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夏休みが終わる。自由研究が終わらない。


小学生のころ毎夏これに悩まされ続けた。8月20日あたりからソワソワし始め、テーマを何にするか考え始める。ぐずぐず迷っているうちに25日になり、26日になる。そして29日。2学期の始業式まであと3日でやっとテーマが決まる。そうだ、貝を集めよう。
 
海も近いし、貝ならなんとかなるだろう。29日、夏の終わりの冷たい小雨の中で採集決行。うつむいて砂浜を歩く。こんな少年を誰かが見ていたらなんと思うだろう。「なくした鍵を探してるの?」「お金落としたの?」。まさか少年が探しているのは夏休みの宿題とは誰も想像できないだろう。
 
初日に10種類くらい拾った。これでは足りない。30日にもう一度出かける。砂浜は波で姿を変えるから、昨日とは違う貝があるはず。今日も冷たい小雨が降っている。半袖の焼けた腕に当たる雨粒が不愉快だ。それでも10種類ほどは集め、これ以上は望めないだろうと諦め家路についた。
 
貝殻を箱に並べ始める。箱は綿を敷いた和菓子の空箱。アサリ、ハマグリ(穴が開いる)、トコブシ、サザエ、小岩ガキ、ツメタガイ(色が褪せてる)、巻貝(ヤドカリが抜け出た後)、マテガイ、バカガイ、カラスガイ・・・並べながらつぶやく「これはだめだ、貝殻採集というより海の廃品回収だ」。
 
箱の中はどうみても色褪せた貝の残骸集にしかみえない。しかしもうどうしようもない。明後日はもう始業式だ。腕組みしながら考える。どうしたものかなあ。せめてボリュームが出せればなあ。20種類でどうしたらボリュームが・・・。そうだ、画用紙に一個一個貼っていけばボリュームがでるかも。
 
画用紙を4つに切り、B5サイズくらいのものを20枚つくる。貝を一個一枚ずつ貼っていく。20枚になるころにはかなりの嵩になった。しめしめ。・・・しかしなあ・・・貝だけでは画用紙の白が目立つ。しょうがない。何か書いて埋めるか。魚介図鑑を取り出して、書いてあることをそのまま転記する。
 
学名:アサリ 採集地:垢田海岸 採取日:8月29日 天気:小雨 分布:日本、朝鮮半島、フィリピンまで広く分布する。汽水域を好み、浅くて塩分の薄い砂あるいは砂泥底に分布する。食材:みそ汁の具にするとおいしい(自分の好みも入れる)。次、はまぐり。こうして20枚ができあがった。
 
9月1日。20枚の画用紙の束をデパートの包装紙で包み、提出。やれやれ。提出したあとは貝のことなどはすっかり忘れ、真っ黒にやけた女の子の姿に驚いて、口をぽかんとあけてしまったりしていた。10日くらい経ったころだろうか、級友が「お前、金賞もらってたぜ」「???金賞って?」
 
夏休みの自由研究の制作物が展示してある体育館に行く。おおくの制作物に交じって金色の短冊が貼られているものがある。貝の画用紙作品だ。横には木箱に入った綺麗で珍しい貝の収集作もある。それにくらべ、あまりにその姿が貧相なので、恥ずかしくなってしまう。でもなんでこれが金賞?(つづく)
 
 
【金賞】講評
「採集が目的になっているものが多い中で、
本作はたしかに採集したものはありふれているものの、
自由研究本来の目的をよくとらえており、研究としてよくできています」。

ボリュームを増やす目的が、研究に化けてしまった!顔が赤くなった。慌てて体育館から逃げ出した。その後中学校に入って、今度は夏休みの宿題「木工作品」にまた悩まされるがそれはまた別の機会に。
 

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