AV新法と代役出演、さらに契約に関する条文の穴。

民法を読んでてふと考えた。
請負業は仕事の完成を目的とするもので、仕事が完成出来れば誰が行っても良いのだから、委任とは違い下請け契約をする事も出来る。
そして下請け契約は元請け業者と下請け業者が締結し、注文者が入らなくても良いようだ。

○「請負」とは、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する 契約である(民法§632)。 ・「仕事」とは労務の結果により発生する結果をいい、有形・無形を問わない。 ・「完成」とは労務によってまとまった結果を発生させることをいい、原則として自由に履行補助者や下請負人を使うことができる。

請負契約とその規律

 アダルトビデオの出演者は俳優業である。台本があり監督の指揮の元、一般のドラマ撮影のような環境下において、性行為を含む演技をする内容である。そして演者はメーカーと出演契約を締結するが、俳優業であるので請負契約になる。

4 「映画の俳優」及び令第21条《その役務の提供を約することを内容とする契約が請負となる者の範囲》第1項に規定する「演劇の俳優」とは、映画、舞台等に出演し、演技を行う芸能者をいう。

第2号文書 - 国税庁

アダルトビデオ撮影において、撮影日に演者が急に出れなくなると、代役を立てる事があり、この代役は慣習的に行われている。代役を立てる行為は契約の類型で言えば下請け契約であり、本来出演するべき演者との間で締結されるものである。

下請負が許されているときは、下請負人は元請負人の履行代行者または履行補助者であるから、下請負人の故意 過失につき元請負人は責任を負う。 ・下請負が利用されても、注文者と元請負人との法律関係は何ら変更を受けず、注文者と下請負人との間には、直 接の法律関係は生じない。

請負契約とその規律

AV新法では代役に関する規定がないので、代役の適用にあっては民法の解釈に依るべきものである。そうすると、下請負の行為は注文者との間で直接の法律関係は生じないのだから、注文者と代役者の関係においてAV新法の適用はない。よって制作公表者による重要事項の説明や熟慮期間の設置は、代役者に対しては不要となる。制作公表者の権利義務はあくまで元請けの演者との関係で生じるべきものである。

ところで、AV新法における「出演契約」とは以下に定義されている。

6 この法律において「出演契約」とは、出演者が、性行為映像制作物への出演をして、その性行為映像制作物の制作公表を行うことを承諾することを内容とする契約をいう。

AV新法2条6項

元請け演者と下請け演者の契約締結義務を調べたのだが、ここには「誰」と「誰」が契約をするか、が示されていない。上記内容は端的に言えば「出演者が承諾をする契約」なだけであり、例えば演者自身でなく所属先のプロダクションが契約の当事者とする解釈も出来るだろう。

契約締結に関する条文を見ても定かではない。

第四条 出演契約は、性行為映像制作物ごとに締結しなければならない。

同4条

ここでも「誰」と「誰」が示されていない。

第五条 制作公表者は、出演者との間で出演契約を締結しようとするときは、あらかじめ、その出演者に対し、前条第三項に規定する事項(同項各号に掲げる事項については、当該制作公表者に係る部分に関する事項に限る。次条及び第二十一条第二号において「出演契約事項」という。)について出演契約書等の案を示して説明するとともに、次に掲げる事項についてこれらの事項を記載し又は記録した書面又は電磁的記録(以下「説明書面等」という。)を交付し又は提供して説明しなければならない。
第六条 制作公表者は、出演者との間で出演契約を締結したときは、速やかに、当該出演者に対し、出演契約事項が記載され又は記録された出演契約書等を交付し、又は提供しなければならない。

同5条及び6条

5条は「しようとするとき」であり「しなければならない」という内容ではない。6条も「したとき」であり同じである。
例えば、前述した解釈に従い制作公表者がプロダクションと出演契約をしたときは、相手は「出演者」ではないので、重要事項説明はしなくても良い事になる。6条についても契約書の交付は不要である。

第七条 出演者の性行為映像制作物への出演に係る撮影は、当該出演者が出演契約書等の交付若しくは提供を受けた日又は説明書面等の交付若しくは提供を受けた日のいずれか遅い日から一月を経過した後でなければ、行ってはならない。

同7条

プロダクションと契約をした場合、熟慮期間の1ヵ月も適用されない事になるだろう。

AV新法では契約の当事者の定めがなく、また、AV新法の目的は「制作公表者等の義務、出演契約の効力の制限及び解除並びに差止請求権の創設等の厳格な規制を定める特則」を定める(1条)事にあるので、元請け演者と下請け演者の間でAV新法上の出演契約をすべきとする解釈は無理がある。そればかりか場合によっては重要事項の説明や契約書の交付、1ヶ月の熟慮期間を逃れる事も出来てしまうのではないだろうか。

AV新法はひょっとしたらとてつもなく大きな穴があるのでは??

追記。
AV業界の仕組みについてそれほど詳しくないので恐縮なのだが、この解釈では、例えばプロダクションに所属している出演者の方が有利なのでは、と思いました。
予めプロダクションと出演者がAV出演について合意をしておき、メーカーはプロダクションと契約をすれば重説等の契約に関する義務を免れるし、プロダクションは出演者を派遣するだけだから、AV新法に係る負担は第9条の「性行為映像制作物の公表は、当該性行為映像制作物に係る全ての撮影が終了した日から四月を経過した後でなければ、行ってはならない。」ぐらいしかないのではないかなあ、と。プロダクションってAV女優を派遣する所で良いんだよね?
個人でやってる女優さんやメーカー専属の女優さんはどうやっても重説の負担は免れないんじゃないかなあ。この辺りの解釈って誰に確認すればいいんだろ。誰か教えて笑。


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