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作中作《レ・ボーの白い薔薇》のビュー。

” そう、あれがペネロピ・モンゴメリの――トッド・バーナックルのロマンス小説第一作だった。
 十五年前、《レ・ボーの白い薔薇》を書いたときのことを思い出す。売れなかった駆け出し時代、エージェントに薦められて生活資金を稼ぐために書いたのだ。ロマンス小説の作者は女性の方がいいだろうということで、ペンネームは適当にそれらしいのをでっち上げた。ペネロピ・モンゴメリ。そこはかとなくロマンチックな響きじゃないか。
 著者近影は女装して自分で撮影した。
 別れた女が残していった化粧品を顔中に目一杯塗りたくり、ハロウィン用の魔女の赤毛のウィッグを被って。ほとんど冗談だったが、ノリノリだったことは確かだ。そうして二週間ほどで一気に書き上げたのが《レ・ボーの白い薔薇》だ。南仏を舞台に大量の冒険と恋愛をぶち込んだ荒唐無稽な歴史冒険ロマンス小説に仕上がった。
 書くのは愉しかったし、自分でも意外なほど面白く書けたと思った。
 ヒーローはシャルルという名の若くハンサムな騎士で、無鉄砲な姫君エレインを助けて大活躍するのだ。もちろん二人は最後には結ばれるのだが、そこに至るまでは冒険小説と言って良く、あまりロマンス小説らしくない活劇が大半を占めていた。
 二人の友人であり助言者でもある老騎士ガストンについては良い味を出せたと思ったが、エージェントからはそんなキャラクターは余計だ、もっとラブシーンが多い方がいいと文句を言われた。
 そんな具合だったから、どうせ売れるまい、当面の家賃が払えるくらいの収入になれば御の字だと思っていた。いや、もしかして少しは売れて、二ヶ月分の家賃と光熱費が払えるかも知れない、などと思い描いたりもした。

 まさか大当たりするなんて、誰が想像しただろう?”

新書館ウィングス文庫《竜の夢見る街で》2巻より抜粋



拙作《竜の夢見る街で》は現代ロンドンが舞台ですが、作中に出てくるさらに架空の小説《レ・ボーの白い薔薇》の舞台はレ・ボー・ド・プロヴァンスです。南仏旅行中に行きました。


Googleビュー https://www.google.co.jp/maps/place/%E3%83%AC%E3%83%BB%E3%83%9C%E3%83%BC%EF%BC%9D%E3%83%89%EF%BC%9D%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%82%B9/@43.749761,4.792979,3a,75y,90t/data=!3m5!1e2!3m3!1s23213159!2e1!3e10!4m2!3m1!1s0x12b5e15dd86ab221:0x40819a5fd9704e0!6m1!1e1?hl=ja


この岩山の上まで徒歩で登ったのですよ……死ぬかと思いましたが上からの眺めは絶景でした。下から城塞の写真は撮れず、うまく撮れたのがこれ一枚しかないのが残念。「写ルンです」で撮影。


レ・ボーにはかつて山城があり、難攻不落を誇りましたがついに陥落、堅牢すぎて敵の手に渡れば危険ということで故意に破壊されたそうです。強者どもが夢の跡……という感じでロマンをかき立てられる城跡。作中の架空の小説の舞台にしようと思ったのはその辺りが理由だったと思います。


《竜の夢見る街で》新書館ウィングス文庫全三巻完結済み。
表紙とイラストは樹要先生です。

http://book.akahoshitakuya.com/b/440354133X