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心のスキマ、お埋めします

藤子A先生作「笑ゥせぇるすまん」が大好きです。

TBSの夜帯で「ギミア・ぶれいく」という番組があり、その中での10分くらいの枠であったアニメです。

子供心に、初めて見たとき、衝撃を受けたものです。大抵のアニメ、漫画は、ハッピーエンドで終わるものと思いこんでいたので、そんな私の思い込みなどあっさり覆した喪黒さんの存在、アニメの進行、全てにおいて驚いたものです。

DVDも出ていて(現在は廃版)大人になった私は、大人の財力にモノを言わせて、もちろん買っており、今でもたまにDVDは見ます。DVDの特典だった名刺セットもあります。

多分、アニメは120話前後くらいあったはずですが、どの話も秀逸で、喪黒さんという人のやり方も、どれをとってもえげつなく残酷なもので、毎週、わくわくしながら見ていましたし、どの話も好きです。

中でもとりわけ好きな話が「ユスリの落とし穴」です。

喪黒さんは表向き、お客様の心のスキマをお埋めするお仕事、一種のボランティアをしているという立ち位置ですが、お客様と約束したり、あるいはお客様に忠告したりして、大抵のお客様はそれを守らなかったり、忠告を無視したりして、9割がたのお客様は悲惨な終わり方をします。(中には、一見、悲惨なようでも、本人の望む形で終わってる話もありますが、極めて少ないです)

喪黒さん自身について言えば、少々不気味な風体ではあるものの、物腰が柔らかく、口調も丁寧で紳士そのものです。親切な一面も意外にあり、交渉術にも長け、人脈もあり、コネもあり、お金もたっぷり持っていると思われます。お得意の、一種の催眠術、また合気道とも取れる術「ドーン!!」の掛け声とともに、お客様を意のままに操る不思議な力も持っています。笑い方は「オーッホッホッホ」という独特の笑い方をします。

「ユスリの落とし穴」のお客様として選ばれたのは、襟戸さん。
幼稚園から大学まで受験戦争に明け暮れ、一流大企業に就職するまではよかったものの、そこでやはり襟戸さんはご不満があったわけです。

会社では海外留学制度というのがあって、その留学社員に選ばれるということは、将来を約束されるもので、次期留学は襟戸さんで内定していたのに、選考会議で決まったのは襟戸さんの同期、遊田さんでした。

遊田さんは決して優秀とはいえず、コネで入社、社内の女性たちと遊びまわった挙句、専務の娘をうまく口説き落として婚約、留学も専務の後押しで決まったのだろうとのこと。

遊田さんが専務の娘と結婚したのは、あくまで出世目当てなのは明白だと襟戸さんは悔しがっていましたが、喪黒さんは会社は学校と違って試験の成績が全てじゃないと言いました。これは確かにそうで、会社ってところは仕事ができて、会社に利益をもたらしてくれる人間でなければ、どんなにお勉強ができようと関係ありませんからね。(入る時は学歴を見るくせにね、会社ってところはつくづく狡猾です)

けどやはり、青春のすべてを犠牲にして努力してきた襟戸さんがやりきれないのもわかります。遊びたい時に遊べず、ちゃらちゃらと女性と遊んでるような遊田さんがあっさりと留学行きをかっさらった、悔しいのは悔しいでしょう。

そこで喪黒さんが、私があなたをお助けしましょうと、いつもの台詞です。

喪黒さんは、遊田さんの弱みを掴んで、留学を辞退させるよう、襟戸さんをそそのかします。襟戸さんは突っぱねかけましたが、喪黒さんは「そんなことでは競争社会を生き抜く真のエリートとは言えませんなぁ」と。

ライバルの遊田さんにしたって、好きでもない専務の娘と結婚したというじゃありませんかと。これもやはり、仕事ができない遊田さんなりの処世術というわけで、やはりこういう姑息な手を使ってでも生き残ろうとする人はいます。遊田さんのやり方だって、まるっきり不正とは言い切れません(かといってよろしくもないですが)

結局、襟戸さんは遊田さんの女性絡みのスキャンダルを掴み、海外留学を辞退させることに成功(遊田さんとの交渉には喪黒さんがあたりました)襟戸さんが留学を勝ち取りますが、その後がよろしくありませんでした。

襟戸さんは、学生時代からの憧れだった、白雪女学院の制服を着た女の子が万引きしている現場を目撃、女の子の弱みにつけこみ、ホテルへ連れ込み、無理矢理行為に及ぼうとします。

結局、喪黒さんに阻まれ、女の子は無事逃げきり、今度は襟戸さんが喪黒さんからゆすられる立場に転じます。女の子への慰謝料として、襟戸さんは100万もの大金を払うことになります。

ラストはやはり笑ゥせぇるすまんの醍醐味といいますか、襟戸さんは悲惨な結末で、海外留学は絶望になり、物語は終わりました。この話は、子供心に深いなーと思いながら見ていたものです。

当時は、頑張った襟戸さんが報われないのはおかしいと思いながら見ていましたが、あれからなん十年も経って、私も大人になり、ものの見方も変わり、この話や登場人物たちへの感想も変わりました。

今は、頑張りさえすれば報われるのであれば、誰だって頑張るし、仮に頑張ったところで報われない人なんてごまんといる、お勉強さえできればいいと勘違いしている襟戸さんは甘い、そう思うようになりました(襟戸さんは甘いとは思いますが、努力が報われないのは、それはそれで辛いですし、同情もしますが)

かと言って、遊田さんのように社内で女遊びばかりしていても、今はセクハラ、コンプライアンス等の問題もあるので、社内でスキャンダルなんか起こしたら、最悪クビになるでしょう。

襟戸さんも、お勉強はできたかも知れませんが、会社に入って、なにか仕事で会社に利益をもたらしたか、会社ってところは結局、狡猾ですから、そこら辺もよく観察しているでしょうし、遊田さんは女心を掴むのが上手いようなので、もしかしたら話術、交渉術に長けていたかも知れませんし、会社としてはそういう人を上手く使いたいですよね。人事はそういう部分もよく見ているでしょう。

かといって、偏った能力だけあっても会社はそれはそれで困るでしょうし、総合力が試される場所なのかなと思います。

結局、襟戸さんも遊田さんも、やってることが100%クリーンという訳ではないし、人をゆすったり、また、言い方が悪いですが、女コマシ(笑)でも駄目、結局、誠実に、堅実に生きてる人が最終的には一番強いのかと思います。大昔ならいざ知らず、今のご時世は、清廉潔白をよしとする風潮にあるので、ちょっとでも道にはずれたことをすれば即叩かれます。

襟戸さんも遊田さんも、堅実に仕事してたら良かったと思いますが、そこはやはり人間ですし、ラクして甘い汁を吸いたい、それは人間みな同じ、人間の弱いところでしたね。ラクして甘い汁が吸える人なんてのは、よほど要領のいい人でないと無理ですし、そんな人はごくわずかでしょう。

逆に、堅実に誠実に生きる、その方が、難易度がかえって高いのかも知れませんね。何かしら悪さをすれば、いずれどこかで足元をすくわれますし、因果応報、必ず報いは受けるようになっているようなので、難易度が高くても、誠実に、堅実に生きるのが一番です。

かといってやはり、喪黒さんが言うように、いざとなったら、汚い真似をしてでも切り抜けなければならない修羅場は人にはあるでしょうし、いざとなったら多少汚れるくらいの覚悟、腹が据わっていなければ駄目でしょう。良い悪いではなく、それをしなければならない時が、人にはあると思いますし、かといって悪さばかりでも駄目、難しいですね。

ちなみにこの「ユスリの落とし穴」の声優陣は、大平透さん、塩屋翼さん、千葉繫さん、皆口裕子さんと、今では考えられない豪華な面子です。この頃の声優さんたちは皆さん個性派ばかりで、声を聴けば誰の声かすぐわかりましたし、他のアニメにしても、皆さんやはり個性派ばかりで、お腹の底から声が出ているのがわかり、演技も上手く、喜怒哀楽、どの表現もお上手で、私が子供時代に見てきた声優さんたちは、誰もかれも凄い方々ばかりだったのです。

大平透さんは残念なことにもう没されていますし、他の声優さんがたもアニメで見なくなりました。おそらくは世代交代で、いま活躍されている声優さんたちにお役目を譲られている、というところでしょうか。(皆口裕子さんはたまにナレーションでお見かけしますが)

私の元友人が、一時、声優養成所へ通っていたことがあったようですが、ちょっとやそっと、養成所へ通ったくらいでは、一線級になど当然なれるはずもなく夢破れたようです。まあ当然です。それほど甘くはないですよね。

笑ゥせぇるすまんは、どの話も面白いです。私がとりわけお勧めなのはこの「ユスリの落とし穴」です。(現在、YouTubeでも観れます)
他、藤子A先生は「ブラックユーモア短編集」その他ダークな世界観が光る秀逸な作品ばかりを世に送りだしておいでです。この辺も、ご興味のある方はお読みになると面白いと思います。

余談ですが、喪黒さんのモデルは大橋巨泉さんで、藤子A先生曰く「喪黒はメフィスト」とのこと。また、喪黒さんの雇い主がいるとのこと。更に喪黒さんには喪黒福次郎さんという弟さんがいます(笑)この方はお兄さんとは正反対のお仕事をされています。




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