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岡崎ヘイトデモへのカウンター - 2017年11月19日(日)/ 愛知県岡崎市

2017年11月19日(日) 、愛知県岡崎市で行なわれたヘイトスピーチ・デモに対する抗議行動(カウンター)の記録
[動画+写真29枚]

 この日、全国7ヶ所(北海道、東京、愛知、大阪、広島、愛媛、福岡)で、桜井誠が呼びかけた"北朝鮮を非難する"デモが行われた。しかしその実態は在日コリアンに対するヘイトスピーチ・デモであった。愛知県では朝鮮総連やイオ信用組合(2018年5月に名古屋市内の店舗でヘイトクライムが発生)がある岡崎市でデモ行進が行われた。
 これらの卑劣なデモに対して各地でカウンターによる抗議行動が行われた。岡崎においてもカウンターが集まり、差別を目的としたデモ行進に対して周知アナウンスや抗議を行った。

 岡崎市は愛知県の中央に位置する中核市で、徳川家康が生まれた岡崎城や八丁味噌で有名だ。愛知県内で西側に位置する名古屋駅からも東側に位置する豊橋駅からも電車で大体30分くらいの距離にある。岡崎市内でヘイトスピーチのデモが行われるのはこの時が初めてだったためか、警察も不測の事態に備え多くの人員を投入してきたようだった。

【動画】

2017.11.19岡崎ヘイトデモへのカウンター(8分45秒)

 岡崎でのカウンターは抗議よりも周知アナウンスに力を入れており、街や住民へのヘイトスピーチの拡散防止という面においては、少人数でも効果的なアクションができていた。
 映像にはヘイトデモ隊がイオ信用組合の前で騒ぐ姿、カウンターの丁寧な周知アナウンス、警察のデモ隊へのアナウンスが記録されており、当日の状況がわかるはずだ。

【写真】

 愛知環状鉄道「中岡崎駅」東口および名古屋鉄道「岡崎公園前駅」前のロータリー北側でヘイトデモ参加者は出発準備を行っていた。


 ヘイトデモに抗議するために集まった市民(カウンター)たちはデモ参加者と距離を取って、差別反対のプラカードを掲げたり周知アナウンスをしていた。


 上の写真は名鉄・岡崎公園前駅を背にロータリーを撮ったものだ。写真左に位置している中岡崎駅前にはカウンター、それよりずっと右にヘイトデモ隊がいる。警察によって引き離され、微妙な距離を取りながら出発までの時間が過ぎていった。

 中岡崎駅の向こう側の地名は八帖町(八丁町)と言い、その名前からもわかるように八丁味噌の発祥地である。写真に向かって右の方へ少し行くと岡崎公園があって、そこに建つ岡崎城から西へ八丁(約870m)の距離にある八丁村で造られた味噌が八丁味噌と呼ばれるようになったという。私がなぜこんなことを知っているかというと、カクキューの八丁味噌をよく買うからだ。味噌汁を作るたびに味噌のパッケージの裏に書いてあるのを目にしていたら覚えていた。
 そんな八丁味噌大好きっ子が岡崎の地に降り立った。私の住む神奈川県から愛知県岡崎市まで新幹線を使えば2時間くらいで行けるが、使わなくても5時間くらいで行けてしまう。今回のデモは集合が15時と遅かったので、JR東海道線の普通電車で豊橋駅まで行ってそこから名鉄に乗り換えて岡崎公園駅まで新幹線を使わずに行った。


岡崎市のご当地キャラクター「オカザえもん」の看板
愛知県警察機動隊のバス
デモ隊とカウンターの間の位置で待機する機動隊員


警備にあたる制服や私服の警察官

 手前にいる制服警察官は、所属を表す徽章や腕章を装着せず標準の背広型制服を着用しているので所轄警察署の署員である。一番左にいる制帽に金線が2本入っている警察官は警視なので岡崎警察署の警備課の課長だと思われる。その右隣の警察官と更にその右隣の白いヘルメットの制服警察官も服装や持ち物から同じ警備課員だということがわかる。
 奥のほうにいる私服警察官は、現場をよく知るカウンターが言うには、ヘイトデモの警備の経験がない岡崎署を応援するため名古屋市内の警察署からやってきた応援要員だという。隣接する警察署から応援を頼んでデモ警備を一緒に行っているのは目撃したことがあるが、40kmも離れた名古屋市中区の警察署から2桁の数の捜査員を警備に連れてくるというのは初めてだった。このような事案に対処できる人材が名古屋にしかいなかったということなのだろうが、この私服警察官らは電車でも自動車でも1時間はかかる距離を移動してきたのだ。
 それに加えて本部(警備部)の捜査員の姿もあった。今回なにかがありそうだと察知して岡崎へ行ったのだが、その一つが警察官のバリエーションであった。


機動隊の指揮官車のやぐらに乗る警察官


 機動隊の指揮官車を先頭に中岡崎駅(岡崎公園前駅)前を出発したヘイトデモ隊は、多数の警察官に囲まれながら国道248号を北上した。ゴール地点は愛環鉄道の隣駅「北岡崎駅」前までで約2kmのコースだった。


 制服を着用している警察官に関しては、装備品や服装を見れば所属が簡単にわかる。
 車道側を警備している「ヘルメット+背広型制服」の前方2名が岡崎警察署警備課員である。後ろにいる2名は同警備課に籍を置いている管区機動隊員で、「ヘルメット+背広型制服+反射ベスト+管区機動隊腕章」と普通の警備課とは一部違うので区別できる。
 歩道側の「制帽+活動服+反射ベスト」はカウンター対策として配置された愛知県警察機動隊員である。デモ警備に呼ばれた機動隊員は大体こんな格好をしている。
 手前のやぐら上の警察官は両側が岡崎警察署の警備課員で、中央が機動隊員である。不思議なことに、この機動隊員は活動服ではなく通常の制服を着用している。指揮官車のやぐら上は目立つ場所で体面を気にしてなのか、他の機動隊員が着用しているブルゾン型の活動服ではなく、カッチリしている背広型の制服を着用したのかもしれない。興味深い運用例である。


 デモ隊は愛知県警察の多数の警察官によって厳重に囲まれながら行進を行った。警察側にどこまで意識があったかわからないが、この措置は当然と言えば当然で、半年前の2017年5月23日に同じ愛知県の名古屋市南区で「イオ信用組合大江支店放火事件」が発生したことの影響だろう。
 この事件は在日朝鮮人系の信用組合が排外主義思想を持つ者に襲撃されたヘイトクライムである。「慰安婦問題について前から"韓国に"悪いイメージを持っていた」と供述した犯人の男(65)は、灯油に浸した布に火を付け灯油の入ったポリタンクとともに窓口内に投げ込むという凶行に及んだ。火は従業員によって消火され幸いにもけが人は出なかった。このような差別的な動機で起こる犯罪によって犠牲者が出る前に、国には法規制を強化するなど実効性を伴う手を打ってほしい。
 また、犯行を行った個人だけにヘイトクライムの責任を負わせるばかりではなく、ヘイトスピーチを放置している社会にも目を向けるべきだ。この事件に関して裁判所は犯人の男に懲役2年(執行猶予4年)の判決を言い渡した。犯人ははっきりと「"韓国に"悪いイメージを持っていた」と供述していたにも関わらず、ヘイトクライムとは認められなかった。非常に暴力的でテロに近いこの事件が問われたのは建造物侵入と威力業務妨害のみであった。
 マイノリティも共に社会を構成するメンバーであり、その人権と尊厳が保障されるのは当然のことだ。日本政府は本気で差別の根絶を目指し、ヘイトクライムには厳罰を科すべきである。


 このデモは「北朝鮮を非難する国民大行進」と銘打ち、あたかも政治的なテーマを掲げているかのように見えてしまうかもしれないが、参加者はヘイトスピーチを繰り返してきた連中である。ヘイトクライムのターゲットとなったイオ信用組合の岡崎支店と朝鮮総連岡崎支部の前を通る際にはひどい罵声を浴びせながら通過していったことからもわかるように、中身も普段通りの差別煽動のデモであった。
 そんなヘイトスピーチを行っている側のヘイトデモ参加者が「ヘイトスピーチ許さない」というプラカードを掲げていたのは、このデモが「日本に対するヘイトスピーチを国家として行っている北朝鮮に抗議」という趣旨だったからだ。もちろん意味不明である。一部の界隈では意味が通じるのかもしれないが、共通語としての「ヘイトスピーチ」の用法としては確実に間違っている。

ヘイトスピーチを理解する:ヘイトスピーチとは何か
ヘイトスピーチは、個人または個人からなる集団のみを対象としている点に注意が必要です。国家やその国の機関、国の象徴または公務員に関するコミュニケーションや、宗教指導者や信仰上の教義に関するコミュニケーションは、ヘイトスピーチには含まれません。

国連広報センター

 この程度で驚いてはいけない。今回のデモは北朝鮮を非難していたはずなのだが、区別なく在日韓国人系の信用組合(商銀信用組合)についてもわめき散らしていた。連中の目的は在日コリアンに対してヘイトを吐くことなので、このように北と南が混同されることは少なくない。
 イオ信用組合に火を投げた男も「韓国の態度が許せない」という動機にも関わらず"北の金融機関"を襲撃している。この事件の犯人の男は定年後に時間が出来てネットを見るうち憎悪が高まり犯行に及んだというが、ヘイトデモ参加者もネットで見た情報に影響されて憎悪的思考に染まってしまうケースが多い。



 デモ参加者が「しばき隊による ヘイトスピーチ、許さない。」というプラカードを持っていた。これは法務省の「ヘイトスピーチ、許さない。」ポスターを雑に焼き直したデザインなのだが、それよりもヘイトスピーチというワードが差別的言動という本来の意味ではなく「汚い言葉や罵声」として使われていることに注目したい。となるとプラカードの主張は「しばき隊の下品な発言を許さない」ということになる。マナー講師か。
 そして「しばき隊」というのは2013年にレイシズムに対抗するために発足した「レイシストをしばき隊」のことで、在特会らが東京・新大久保などで繰り返し行っていたヘイトスピーチ・デモへ激しいカウンター(対抗活動)を行っていた。翌年には解散し後継団体の「C.R.A.C.(クラック、Counter-Racist Action Collective:対レイシスト行動集団)」が結成されている。
 ヘイトデモ参加者やネトウヨは、なぜか好き好んで「しばき隊」という言葉を使い続けていて、差別デモに抗議する人々をそう呼んだり、ある出来事において「しばき隊」が裏で糸を引いているみたいな陰謀論めいた使われ方までしている。単にキャッチーなネーミングがはまったのか、しばき隊登場時のインパクトがいまだにトラウマで妄想に取り憑かれているのか。


 ヘイトクライムに直結するヘイトスピーチを放置することは危険だと十分なほど示されているが、それでも差別デモを中止に追い込むことは現状難しい。実行されてしまったデモに対しては、体を張って差別に反対する以外に対抗手段はなくカウンターの存在は非常に大きい。
 デモ活動の目的は何らかの主張をすることのはずだが、カウンターがいるとヘイトデモ参加者はカウンターに向けてプラカードを掲げたり、マイノリティへのヘイトよりもカウンターへの攻撃に注力するため、結果としてヘイトスピーチは減る。数は少ないものの今回も現場にカウンターがいたことが救いだった。


カウンターのプラカード

岡崎の街を差別で汚すな


【おまけ】
管区機動隊員が着用していた「オカザえもん」イラスト入りグローブ

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