第012話 AIによる文章生成のコツ
AIを活用してさまざまな文章を生成することができますが、ある程度、事前知識やコツを把握していないと意図しない文章しか生成されずに挫折することがあるかもしれません。そこでAIを活用した文章生成のコツをいくつか紹介します。今回のコツは、私たちrinnaの社内にある文章生成ツールを元にしていますが、他のAI文章生成ツールでも活用できる可能性はあります。
まず、私たちの日本語AI文章生成ツールは、AIに「文章の書き出し」を与えることでその続きを生成します。「文章の書き出し」とは、生成したい文章のテーマやキーワードを含めた文章や文字列です。この「文章の書き出し」のフォーマットは自由度が高く、そこを考え付くのもAI文章生成の醍醐味です。例としては、次のようなものです。
◆カレーライスについての文章を生成したいときの書き出し例
「ぼくが大好きなカレーライスは」
「カレーライスと言えば」
「子供の頃、給食で一番楽しみにしていたメニューはカレーライスです。学校で食べるカレーライスは」
◆「勇者が大魔王に囚われた王女を救出する」小説を生成したいときの書き出し例
・タイトル
『勇者と王女』
・登場人物
ブレイブ:勇者
ロマン姫:大魔王に誘拐された王女
大魔王:悪の化身
・キーワード
ファンタジー、勇者、大魔王、ラスボス、王女、救出、ハッピーエンド
・内容
いにしえの人間と悪魔が共存していた時代の物語。
ある日、ドリーム王国の王女・ロマン姫が悪の大魔王に誘拐されてしまった。
勇者ブレイブはロマン姫を救出するために大魔王の居城であるヘルマウンテン城に向かった。
そして、いよいよ勇者と大魔王の戦いがはじまり
このような書き出しを用意したらAIに文章を生成させます。AIが文章を生成するのに要する時間は、生成する文字量によりますが数秒から数十秒程度です。今回は、サンプルとして先程の「勇者が大魔王に囚われた王女を救出する」小説の書き出しを利用して文章を生成します。AIは次のような文章を生成しました。
◆AIが生成したつづきの文章
「勝利を我等に……」
勇者ブレイブたちのガッツポーズ
いや、雄叫びが響きわたった。
しかし、勇者ブレイブは倒れ、大魔王は涙を流していた。
「貴様らーっ!」
大魔王は勇者ブレイブにとどめを刺さず、大広間から出て行った。しばらくすると大魔王は戻ってきた。手に持ったクリスタルでできた王冠は燦然と輝きを放っていた。その王冠を大魔王は勇者ブレイブにかぶせた。そして勇者ブレイブは空を見上げた。やがて、大魔王に顔を向ける。
「そろそろだ、勇者ブレイブ君!」
勇者ブレイブに近づこうとすると大魔王の側近と思しき者が剣を振りかざした。勇者ブレイブは正装に身を包み、クリスタルの剣を手に構えている。
「勇者ブレイブ君の勝利だ」
大魔王は剣を地面に置いた。
「よくやったぞ勇者」
「すごいです大魔王!」
大魔王の側近の一言で勇者ブレイブと大魔王が握手と抱擁で終了。
AIが書き出しを元に生成した内容を読むと勇者と大魔王の喜劇のような展開です(ロマン姫の消息が描かれていないこともツッコミとしてあります)。これはこれでありですが、もっとドラマティックな展開の文章がよければ、イメージに合う文章が生成できるまで何度でも繰り返します。しかし、現実的にはAIが生成した文章は、生成の度に変わり、かつ、生成されたすべての文章がパーフェクトであることはほぼありません。ユーザーが希望する展開に近づくこともありますが、脈絡のない展開になったり、主語が変わったりすることも多々あります。つまり、ひとつの書き出しだけで100%満足できる文章を生成するのは難しいということになります。
ここからがAIを活用した文章生成のコツになりますが、ある程度、意図した内容に近づけるためには、最初の書き出しから生成された文章のなかから、意図した文章の全文や一部を取り出して、それを最初の書き出しに追加して、文章を生成することを繰り返します。さらに、この作業を繰り返している途中で新しいアイデアが浮かんだら、それも書き出しに追加します。そうすることで、ユーザーが思い描くストーリーに近づけることができます。このコツを活かして、作成したものが次の文章です。
◆AIが生成した文章から意図する箇所を抜き出し&アイデア追加で生成を繰り返し作成したもの
「勝利を我等に……」
勇者ブレイブたちのガッツポーズ。いや、雄叫びが響きわたった。
しかし、勇者ブレイブは倒れ、大魔王は涙を流していた。
相打ちだ。
ただ、ほんの一瞬だけ先に勇者ブレイブの剣が大魔王の心臓を貫き、息の根を止めていた。
大魔王の魔力が消滅し、囚われていたロマン姫の呪縛は解けた。
ロマン姫は、倒れた勇者ブレイブに抱きつき、泣いた。ロマン姫の涙が勇者ブレイブの頬に落ちると勇者ブレイブの意識が戻った。
「ブレイブさん……」
ロマン姫は、勇者ブレイブと深く抱き合った。
最初にAIが生成したものと比べると、王道の展開になりました。サンプルはAIでの文章生成のコツをお伝えするために、あらすじ程度の内容と少ない文字量を意識してつくりましたが「登場キャラクターのひとりひとりの生い立ち」「武器・防具の特徴や性能」「大魔王との決戦までの道中の展開」「勇者と大魔王のラストバトルの詳細」などをそれぞれ深掘りすることで長編物の小説を作成することも可能です。なお、登場キャラクターが多いストーリーを作成したいときは、手動でキャラクターごとに深掘りしつつ、こまめに相関関係の設定が崩れていないかを確認しながら生成を繰り返します。
AIによる文章生成は「神ツール」にもみえますが、ユーザーの校正作業の手間や工夫は必要となります。文章を作成する上でのアイデアツールとして割り切って活用することができれば、ストーリー展開や表現方法の幅が広がることは間違いありません。AIでの文章生成のコツのまとめとして、AIでの文章生成によるメリットとデメリットを記載します。
◆メリット
・小説などのストーリー展開のアイデアに役立つ
・文章表現のバリエーションが増える
・短時間で相当量の文章を生成可能
◆デメリット
・意図する内容の文章を1回で生成することは難しい
・ユーザーの校正は必要
・専門分野の文章生成は内容の真偽を確認する手間が発生
メリットとデメリットからわかるように、小説などの創作活動に高い効果を発揮する期待値は高く、特に、真偽を気にすることがないようなフィクション作品との親和性があります。一方、ブログなどであるような商品紹介、専門分野の文章生成には不向きです。例えば、ある商品の効能に関する文章を生成しても、その効能が正しいかまではAIは判断していません。同様に、史実に基づいた歴史小説を書きたいとしても生成した文章にある登場人物や年が正しいという保証はありません。作成したいテーマがAIでの文章生成に向いているか判断することも非常に重要です。