汐見りん

書くことがめちゃくちゃ好きです。あ。読むことも。趣味。読書。写真。三つ子のおかーちゃん…

汐見りん

書くことがめちゃくちゃ好きです。あ。読むことも。趣味。読書。写真。三つ子のおかーちゃんしてます

最近の記事

無言 28

やりたい気持ちのその先へ踏み出した。ずっと誰かに道筋をつけてもらった所を歩き、受け身だった毎日から、主体的に動かねばならない「働く」という感覚。週に3回薔薇園で出荷作業の手伝いをする。納品書を印刷してチェックして、出荷する花をピックアップして発送する。なんでもない作業に馬鹿みたいに時間がかかる。仕事が終われば、頭は疲れるわ、身体は重いわで、家の玄関にたどり着いたら崩れ落ちてしばらく立ち上がれない。そのままご飯を食べることもせずに寝てしまったこともある。夢に仕事が出てきてうなさ

    • 無言 27

      「いい後ろ姿や」  僕の薔薇が飛び出てるリュックサックを見て正人は言った。ちょっと写真取らせてよ。と、携帯を出して、僕とよっくんが並んで歩いている姿を後ろから撮っていた。 「いいの撮れた。見る?」 差し出された携帯をよっくんと覗きこむ。杖を持って歩く薔薇を背負った僕と、大事に薔薇を抱えて歩くよっくん。 「うん。いい。」 と思わず大きな声がでる。 「うん。いい。」               真似するよっくんの声がコロコロしててかわいい。 「うん。いい。我ながらいい。お父さん写

      • サッポロポテトをツマミに飲む#呑みながら書きました後夜祭

        サッポロポテトをみる度に思い出す人がいる。 その頃の私はNewがんっていう病気がある28歳にして学生で。某リハビリ関係の勉強をしていた。国家試験の少し前。彼女が星になってしまった事を知る。最後まで疾走感にあふれた素敵な文章はブログの一部分のみ書籍化され発売された。 彼女が、このウソッぽい味と飲むビールがうまいんだよね。と言っていたことを知った日から、私にとってサッポロポテトをアテに飲むビールは、彼女を思う日で、自分の病気を思う日で、そして沢山の仲間に気持ちを馳せる日だ。

        • あの肌触り

          長〜いこと使っていたお風呂用の身体を洗うタオルを新調した。肌触りが気に入りすぎて、なかなか同じものが見当たらずで決心がつかなかったのだ。だが、実は恥ずかしながらタオルにはもう穴があきはじめているし、いい加減買わないと!と気合いを入れて買ってみた。 しかし、違うんだよ!違うんだな。肌触りが。やっぱりあのボロ(!!!)タオルがいい。いや、使っていけばあの感触になるかもしれない。うーん。やっぱり100歩譲ってもきっとならないだろうな。しかし、今卒業せずにいつこのタオルを捨てるのだ

          無言 26

          黄色い薔薇の花は訓練室に通う僕をしばらく迎えてくれていたのだが、暑さが和らぎ、やがて木の葉が色づき始めると、花芽はつかなくなった。花が咲いていなくても、緑は生き生きしていてその葉は生命力にあふれていた。けれど花のついていない薔薇はどこか寂しかった。  「薔薇。咲かなくなっちゃいましたね。そう言えば、私が良く行くお店にはいつもきれいな薔薇が飾られてるんですよ。一年中薔薇が見られるってことは、ハウス栽培なのかなー。どうなんでしょうね。」 花のない薔薇を見ながら佐々井さんは言った

          父の日だよ!呑みながら書きました

          昨日の本祭りは、職場のクラフトビールやさんのイベントが某所であったため、田舎からいそいそ出ていく。私は完全プライベート参加。いやはや盛況で何よりどした。久々に会う呑み友と、4軒はしご酒。幸せかよ。幸せすぎかよ。 で、最後は最寄り駅までの道に迷子になりタクシーワンメーターオセワにならはました。 んで、今朝は朝から子供会行事。二日酔い身体をひきずって参加。いや。水がうめー。二日酔い明けのむずはうめー。 ん?むず? そして、本日は父の日の為、うちの小6女子達は手作りデナーを。

          父の日だよ!呑みながら書きました

          無言 25

          言語訓練室に入ると、黄色い花が咲いていた。尚子が持ってきたという薔薇。前に来たときにはまだ蕾だったはずだが。花が開くとこんなにも印象がかわるものか。白い殺風景な空間に華やかな空気が漂う。 「こ、ん、に、ち、わ。」 いつもと違う部屋の雰囲気に少しとまどいながら、だからと言って僕は変わることなく、いつものようにゆっくり挨拶をする。 「こんにちわ。」               白衣の先生が迎えてくれた。僕の視線の先にある花を見て 「咲いてきましたよ。尚子さんの薔薇。キレイ

          無言 24

          とうとうその時が来てしまったんだな。私は尚子さんの言葉を思い出していた。 突然彼女が病院に来たのは、いつの事だったか。「私には新しい家庭もあるから、行くことは出来ないですし、もう連絡しないで下さい。」電話越しに言い放たれてから10日程たった日の事だったと思う。 優子さんから内線がかかってきたのは、お昼前で、午前中の訓練を終えた直後だった。 「あなたと話がしたいという人が来てるのよ。相談室に来てくれる?」 私は午前中最後の患者さんを病室まで送っていき、その足で相談室に向か

          無言 23

          溢れ出した涙は一体どこへ行くのか。とめどない悲しみはどこへ向かうのか。悲しみの重さは僕の持てる限界を超えてしまい、起き上がることすらも出来なくなってしまった。この感覚はいつぶりだろう。絶望に打ちひしがれて、病院のベッドで泣きはらしたいくつもの夜。あれは随分前のような気がする。 今、病院のベッドにいるのは僕の元嫁。そして僕は、自分の部屋で押しつぶされそうな悲しみの重さと戦っていた。今、必死に生きようとしているのは尚子であり僕ではない。今できること。それは、祈るしかなくて。ただひ

          無言 22

          「大丈夫?使えそう?」 と聞いた正人に僕が大きく頷くと、彼は満足気な笑顔で、 「良かったら使って。」と言い残して帰っていった。 そんなわけで僕のリュックサックに装着されたキーホルダーは、家を出るときと帰宅するとき必ず手にする。一人暮らしの僕は、家にいるときに誰とも話すことはないけれど、鍵を手にする度に正人を思うようになった。出ていく為に鍵を閉める時は、心の中で行ってきます。を言い、帰宅して鍵を開ける時は、ただいま。とつぶやく日常。そんな些細なことがジンワリと心を温かくする。

          無言 22

          無言 21

          かつて家族だった僕らは、その頃には存在すらもなかった「よっくん」の存在に助けられながら、久しぶりの時間を過ごした。めずらしく、僕のぶっこわれた涙腺のバルブは緩まなかった。3人は僕を家の前まで送ってくれた。鍵を開けるのに相当な時間を要してしまう。ずっと一人でゆっくりと過ごしてきた自分にはあまりにも色んな刺激がありすぎて、さすがに僕も疲れていたのかもしれない。小さな鍵穴に、鍵はなかなかささらなくて角度を変えた瞬間にチャリンと落としてしまった。僕の手から滑り落ちた鍵は、よっくんがす

          無言 21

          #呑みながら書きました 初参加だよ!

          密かに参加したいともくろんでた呑み書きに初参加。嬉しい! そう。私は只今いわゆるクラフトビールやさんに勤めていて。毎日アルコールに囲まれる生活をしています。 めちゃくちゃ楽しいのです。ビールの世界って。と言ってもヒヨッコで、そろそろ入社して半年位ですが。今日は醸造所とお店では、インスタライブをしていて、そして私はその傍らで接客していてドタバタ。シフト上21時に上がらせてもらい、即効帰宅して自社ビールで美味しい刺し身!ちょいとだけ肉と野菜焼いて駆けつけ二杯のんで、22時52分

          #呑みながら書きました 初参加だよ!

          フシギなカンケイ

          「なあ。不思議な関係と思わないか?」 「ん?何が?」 「あのさ。君と僕の関係だよ。」 「普通じゃない?」 「そう。普通か。。。。ま、君がそう思うならそれでいいけどね。」 ※ 春の香りを感じる3月の夜。ぬるい風に吹かれながらぶらぶらと歩く。桜の時期はライトアップされる川沿いにゆるくカーブした遊歩道。桜の蕾はふくらんできたのかな。ピンクの花びらが咲き乱れるまではあとどれくらいなんだろうな。肌をすり抜ける風が、適度な湿度とあたたかさをはらんでいてやさしい。気持ちよくてふ

          フシギなカンケイ

          無言 20

          今日もホカホカのカレーパンをリュックの中につめて帰宅する。もう夏と言って良いほどの日差しで、汗が額に滲む。左手から杖を離し、鍵を取り出して鍵穴に差し込む。何のことはない一連の動作だが、細かい動きが下手くそな僕はその作業にもまあまあな時間がかかってしまう。鍵は落とさないようにリュックから鍵用のキーホルダーで繋がっている。引っ張ると伸びて便利がいい。例えツルッと手から鍵が滑り落ちたとしても、床に落ちることはない。落ちた鍵に、大きなため息をつきながら悪戦苦闘し、必死にとらなくても良

          無言 19

          すっかり冷めてしまったカレーパンを頬張った。お店で包みを手渡されたときはホカホカだったが、家の前についたときも、まだまだホカホカだったはずだが。今あれからどれくらいたったか、僕の口に入ったそれは、しっかり冷めていた。家の前で待っていた元嫁。30年会っていなかった息子。はじめて会う孫。突然の再会。とめどなく流れる涙は頬を濡らし、それを拭うことすらできない顔で 「また。」 と精一杯の声を出した。 そんな僕に手を振って、息子と孫は帰っていった。 「久しぶり。」 と息子は言った。僕

          無言 18

          パン屋さんでいつもの熱々なカレーパンを買って帰宅すると、薄い緑色のドアの前で元嫁が待っていた。その横に今日はツレがいるらしい。グレーのトレーナーを来た男性は小さな子供の手をひいていた。子供はまだ保育園にあがる位か?いつも公園で挨拶する子供達よりも少し小さい位だろうか。ドクドクドク。心臓の鼓動が急に早くなった。子供に話しかけるように視線を向けていた男性が振り返って目が会った瞬間、僕は頭の中が真っ白になった。 何年ぶりなんだろう。そこに立っていたのはまぎれもなく息子だった。