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小説の食べ物描写。

グルメファンタジーの連載を始めるとき、知人に「マンガのグルメものは読んでるけど、文章で食べ物の描写ってあんまりピンとこない」と言われました。
それで食べ物描写には力を入れよう! と……思ったのです。
以下は「皇帝陛下とお毒味役の異世界漫遊グルメ旅」1〜7話から切り出した食べ物描写です。
編集部がつけたアオリは「読めば必ずお腹が空く!」

”飴色に焼けた皮が皿の上でチリチリとかすかな音を立てた。皮の脂でフライ状態になり、表面は小さな気泡で覆われている。フォークの背で押さえるとパリッ、と割れた。小さなかけらをフォークに乗せて口に運ぶ。
さく。さく。”

”一塊の肉を皿に取ってナイフで触れると、切る前にほろりと崩れた。その一片を口に含む。崩れゆく肉の繊維とロースの芳醇な脂が絡み合い、一噛みするごとにこれでもかというくらいの旨みを放出してくる。煮汁の酸味はざくろ酢。優しいコクのある甘さはニセアカシアの蜂蜜だ。”

”何十層にも重ねられた極薄のパイ生地がバターの香りを振り撒きながら口の中で解けていく。天上の奏楽を思わせる繊細な口当たり。そして極薄パイの下には細かく刻まれたピスタチオナッツの緑のエリアが隠されている。”

”宝箱の蓋を開けるように黒く焦げた鞘をひらく。中には握り拳ほどの大きさのある淡い緑の豆が四つ、ふわふわした白いワタのベッドに鎮座していた。鞘の中で蒸し焼きになった豆の、何とも言えない香りが立ち昇ってくる。”

”ふっくら煮えたオレンジ色の貝の身を貝殻のスプーンで掬って口に運ぶ。
美味だ。するりと口に滑り込んだ貝はぷりぷりと身が厚く、噛むと旨味たっぷりの汁がじゅんわり溢れてくる。目の前の海で獲れたのだろう、非常に新鮮で臭みは全くなく、濃い旨味と海の香りが口いっぱいに広がっていく。”

”クリームとルバーブを一緒に口に含むとシナモンの奥に隠された卵黄の優しい香りが鼻腔を駆け抜け、カスタードの甘さとルバーブの酸味が舌の上で絶妙のハーモニーを奏でた。
素晴らしい。やはりルバーブとカスタードの組み合わせは正義だ。”

”口に入れた瞬間、あん肝ルイユの旨味が殴り掛かってきた。
なんという美味。言葉が出ない。
舌に絡みつくように濃厚なレバーの複雑で深い旨味。
カリカリのパンの奥深くにまで沁み渡ったスープの中で八種の魚介とハーブがそれぞれに主張し、絡み合って味と香りのタペストリーを織り上げていく。”

”表面はカリカリで、中身はふわとろだ。
カリカリ食感が終わると豆のペーストは口の中でほろほろ崩れてあっという間に溶けてしまう。鼻に抜ける優しい豆の香り。そして玉蜀黍と栗を合わせたような独特の甘さが口いっぱいに広がる。”

”くさび形の先端をフォークで小さな三角に切り取り、舌に乗せ、慎重に口蓋ですりつぶす。すぐに玉蜀黍の大らかな甘さがやってきた。食感はエッグプディングよりも固くて弾力があり、小麦粉を使った蒸し菓子に近いがもう少しねっとりした舌触りだ。”


こんな感じです。
如何でしたでしょうか? お腹空きました?

1話と最新話はこちらで読めます。
現在の最新話は8話「誓いのゴマパンとチキンピリピリ」
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