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モトヤフ白石陽介さんインタビュー:後編

モトヤフインタビューシリーズ第31回の後編です。本日は、前編では深くお聞きできなかったヤフーでの決済関係でのご活躍の様子や現在注目されている暗号資産やデジタル通貨のお話を、株式会社ARIGATOBANK代表取締役の白石陽介さんに更に伺いました。白石さんはソーシャル経済メディアのNewsPicsが提供している座談番組『THE UPDATE』などにも登場されているFintech分野の第一人者でもあります。
後編インタビュアーは中崎 隆(弁護士)がインタビュアーを担当しました。

-後編では、決済の観点から、ご質問させていただければと思います。

はい。よろしくお願いいたします。

-ヤフーの電子マネーの事業の企画というのは、井上さん時代(*1)から、過去にもありましたが、実現しませんでした。定由さんの電子マネー企画については、自分も相談に乗り、色々とアイデアも出していたので、企画が却下になったミーティングの後は茫然としたのを今でも覚えています。白石さんが、ヤフー電子マネーについて、どうやって道を切り開かれたのか、個人的にかなり興味があります。
まず、どういったきっかけで、やろうと思われたのでしょうか。

事務局注
*1 ヤフージャパンの創業者で、16年連続の増収増益を実現した井上雅博氏がヤフーの社長であった時代、すなわち、2012年までの意味。

2015年にYahoo! WalletのSMになったのですが、その前に、3〜4年、議論されては進まない「スマートウォレット」というプロジェクトがありました。ミッドタウンなど、一部の店舗で、ポイントの延長上で、オフライン・ペイメントを実験的にやってみるというのをやったりしていました。その中で、ヤフーで、自分たちで電子マネーを自前でやろうというのは、構想としてはあったんです。でも、実現にまでは至っていませんでした。

-どういう風に実現させ、うまく軌道にのせたのでしょうか。

第1に、うまくいかなかった一つの背景として、エクセル、パワーポイントの世界では、アイデアが出ていましたが、実際に作るとなると結構な工数がかかります。それをブレークダウンして、どれくらいの工数をかけてどういう風にやるとシステムができてサービスが立ち上がるのかということを具体的に進められる人がいなかった。私は、もともと金融SI出身なので、ガントチャート(*2)ひいて、WBS(*3)ひいてみたいな、プロジェクトマネージメントをやっていた人間なので、電子マネーとの関係でもそれをやりました。

事務局注
*2 「ガントチャート」(Gantt chart)とは、プロジェクトの工程管理表である。表の縦軸には、実施すべき作業を列挙し、横軸には、日時を記載し、各作業の開始日、終了日、作業間の関連などを入力することで、各作業の開始・終了時期、作業の流れ、進捗状況などを把握しやすくなるため、プロジェクト管理に有用と言われている。

*3 「WBS」(Work Breakdown Structure)とは、作業分解構成図とも言い、プロジェクトのタスクを細分化して表で表したもの。タスクを洗い出し、抜け漏れを防ぐと共に、プロジェクト達成に必要なリソース等の把握に有用と言われている。

-なるほど。そこまでの検討は、白石さんより前は、聞いたことがないです。アイデアだけなら色々な人が出せるが、実現可能性を精緻に検討し、それを実現なさったと。

第2に、コマース文脈で、電子マネーの意義を検討しました。やはり、決済だけでは、なかなか儲からないので、決済の文脈だけで企画を考えてもなかなかうまくいかないです。私は、ヤフオク等の流通量を増やすためにという観点からの検討・提案を行いました。ヤフオクの売上金を、従前は、ストアにすぐに振り込んでいましたが、振込みでの受取だけでなく、売上金を電子マネーに変えてヤフーで使えるという風に選択肢を増やしました。ヤフー経済圏の中で資金が循環する形を作ることで、ヤフオク等の売上アップに向上出来るという発想です。

-銀行振込手数料分が節約できますし、ストアにとっても素敵ですね。

言いたかったのは、決済文脈だけで見ていては駄目だという所ですね。売上金構成については、役所とも調整しましたし、他社も追随しました。あれは、我々の「発明」だと思うんですよね。

-売上金構成の所は、過去の企画でも話が出て、法務相談を受けた記憶がありますので、定由さん等の以前の社内の試行錯誤の結果が引き継がれた部分がどこかにあったのかもしれませんが、実現なさったのが、ただただ、素晴らしいです。

第3に、長い年月、言い続けたこと、あきらめなかったことが大きかったのかなと。企画とか、情熱があっても、人事異動になってしまったり、と。

-長い年月、言い続けるという、そこが、本当にすごいです。実現し、それを軌道に乗せるという、そこが一番難しいですから。実現する方の言葉には重みがありますね。

ええ。頑張った甲斐もあって、数百万ユーザーになって、取扱高も1千億円を達成できて、よかったです。

-素晴らしいです。
もう一つ伺いたいのが、ヤフーでのQRコード決済の立上げについてです。「QRコード決済という、あんな時代遅れの技術にあそこまでプロモーション費をかけるのは意味が分からない」などと決済に何十年も従事したコンサルタントが言っているのを聞いたこともあります。周囲から、かなり、叩かれなかったのでしょうか?

かなり叩かれました(笑)。社内からも、「シャリーン」(*4)の方が便利ではないかなどと色々と言われました。

事務局注
*4 決済の時に、「シャリーン」という音がするEdyのこと。

ただ、中国に滞在して、QRコード決済を目の当たりにして、ある面では、日本の非接触の決済(*5)よりも、優れていると思っていました。特に、個店のビジネスでは、リーダーがいらないので、コストが安い、展開が手軽なので、ローラー的な営業とも相性が良く、成功できると思っていました。

中国にて

事務局注
*5 「カード等」による決済のための通信方法には、カードをカードリーダーに差し込んだりするいわゆる「接触型」と、近づけるだけで通信ができる「非接触型」がある。日本のSUICA等は、FELICAという技術を用いた非接触型の決済手段である。

また、そもそも、日本の課題として、キャッシュレス決済比率が低いということがあり、そのような日本の課題を解決するために、現金しか使えない店にキャッシュレス決済を導入していただけるようにしたいとずっと考えていました。そこで、多数の店舗等にインタビューを繰り返した所、導入しない理由は、主に3つでした。
1番目は、導入時に、端末購入等のためのお金がかかること。
2番目は、決済手数料がかかること。
3番目は、資金の受領時期が現金決済時より遅くなること(資金サイクル)。
そこで、初期費用を安くして、決済手数料率を取らず、かつ、資金サイクルを短くすれば、導入していただけると考えました。

-課題解決に向けたビジョンと、調査によるデータとしての裏付けがあったと。

ユーザー側から見たときには、「QRコード決済は手間である」、「非接触の方が楽」という声もありました。ただ、ずっとスマホを持っている人からすると、あまり苦ではないという声もありました。
QRコードが駄目だよという批判は多数受けたのですが、少なくとも中国、インドではかなり普及していた訳で、中国等での実体験に基づき、成功できるという確信めいた感覚があったので、批判に打ち勝つことができました。

PayTM本社風景

-「感覚」ですか。うーむ。批判といえば、ヤフーが、なぜ、PayTMと組んだのかという点も、批判はなかったのでしょうか。QRコードの技術は、新しい技術でもなく、社内の技術力で十分に対応できたのではないでしょうか。

PayTMと組む前の段階から、QRコード決済のローンチの準備はしており、ローンチの準備は整っていました。ですので、技術的な観点から、組む必要があったのかといえば、その必要はなかったと思います。
ただ、QR決済で、決済ビジネスをグローバルに展開し、成功していたPayTMのビジネスモデル等から学ぶことはあったと思いますし、PayTMと一緒ということでなければ、何百億円ものマーケティングへの費用支出が、グループ内で認められることはなかったのではないかと思います。ヤフーのQRコード決済は、ローンチ前で、まだ実績がなかったですから。PayTMと組んでいなければ、今のペイペイはないと断言できます。

トロントにてPayPay_PM細田氏と

-なるほど。ソフトバンク・ビジョン・ファンドも、PayTMに出資をしていると報道されていますが、投資面での株式の値上がり益まで入れれば、何百億円ものマーケティング費用の支出をしても、グループとして、もとが取れるのかもしれませんね。深い。

PayTM本社にて

-次に、暗号資産、デジタル通貨等の話に移りたいと思います。
白石さんは、「株式会社ディーカレット」で、デジタル通貨事業を立ち上げられたり、株式会社MyCryptosという暗号資産等のビジネスと関係する会社の代表取締役をなさったり、日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)のステーブルコイン部会長をなさったりと、暗号資産、デジタル通貨等の分野でもご活躍なさっていますね。
暗号資産やデジタル通貨については、どのように受け止めていらっしゃいますでしょうか。

暗号資産等に関心を持ったのは、キャッシュレス決済の比率を上げるという決済をきっかけとしてでした。最初は、暗号資産や、デジタル通貨などはあやしいと思っていました。でも、株式会社ディーカレットの代表から、「うちに来ないか」「デジタル通貨の検討をやりたい。」と誘われました。同社には、メガバンクや大手企業も株主として入っていて、面白いかもしれないと思って2019年に転職しました。
3年間、色々な活動に従事させていただき、ヤフーで従事していたキャッシュレスビジネスとはまた違う決済の形が見えてきたように思います。

-暗号資産については、税制が、罰ゲームのようになっていたり、ハードルも色々とあるかと思いますが。

発行体の時価評価課税については、次の税制調査会で議論されると予想しています。暗号資産に投資する方の側で、雑所得と扱われ、損益通算ができなかったり、損失の繰越ができなかったりといった部分は、法改正が実現するか、厳しいかもしれません。企業の会計上も使いづらい部分があります。ただ、技術的な部分は、大変、興味深く、ユースケースを出して、暗号資産や、デジタル通貨などを浸透させていくのが自分の役割だと思っています。ハードルは色々とありますが、それをいうと、QRコード決済も、最初は馬鹿にされていて、逆境からのスタートでした。

-決済に使うといった場合に、タイミングが遅いなどという話も聞いたことがありますが、その点は、どうなのでしょうか。預金のように、暗号資産交換業者に預けてしまえば、暗号資産の残高のつけかえだけなら、瞬時にできるのでしょうが。

「Lightning Network」などの、新しい技術が出て来ていますので、課題解決に目途がついていると思います。そういう意味で、この業界では、1年前の知識で話をしていては、話がかみあわないという事態が生じています。本当に、技術の進展が早くて、1年前の話でも、すごい昔の話という感じですね。

-CBDC(Central Bank Digital Currency)(*6)については、どのように見ていらっしゃいますか。

事務局注
*6 CBDCとは、中央銀行が発行するデジタル通貨を指します。日銀もCBDCの実証実験を行うなど、CBDCの検討を継続しています。

CBDCは民間の決済利用という観点では日本ではあまりニーズがないのではないかと思っています。

-Web3については、どのようにご覧になっていますでしょうか。

Web 2は、既に完成しています。一方、Web3では、0から新しく仕組みを作り出そうとしています。要は、ゲームがリセットされるということです。Web2の世界では、既に勝負がついてしまっていますが、Web3の世界では、ゲームに勝てる可能性があると思っています。Web2と3のどちらが優れているのかとか、そういうのはあまり関係がないと思っています。エコシステムのルールがもう一度変わるのです。いい人材が、どんどんWeb3に飛び込んでいます。Web3にかけてみるのも面白いのではないかとの感覚を持っています。

-なるほど。

今の若い人たちは、英語話せるのがベースラインで、英語で話せて、[プログラム等の]コードもかけて、イベントで英語で発表もしてきます。自分でプロダクトも作って、シンガポールに行ってと。最初のプロダクトも、英語で作ってしまう世代です。そういう方は、日本国内に目が向いていません。Web3がいい悪いの話とは別に、起業しようとする人が日本を飛び越えている時代だという風には感じます。

--白石さん、本日は前編に続き、インタビューにご対応ありがとうございました!

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