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モトヤフ上岡さんインタビュー

2021年4月にスタートしたモトヤフインタビューは今回 21人目になりました🎉
今日は、生物Dr. 上岡雄太郎(うえおか ゆうたろう)さんにお話を伺います。

— 上岡さん、よろしくお願い致します!

よろしくお願い致します!

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↑ヤフーのオープンコラボレーションスペース”LODGE”のキッチンでの写真です。

— ご出身はどちらですか?

東京の国立市出身です。

— 大学院ではショウジョウバエの神経科学で博士号を取得されたそうですね。研究内容がとても気になります。

昆虫にも記憶力があって、例えばある匂いを嗅いだ瞬間に静電気みたいな軽い電気ショックを与えると、その匂いを避けるようになります。

この記憶メカニズムが結構人間と似ていて面白くて、例えば匂いとショックを10回与えるとき、10回連続で経験させると一週間後にはこの記憶がなくなっていて、匂いを避けなくなってしまいますが、15分程間隔をあけて10回経験させると、今度は記憶が長持ちするようになるんです。人間が英単語を覚えるときも一気に読んでも覚えられないけど、一週間くらい毎日読んでると覚えられたりするのと似てますよね。こうした生き物の記憶について研究をしていました。

昆虫、とくにショウジョウバエを実験に使う理由は、ショウジョウバエは遺伝子をいじることが簡単にできるからです。遺伝子操作されたショウジョウバエがハエのストックセンターというところに沢山用意されています。ストックセンターは有名どころではアメリカ、ウィーン、京都にあります。

特定の遺伝子に異変のあるショウジョウバエは、1種類3000円くらいで買え、一度買ったら手元で簡単に生殖させて増やせます。色々な種類のショウジョウバエを使い、どの遺伝子が記憶に関係しているのか、どういった神経回路が記憶に必要なのか、といった研究ができます。僕は回路を主に見ていました。

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↑この1つの瓶に同じ遺伝子のハエが沢山入ってます。


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↑ハエの脳の神経回路(出典:https://flyconnecto.me/ )

— ショウジョウバエの研究をもとに、人間に応用するイメージですか?

可能性はありますが、実際には応用できるかもしれないし、できないかもしれません。でもハエは哺乳類などに比べてすごく少ない神経細胞なのに環境に適応できるようなシステムだと考えると、大変興味深く、応用の可能性があるかもしれません。

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↑ハエの頭を開いて、特定の神経群だけ光らせているところです(赤く光ってるところが神経群です)

— 研究とは別に、何か飼っていらっしゃったりしますか?

パプアキンイロクワガタという、色がきれいなクワガタを飼っていました。
会社に居たころ、増えすぎたので、社内チャットで欲しい方を公募して、紀尾井町のオフィスに連れて行ったら「クワガタ持ってきたヤバイやつがいるらしい」と噂になったのは良い思い出です。笑

— 珍しい昆虫で、高価だったりするんですか?

パプアキンイロクワガタはそこまででもないんです。前腕の扇形の突起で植物を切ってしまうので、現地では害虫扱いされているらしく。笑
ペアで1500円〜2,000円くらいですかね?

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↑パプアキンイロクワガタ(オス)

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↑パプアキンイロクワガタ(メス)

— どうして昆虫に興味を持ったんですか?

昆虫って、子供が自分の責任で手にできるものの中で最も“高性能”なものの一つだと思うんですよ。複雑な自然環境で能動的に動き回って勝手に増えていく、未だ人間が開発したものではこんなこと成し遂げられてないですよね。
ペットは家族の一部だから、そんな「モノ」や「ロボット」みたいな見方をするのはどうなんだ、という反応もあるとは思うのですが、特に無機質なロボットとして見ているわけではないんです。好きだからこそその仕組みが気になる、純粋にすごく興味があるんですよね、生物が。

— Yahoo! JAPANを選んだきっかけは何でしたか。またどんなお仕事をされていたのですか?

生物系博士課程に行ってたのですが、生物の行動を知りたくて研究していたので、仕事でもヒトという生物の行動が見れる場所という意味でヤフーを考えました。

ヤフーには2017年4月に新卒入社して昨年2021年の5月までデータサイエンス部署に在籍していました。

具体的にやってた仕事は、一言でいうと広告配信の分析とその最適化です。
立てた仮説をもとに、広告リクエストのトラフィックをいくつかに分けてA/Bテストをしたり、いくらまでの損失が許容できるのか、など決めて、新たな手法を試したりしていました。A/Bテストを行っても、広告をクリックするのは人間なので、ある程度ブレのあるデータを解析することが多く、生物の実験結果を解析するのと似ていると感じました。

ブランド広告、Yahoo! JAPANのトップページに載っているような広告は、クリックされるかよりも認知度などがそれによって上がったかどうかを気にしています。この認知度などに関連したアンケート調査の仕組を一番最初に考えたのが、僕と上司のチームでした。

また、最後の方はPayPayにもちょっと出向してPayPayデータの分析とかもやりました。

— ヤフー在職中のエピソードがありましたらお聞かせください。

先ほどの「紀尾井町にクワガタ持ってきた」も楽しかったですが、これ以外にも社内公募のあったアートPJで自分のアイデアを採用して頂き、そこで自分のアイデアで作品を作らせて頂いたのもとても良い経験でした。

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↑作品をHackDayで発表したりしてました(設営中)

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↑作品をHackDayで発表したりしてました(全部終わって記念撮影)

あと、同期で北海道の美瑛のヤフーの施設でどオフ(在宅勤務)したり。当時どオフの回数制限が月5回の中、月を跨ぐようにして一週間以上滞在したのはかなり頑張ったと思います。笑

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事務局注:モトヤフインタビュー第17回の飯島聡美さん含む8名で行かれたそうです。

仕事のエピソードも話しましょう。笑
広告システムの分析をしていた際、なぜか毎回発生する謎のバイアスがあり、その原因を統計的に突き止めた時はちょっとした「アハ体験」というか、研究に特有の「謎が解けた」という感覚を感じました。そこからそのバイアスを補正するような統計処理を挟み、サービスがリリースされました。頭の良い方々とディスカッションしながらウンウン唸って導けた時はスッキリでしたね〜

— ヤフーで学んだことはどんなことでしたか?また辞めたから分かるヤフーの良さというものはありますか?

今あらためて考えると、ヤフーのような働くシステムのしっかり組まれた環境で働けたというのは学びが多かったと思います。会社としての正解の形を一度叩き込めたというか。勿論ヤフーより良いシステムを持ってる会社もあるかもですが、基本的に日本の大多数の企業はヤフーから学ぶものがあると思います。そういう意味ではヤフーにいた方が全国津々浦々の大中小企業に入っていって業務改革のようなことを進められると日本は変わるのかもしれないなとか。IT文化・リテラシーがあまりないところでシステムを構築するのは苦労が多いかもですが 笑

ヤフーの良さは、そういった会社としてのシステムの完成度合いに加えて、人の良さがありますかね。

皆さん能動的に動いて多少の段差は乗り越えていく力強さ、「自分が居なくても多分全然PJ回っていくんだろうなー」という絶対的な安心感は凄いです。それを可能にする社員のコミュニケーション能力の高さ。これだけリモートでもテキストでちゃんと意思疎通をはかって、みんないい気分でPJがスムーズに動くのは凄いと思います。勿論これには盤石な経済基盤に裏打ちされた賃金や雇用の安定がベースとして大きく影響してるとは思いますが。

— ヤフー退職後は8thCAL株式会社でCTOに就任されたとのことですが、どういったことをなさっているのでしょうか?

8thCAL株式会社シェル商事という会社からスピンオフのような形で創業した会社です。シェル商事は元々、ビルにおける害虫害獣の調査・処理の会社です。ビルの裏とかを放っておくと生き物が繁殖するというのが戦後のビル街が立ち並んできた時代に問題になったのですが、それに対処するような形で創業した会社です。そのシェル商事ではやりにくいようなもっと新しいことにチャレンジしていこうという位置づけでできたのが8thCAL株式会社ですね。

8thCAL株式会社が主催している害虫展というアート公募展の第1回で入賞したのがきっかけで同社に入社しました。8thCALは予防にフォーカスしており、害虫・害獣が増えて殺処分する事態になる前に増えないように対処しよう、ということを目標にしています。

人間のお粗末のせいで増えた虫や獣を殺虫剤などで殺すというのは流石に人間のエゴが過ぎないか、みたいな話しで、増える前の未病の段階で何かシグナルを見つけて処置出来てしまえば大量に繁殖してしまわないし、薬剤も使わず環境負荷も少なくエコなんですよね。そういった方向性で自然との共生を目指している会社と聞き意気投合しまして。そこでITツールの導入や害虫害獣データの分析を行っています。案外よくわからない部分の多い都市部の生物の動態を理解できたら面白いなと思っています。

— 今年の1月からは更にダブルワークとして東京大学で研究員もなさっているとか。どんな研究をされているのですか?

今はマウスの心理実験みたいなものの分析をしています。
「右を選ぶか、左を選ぶか、正解の方を選ぶと餌がもらえる」というタスクをマウスに与え、「高音だと右が正解、低音だと左が正解」みたいに学習させます。この音の高低が微妙で区別がほとんど分からなくなったときに、マウスはどのような選び方をするのか、そこにはどのようなアルゴリズムがあるのか、最適解をどのようにマウスは見極めているのかといったことをラボで研究していて。

その中でも、僕自身は、このタスクを課している最中に、マウスの体全体の動きがどういった傾向を持っているものなのか、それはシミュレーションで再現できるのか、といったことを研究しています。

生物の行動を模倣することができれば、その行動アルゴリズムというのが生物が脳内で生成しているものだと考えることが出来るので、僕が知りたい生物の行動のシステムというものに結構近づけるのでは、と思ったりします。

ダブルワークするようになったきっかけは、生物の生態から環境に関わる8thCALのお仕事に誘われたことと、そこでの働き方だと大学で研究も両立できると分かったことです。民間企業でもある程度価値を出しながら、また生物系の研究でも分析業の手法を使って面白いことがそろそろ出来るんじゃないかと思ったりしまして。

こうしてダブルワークしていて面白いなと思うのは、片方は完全に民間のビジネスで数字を求めるものですが、もう片方は完全に学術なのであまりビジネス的な要素が無いところです。お金にはならないけどそれ面白いね・気になるね、みたいなことをやるのが好きなんですけど、そればかりやっていても自立して生きている感じがしない。どちらもある程度やっていきたいな、と個人的には思いこのバランスに落ち着いています。

— 「生物の行動のシステム」に興味を持ったきっかけはなんですか?

小さい頃から虫が大好きで、無限に見ていられるんですよ。
生き物が一匹いたときに、どうしてそういう行動をしているのか知りたいなと。
虫が好きっていうと、標本みたいなコレクションが好きなタイプの人もいると思うんですけど、自分は標本にはあまり惹かれなくて。あっ、じゃあ動いていることに興味があるんだなと気づきました。それがきっかけで神経科学をやろうと思いました。

最近わかったのは、脳だけを見ていてもだめで、環境要因もかなりあるので、総合的に見ないとだめということです。まだまだ未開で、やることが沢山ある分野だと思います。

これって結局ヤフーでやっていた広告配信システムも、人間をどう動かすのかという点において、結構似ているんですよね。こうやってみていくと、アカデミアの研究に限らず、色々な分野で興味は広がっていきますね。それとニューラルネットとかの学習で、それが生物に似ているなら、ありえないインプットを与えてみたらどうなるんだろう、とかも気になります。実世界で生物では出来ない実験も、仮想的にできるようになったら面白いな、と。

— 行動というと、最近ルンバがうちにいます。(※インタビューアー川村家)

ルンバも結構ずっと見てられますよね。例えばルンバが、壁に当たったら曲がるとだけプログラミングされているのであれば、曲がったのを見ても特に何も感じないと思うんですけど、我々がルンバを見るときは、ルンバがルンバなりに頭で考えて動いていると思ってるから「あ、曲がろうとしてる!」みたいに愛情をもったりするのかなとか。
日本はエスカレーターもトラックもしゃべって面白いですよね。でも、そこに愛着はあまり個人的には湧かないんです。それはエスカレーターやトラックが何か思考して喋ってるわけじゃないからだと思うんです。

何か思考して喋るといえば、昔家にロボホンが来たとき、声がすごく可愛かったんですね。でもGoogle Homeとかって、声が大人じゃないですか?だからそこまで「可愛い」という感情は湧いてこなくて。西洋と日本でそんなところの違いもあるかもしれませんね。むしろポンコツな方がその思考過程に思いを馳せるから可愛かったりして。思考が裏にあると思わせることが上手い日本と、思考が裏にあると思わせたくない西洋、とか。完全に妄想ですが。笑
ルンバもドジするから可愛いじゃないですか。

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↑実家に突如現れたロボホン

— 確かに、ルンバ可愛く見えますね!

実は、ルンバを作ったiRobot社の創業者のロドニー・ブルックスはロボット工学の研究者で、サブサンプションアーキテクチャというロボットの行動システムを提唱しました。これがまさにルンバの「壁にぶつかったら右に曲がる」といったシステムの元なんです。

もともと、ロボットが動くためには、外界をロボットの脳内に模写することが必要で、その次に、どこにゴミが溜まっているのか、脳内でシュミレーションするという問題を解くべき、というのが主流でした。しかし、この解き方だと、当時の計算機の計算能力では追いつかないという問題がありました。

ブルックスはサブサンプションアーキテクチャというシステム概念を用いてこれを解決させました。これは、簡単な独立のモジュールを組み合わせてロボットの動きを構築するものです。具体的に言うと、ぶつかったら右に行く、というような簡単なルールだけで、なんだかんだきちんと掃除できるロボットがつくれた。まぁ本当はそれだけだと効率が悪いので、今のiRobotはもう少し改善されているみたいなんですけど。そうやって生き物っぽい行動というのは色々なアプローチで研究されてきたんですよね。

— 生物の不思議とも関連するのですが、人間の眼って倒立画像を見ているはずなのに、何故か実際には正立画像として認識できていますよね。これって不思議だなと思ったことがありますが・・・。

逆さ眼鏡をつけていても、一週間くらいつけていると脳は慣れてしまうらしいですね。でも、その後外すとまた脳は大混乱するらしいんです。脳はある程度可塑性があるんでしょうね。赤ちゃんがまだ話せなくて、泣いてばかりいるとき、実は頭の中は色々な感覚が逆さ眼鏡状態で、ワイヤリングが色々とされているのかもしれませんね。

— ライフワークは何でしょうか?

生き物の行動を理解することですかね。あわよくば、そこから生き物っぽいロボットとか作れたら楽しそうです。日本ってエスカレーターも喋るし、トラックが曲がる時も喋るし、そう考えると結構ファンキーだと思うんですけど、そこに生命性が付加できたら真にファンキーな未来が来るんじゃないかなとか思ったり。

— ところでご趣味は何でしょうか?

バドミントンです。大学のサークルで始めてから、なんだかんだ10年くらい続けています。新型コロナ感染の初期で全く人が外を出歩かないみたいなタイミングでは一瞬体重が増えましたが、ちょっと外出できるようになってからは体育館が開放されて、在宅で消えた通勤時間がバドミントンの時間になってまた体重が元に戻りました。 笑

もともと体を動かすのは好きで、特に手で何か道具を使う系が好きみたいです。中学は野球、高校は卓球をやっていました。最近もコロナで卓球Youtuberを見てたら再開したくなって卓球もモトヤフの後輩とやってたりします。笑
ヤフーの方々で、もしバドミントンや卓球お好きな方がいたらぜひ!

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↑地元のバドミントン大会でダブルス優勝しました。笑

— 最後に、イマヤフ・モトヤフ・読者の方へメッセージをお願い致します!

イマヤフの方へ 👉 いい会社だと思うので、また僕が戻りたくなったときは(落とされなければ)優しく迎え入れて下さい笑

モトヤフの方へ 👉 何か面白いことあったら誘って下さい、遊びましょう!

読者のみなさまへ 👉 変なキャリアになっている人間の記事を読んで下さりありがとうございました。このようにヤフーは度量の広い会社ですので、同僚に恵まれ楽しく仕事したいと思われましたら是非就職先にでも転職先にでもして頂ければと思います!

— 上岡さん、本日はインタビューご協力ありがとうございました!

(文責:川村英樹・飯島聡美)

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