。

-ご家族以外で尊敬している方がおられたら教えて下さい。

たくさんいると思いますが、この人、という人は思いつきません。

-ご趣味は何ですか?

オートバイと卓球でしたが、どちらも最近ご無沙汰です。続いているのは読書と映画観賞くらいでしょうか。

オートバイについては、ヤフー時代に同僚たち(殿村さんご夫妻とか)とツーリングに行ったりしていました。卓球の方は35歳になって高校の部活以来で再開したのをきっかけにまたハマってしまい、いつの間にか高校の卓球部などでコーチをすることにもなりました。

-コロナで変わったことはありますか?

自室での滞在時間が長くなった結果、部屋が片付き、書棚が充実しました。居住スペース確保のために自炊(紙の本の電子化)も進めていて、いまでは1万数千冊ほどあります。

-ライフワークは何でしょうか?

これはと思ったテーマについて何冊か本を書きたいと思ってきましたが、残すところあとわずかという感じです。あとは毎日をよりよく生きるだけのような気が(いまは)しています。とはいえ、執筆の依頼はいただいているので、引き続き執筆活動はしていくつもりです。

-イマヤフに伝えたいメッセージをお願いします。

先にも申し上げましたが、誰もが知っている・使っているサービスに携わるというのは、すばらしく充実した、やりがいのある仕事だと思います。いちユーザーとして応援しています。

-モトヤフに伝えたいメッセージをお願いします。

またお目にかかりたいと思う人が何人もいます。ますますのご活躍とご健勝をお祈りいたします。

-読者に伝えたいメッセージをお願いします。

だまされたと思って、いちど拙著を読んでみてください。→仕事の一覧

-吉川さん、本日はインタビューにご対応いただきありがとうございました!

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