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作らないはずのメニューを作るようになってみそ汁の枠がこわれた話

たいていの料理は自分で作ったほうが安上がり。本格レシピは書籍やウェブにある。プロには遠く及ばなくても、少しは自分の料理がバージョンアップできる。パテやロースト、ベーコンやハムも自作。味噌を仕込み、ジャムを煮、果実酒を漬ける。クッキーも焼くし、デザートも作る。でも、コレは外で食べるから自分では作らないと決めて、レシピを素通りしてきたものがいくつもある。

たとえばコーヒー。いろいろ蘊蓄を語る人が多く、名店も多い。でも、わたし自身はどちらかといえば実家由来の紅茶派で、紅茶も3種類くらい用意している。そのわたしがコーヒーのこだわりもないままに焙煎を始めた。びっくりだ。焙煎をするという作業自体が面白い。次第に変わる音に集中していると、一種の瞑想みたいな時間が持てる。だんだん好きな豆や好きな淹れ方の基準ができてくる。いつのまにか、このコーヒーはこんな風に仕上げようと思いながら焙煎するようになった。

そして、スパイスを合わせて作るカレー。こちらも名店が多いので、こういうのはお店に任せて自分はルゥのおうちカレーを作ればいい、長くそう思ってきた。ジャワカレーとゴールデンカレー、赤缶を常備して、適当に組み合わせていく。これがわたしのおうちカレーだ。牛肉を使う時にはじゃがいもを使わないとか、小さなこだわりがいくつかある。

数年前の春、「カレーの学校」というのに行っていた。前の年の暮れに実母を看取って、ちょっと違うことがしてみたくなったのだ。レシピを教えてくれるのではなく、調理が無いのがお気に入り。考え方、組み立て方、歴史や知恵やちょっとしたコツが提供され、そこにはカレーマニアが集まっている。作る人、食べ歩く人、レシピ開発する人、カレー屋をする人。共通点はカレー好き。通っている間だけと思って食べ歩いたり、1冊だけカレーのレシピ本を買って作ってみたりした。これがわたしのスパイスカレーのはじまりだ。

本を見ながらたどたどしく作っていたけれど、少しずつ自由になっていく。寒いからちょっと辛め、ショウガ多めとか、肉が脂っこいからスパイスの香りを変えて、ショウガもすりおろしと千切りとどっちがいいかな、ハーブ使おうかな、違うスパイスを使ってみようとやっているうちに、だんだんわたしが家で作るのはスパイスのカレーが多くなっていった。

そして、不思議なことがおこった。しょっちゅう作っていた味噌汁が変わっていったのだ。大根とおあげの味噌汁、豆腐とねぎ、里芋、きのこ、豚汁、青菜、貝といった定番メニューに、ちょっとショウガのすりおろしを加えたり、コクが出したいなと牛乳を足したり、そもそも出汁を取らないで豆乳で作ったり、アーモンドパウダーを入れてみたり。鶏スープで鶏ひき肉の丸と青ネギ、とか。相変わらず自家製の味噌を使いながら、みそ汁がどんどん自由になった。

ちっともスパイスを使っていないけれど(時にはほんの少し使うけれど)、これらの味噌汁は、ある意味わたしのカレーだ。最後にちょこっと胡椒をひいたり、黒七味を振ったり降らなかったりしながら、白いご飯をしっかり食べる。

定番もいい、冷蔵庫の中身やストックとのインプロビゼーションみたいなみそ汁もいい。たぶん、カレーの国のカレーもそんな感じなんだろう。おうちカレーはますます自由だ。そしておうちみそ汁も。きっとこれからも。

コーヒーの焙煎機がほしくてコツコツ貯金中。なかなか貯まらないけど、あなたのおかげで一歩近づきます。