2007横浜の世界SF大会日記 4

8月31日の3。夕の部。

「ファンタジーと伝承音楽」が終了時間となり、興奮覚めやらぬ私はエレンさん、デリアさんに挨拶に行きました。パネル席の周囲にはまだ大勢がたむろっていて、それぞれ感動や興奮を語り合っています。ひかわ先生が大のペンタングル・ファンだと判明。大好きです、ザ・ペンタングル。欧州トラッド音楽を聴くというだけでも珍しいのに、エレクトリック・フォークやロック・フォークが好きな方とお話する機会は滅多にありません。

私はエレンさん、デリアさんと話していました。舞い上がっているし、私の英語力ではなかなか思うことが伝えられない。トラッドとファンタジーの幸福な関係に大変に感動したということを、どう伝えたら良いのかもどかしい。

そしてそろそろ部屋を閉める時間になり、ひかわ先生に渡した「吟遊詩人トーマス」を仕舞おうとしたとき、さっきまで置いてあった机の上に無いのに気付きました。慌てて探したけれど、どこにもない。
パネル中とそのあとの雑談中、まだ机の上にあったのは覚えています。
推理の結果、十中八九、ひかわ先生が間違えて持って行っちゃったんじゃないかという結論に達しました。ひかわ先生は前のパネルの部屋に忘れ物をしてきたと言って、少し前に慌ただしく出て行かれたのです。
ひかわ先生が持っているのなら、安心なのですが、誰かわからない人が持って行ったのなら、諦めるしかありません。私はひかわ先生の連絡先を知らなかったので、通訳のTさんに電話で確認してもらった結果、やっぱりそうでした……(^_^;) 

一安心。絶版本ですからね……(^^;)
ひかわ先生はこれからレセプション・パーティーに出なければならないので本はこの次に会った時に、ということになりました。たぶん会期中まだ会いますから。

そうこうするうち、エレンさんとデリアさんにお茶に誘われました。もちろんイエスです。エレンさん、「《秘密の近道》を知ってるの。さ、行きましょ!」

秘密の近道……? だいたい、お茶をするって、どこで……? 
帰ったら100年経ってるような気もしましたが、でもついて行くしかありません。エレンさん、デリアさん、Tさんと私は廊下をどんどんどんどんどんどん歩いて行き、一番端まで来るとそこには大きな鉄の防火扉が。エレンさんが防火扉のドアを開け、みんなその後ろについてぞろぞろ非常階段を降りる。そして再び防火扉を開けるとそこにあったのは。
「ここよ」
《グリーンルーム》、企画主催者とゲストのための控え室でした。
「あの……ボランティア・バッジではここ入れないんですけど……」
と言ったらエレンさん、「あなたは私のゲストだから」と悪戯っぽく笑う。
どことなくイリーガル気分を楽しんでいる節もあり。予想外にお茶目な人だ……。
お茶目と言えばデリアさんもそう。エレンさんとデリアさんが二人でいるとなんだか仲の良い女学生みたいな雰囲気です。

そして、グリーンルームの無料のお茶でお喋り。
まずは「シール交換しましょう!」

(解説します)

「シール交換」とは日本SF大会の企画で、プリクラ用紙に各自作成した《自分シール》を大会で交換すること。シールを貼るための台紙は配布物に含まれています。……なんて偉そうに解説していますが「プリクラシール」そのもの解らなくてネットで得た知識だったり……^^;

 海外からのお客さんにも「シール企画」のことは伝わっているので、かなりの人が準備してきていました。エレンさんとデリアさんも用意周到に奇麗なシールを作って来ていました。上の写真は、ワールドコンで出会った皆さんと交換したシール。エレンさんとデリアさんのも貼ってありますが、どれだか判ります? 下の2枚は私のシールです。ドラゴンが人気でした。わんこシールを指して「この犬、ガブリエル・ラチェットなんです」と言うと、二人とも大笑い。
「可愛いすぎるわ!」
ガブリエル・ラチェットとは英国の妖怪(妖精)で、姿無き空飛ぶ猟犬。本来は恐ろしい魔物ですが私は作中で翼ある犬として使いました。もちろん二人ともよくご存知だったわけで。

それからまたトラッド音楽の話。
でも頭がいっぱいいっぱいなので、好きな歌手や曲名がなかなか口から出てこない。もどかしい……そこでパッと名案が! ipod nanoをショルダーバッグから取りい出し、アーティスト名を表示して見せたのです。nanoの中身はほとんどがトラッド。そしてプレイリスト「fairy's song」「ballad」「jig」「Reel」「Set」も作ってありました。
「マーティン・カーシーは好き?」「もちろん!」。
そのうちipod のリストを眺めていたエレンさんが、急に「あなたはどのバージョンのTam linが好き?」と言い出しました。
「タム・リン」とは《Young tam lin 》として知られるオールド・バラッドで、内容はトマス・ライマー伝説と同じと言っていいくらい近いもの。私のipod には5種類のタム・リンが入っています。ビル・ジョーンズ、フェアポート・コンヴェンション、メディバル・ベイブス、モイラ・クレイグ、そしてスティーライ・スパン。
「フェアポートも好きですけど……一番はスティーライ・スパン」
「スティーライ! わたしもよ!」
ああ、なんということでしょう。まるで嘘のよう……これ、夢じゃないですか?

タム・リンが入っているスティーライ・スパンのアルバム
”Spanning the years” のリンク

https://itunes.apple.com/jp/album/spanning-the-years/id695841965
(iTunesストアでのこの曲の購入はアルバムのみ)

その後、エレンさんとデリアさんはレセプション・パーティーへ。Tさんが一緒に来れば、と誘ってくれましたが、そんなところに行っても孔雀の羽を着たカラスのような気分になることは必定だったので固辞させて頂きました。あとで考えるとかえって申し訳なかったです。しかし、その時にはいきなりパーティに参加なんて想像の範疇の外だったので……。

こうして夢のような一日は終わりました。みなとみらい線で宿に帰り、コンビニで買ったシードルでささやかにこの魔法の一日を祝う。

私の手を離れた「吟遊詩人トーマス」についてはまた後日。


(続く)