私の中の石山君たち

兼近大樹「むき出し」を読んで、たくさんの思い出が蘇ってきた。

私は東京下町で生まれ育った。小学校にも中学校にも石山君がたくさんいた。

小学校では、笑って「しょうがないなあ」で済まされていた石山君。

でも、中学校に入ると、不良というレッテルを背負い、周りからは一目置かれるたくさんの石山君たち。私は生徒会の副会長もやっていた優等生。りんたろーさん的な生徒だった。でも、なぜか私、その石山君たちに懐かれていた。まだヤンキーなんて言葉がない頃の話。

当時、番長(って今でも言うかな?)の友達が私を好きになったみたいで、その時私が付き合っていた超優等生の彼を屋上に呼び出して、殴りつけた。番長と優等生の彼がふたりで教室に遅れて入ってきて、彼の唇が切れていた。ざわついたけど、二人はなんでもありませんと黙っていた。なんだろう、男の世界って感じか(笑)

遠足の日に、後ろから抱き着いてきた石山君A。なんとなく酔っぱらってる??友達に聞いたら、薬をたくさん飲んだらしいと。その時は風邪薬って言ってたけどね。いつも笑っているその子は、不良といってもなんか無邪気だった。お母さんは夜のお店で働いていて、そして、その子は小学校の時、目の前で妹を踏切事故で亡くしていた。

だれが彼を救えたんだろう。

河原で隣の町の中学校のワルたちと決闘をして、新聞沙汰になって。次の日にたくさんの石山くんたちの親が学校に呼び出されていた。私の知っている彼らは、話すと本当に人懐っこくて、ある意味普通の子だった。「〇〇(私)は先生にひいきされていていいよな~、俺たちの気持なんかわからねえよな」っていつも言われていたけど、ひいきされて期待されるのも大変なんだよ。

私が一番印象に残っているのは、もろ石山君という感じの子。先生の話は全く聞かない、自習時間にはず~~っと「阪神の○○振りかぶりました、打ちました!」って騒いでいて、注意する女の子もよく泣かしていた。でもね、その石山君は毎朝、重度の知的障害のクラスメイトを家まで迎えに行き、授業中その子がなんかで泣き出したりすると「泣くな!」と世話を焼いて、ましてや誰かがその子をからかったりしたもんなら殴りつけてくる。野球が大好きな野球少年だった。放課後クラブが終わると教室で待っていたその知的障害の子に、「帰るぞ!」と連れて帰っていく。

私は不良は全員が全員本当のワルではないと、この子を見ていつも思っていた。

夏休み前まで本当に普通の女子だったのに、夏休みの後に学校へ来たら、髪の毛はクルクルの金髪、スカートはくるぶしまであって、「あ、○○おはよ~~」と言われたときに顔が引きつったのを覚えてる。その子は突然あの番長と付き合いだして、周囲を驚かせた。お母さんが離婚して、家庭環境が一変して、寂しかったのかな。話すと甘ったれたしゃべり方をしてかわいいのに、姿はあの頃のスケバンの代表みたいに変わっていった。

中学を出て働く子も何人かいた。いつも同じ服を着ていて、たまに新しく買ってもらったんだろうと思えるかわいい服を着てくるとそれを何日も着てくるから、からかわれていた。あの時のことを思うと胸が痛い。きっとうれしかったんだろうに。中学を出て社会で働くなんてその時の私には想像もできなかったよ。

「むき出し」は私にあの頃のことを思い出させる。主人は小学校から私立に通うおぼっちゃん。一方私は高校まで公立で、いろんな子供たちと一緒だった。兼近さんがいう、階層が低い子供たちがいつも身近にいた。まあ、私も小さな工場の娘だったし、母親が教育ママだったからかろうじて俗にいう「普通」でいられた。

今はなるべくそういう子供たちと切り離したいと小中から私立を選ぶ親が多いんだろうけれど、私は下町の公立でたくさんの石山君たちを見てこれてよかったと思う。

彼らの中の優しさ、寂しさ、やりきれなさを知れたから。

彼らは今どんな風に生きているんだろう。

この本の感想は本当に皆さんが思っている通り。思うことは山ほどあるんだけど、皆さんの文才がすごすぎて、それ以上のことは私は書けない。

ここからちょっとネタバレ↓


お母さんの病気を知り、お母さんの布団にもぐりこんだ石山少年、スナックの帰りにお母さんの周りをクルクルしていた石山少年、バンの中でお母さんのお弁当を食べながら孤独に泣いたところとか、もう涙があふれたところは書ききれないしね。

それでも一つだけ。

一番つらかったのが、

あの過去の事件の文春報道のあとに、彼に投げつけられた数々の言葉。書かれたものを私も何度も目にしていた。あの言葉をあんなに書き連ねて、全部背負っている。全部まともに正面から受けていたんだと改めて知った。その悲しみと覚悟に、ただただ涙が流れた。

その人の本当の姿を知らずに正義を振りかざして心無い言葉で非難すること。絶対にしてはいけないと肝に銘じた。マスコミの中傷記事を目にしても、同調する前に、ん?まてよ、もしからしたら違う目でみたら。。。と立ち止まれるようになった。

兼近さん、本当にいろんなことを教えてもらったし、いろんなことを考えました。ありがとう。

人に優しくできる人生を送りたいと心から思えた一冊でした。