PEZY Computingの不正に関する NEDO の中間とりまとめが公開される

新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) が,PEZY Computing の助成金詐取に関して,不正認定と再発防止策の中間とりまとめ14ページの PDF)を10月10日に公開しました.

中間まとめの段階なので,最終的に変更される可能性がありますが,次の4点が気になりました.

1. 司法による捜査がなければ,PEZY Computing の不正は発見できなかった.書類偽造や口裏合わせなど,悪意を持った巧妙な詐取だった(2ページ).
2. プロセッサ開発,メモリ開発の両方で架空請求をしていた(プロセッサ開発費をメモリ開発費から補填するためではなかった)(3ページ).
3. プロセッサ開発の完了,試作品の製造は虚偽だった(4ページ).
4. 再発防止のため,抜き打ち検査や中小企業の会計検査などが強化されるため,事業者,NEDO の両方に新たな負担が掛かる(7-10ページ).

司法捜査の必要性

1 について,2ページ目から引用します(強調は引用者による).

本事案は、NEDO による公募や審査、進捗状況把握、検査等の過程において不正の発見に至らず、司法当局の一連の捜査により発覚したものである。本事案はこれまでの NEDO における不正事案とは異なり、事業実施者からの内部告発や NEDO の検査プロセスにより発覚したものではなく、悪意を持った事業実施者による巧妙な詐取であることを踏まえ、外部の専門家からなる本調査委員会を NEDO に設置し検討を行うこととした。

詐欺は開発のためではなかった

2 については,プロセッサとメモリの両方の開発費が交付決定後から増額されており,名目の異なる予算で補填する必要はありません.追加予算が必要だったなら計画変更を申請するだけで十分であり,詐欺は不要です.12ページから予算額を引用します.

A. バンプレス3次元積層技術を用いた省電力メニーコアプロセッサの開発
(「平成 24 年度戦略的省エネルギー技術革新プログラム」)
①事業期間
平成 24~25 年年度
②交付決定額と確定額(助成率 2/3)
平成 24 年 8 月交付決定(交付決定額 433 百万円)
平成 24 年 12 月計画変更承認(交付決定額 633 百万円)
平成 26 年 4 月確定検査(確定額 633 百万円)
B.超広帯域 Ultra WIDE-IO 3次元積層メモリデバイスの実用化開発(「イノベーション実用化ベンチャー支援事業」)
①事業期間
平成 25 年度
②交付決定額と確定額(助成率 2/3)
平成 25 年 4 月交付決定(交付決定額 436 百万円)
平成 25 年 5 月計画変更承認(交付決定額 375 百万円)
平成 25 年 11 月計画変更承認(交付決定額 500 百万円)
平成 26 年 2 月確定検査(確定額 500 百万円)

プロセッサ未完成における「プロセッサ」とは

3 については,最近の新聞記事にあった「プロセッサは完成していないと検察は陳述した」の裏付けになっています.その記事では,NEDO 開発事業のプロセッサと PEZY-SC を混同して話を単純化していますが,その2つを区別するとややこしくなるものの矛盾が少なくなります.

以下では,NEDO 開発事業により実用化されたプロセッサ PEZY-SC がバンプレス3次元積層プロセッサであるかどうかに注目し,KEK に設置された Suiren や 理化学研究所に設置された Shoubu に使われたプロセッサである PEZY-SC とは(同じ名前ですが)区別します.

Suiren, Shoubu などに使われたプロセッサがバンプレス3次元積層であるという記述は見つけられませんでした(例えば,鳥居らによる招待論文「グリーンスーパーコンピュータ ZettaScaler の技術と今後の展望」が,バンプレス3次元積層とその省電力性について触れていないのは不自然です).

その記事において,取材などで裏付けのある関連部分は次の通りです.

検察側冒頭陳述 PEZY のプロセッサ PEZY-SC は期限までに完成しておらず,PEZY Computing は試作品が完成したと虚偽の報告をした.
経済産業省担当者 PEZY が NEDO 事業で実用化したプロセッサが実在するかどうか確認していない.
理化学研究所,KEK PEZY が NEDO 事業で実用化したプロセッサが完成していたか否か,確認する立場にない.

一方,この新聞記事を誤りとするツイートは多くあります.

NEDO 事業における不正の観点では,開発事業終了時に完成していなかったバンプレス3次元積層プロセッサが完成していて,それによりプロセッサが省電力化されたかどうかが重要です.バンプレス3次元積層プロセッサでないプロセッサを PEZY-SC と名付けて,PEZY-SC が存在すると主張しても,不正の観点からは意味のない話です.

バンプレス3次元積層プロセッサは,バンプ(電極部におけるメッキで形成した配線接続のための突起)がない3次元積層プロセッサを指し,熱抵抗が減少するといった特性があります.例えば,次のページに説明があります.

このバンプレス3次元積層プロセッサを実用化できて,省電力性能を示していたならば,これまでにあるプロセッサをバンプレス3次元積層化することで演算能力をそのままにして電力を減らすことになります.つまり,任意の回路を省電力プロセッサにできる,汎用性のある技術です.一方,PEZY Computing が助成金を詐取した結果は,PEZY が設計した回路のプロセッサに限定された省電力化という,範囲の狭い技術でした.

そして,バンプレス3次元積層プロセッサかどうかが重要であれば,立憲民主党「スパコン詐欺」で省庁からヒアリングアーカイブ)にある経済産業省職員の説明

経産省職員「架空の外注については、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の職員が検査に行った。報道にあるように、偽物を突きつけられ、それが本物と見抜くことはできなかった」、「半導体ウエハーというのは、外観では性能や構造を見ることができない」

も理解できます.バンプレス3次元積層プロセッサについて引用したページの図1「マイクロバンプタイプとバンプレスタイプの断面構造の比較図」を見ると,プロセッサの断面にバンプレスであるかどうか,はっきりと違いが現れています.PEZY Computing が提出したプロセッサを電子顕微鏡で見ていればバンプレスタイプではないとわかり,PEZY Computing の不正を検査時に見つけられたかもしれません.

偽の半導体に関するツイートのまとめ(立憲民主党「スパコン詐欺」で省庁からヒアリング。初鹿議員「何で半導体ウエハーを動かしてチェックしなかったんだ?」)には,未踏IT人材発掘・育成事業スーパークリエータの丹羽直也氏による電子顕微鏡での検査を否定するツイート

があります.(専門家が同行することにもなりましたが)良品を壊したとしてもそこまで検査しない限り,不正請求をして助成金を詐取して逃げ切る事業者がいるのですが,どうしたらよいのでしょうか?

PEZY Computing が期限後にバンプレス3次元積層プロセッサを完成させたことを裏付ける証拠は何もなく,現在も未完成の可能性が高いでしょう.そして Suiren や Shoubu の動作をもって PEZY-SC が存在するという主張は,NEDO 開発事業の不正やバンプレス3次元積層プロセッサの実用化とは無関係です.

バンプレス3次元積層プロセッサについての証言をまとめると次の通りです.

検察側冒頭陳述 バンプレス3次元積層プロセッサは期限までに完成しておらず,PEZY Computing は試作品が完成したと虚偽の報告をした.
経済産業省担当者 バンプレス3次元積層プロセッサが実在するかどうか確認していない.
理化学研究所,KEK バンプレス3次元積層プロセッサが完成していたか否か,確認する立場にない(PEZY-SC という名前のプロセッサがバンプレス3次元積層プロセッサであるかは確認しない)
経済産業省担当者 PEZY Computing が偽装したプロセッサがバンプレスかそうでないかは電子顕微鏡で確認可能だったが,確認しなかった.
PEZY 関係者 PEZY-SC という名前のプロセッサがバンプレス3次元積層プロセッサかどうかは知らないが,動作している.

PEZY-SC がバンプレス3次元積層プロセッサであるのならば,PEZY Computing はこの新聞記事に公式に抗議し,経済産業省,理化学研究所,KEK に説明すべきでしょう.

再発防止策

4 について,必要に応じて次の手続きなどが増えることになりました.

架空請求防止のため,納入物品を専門家が同行して調査する.
権限が集中した上層部の不正を見つけるため,会計監査人を設置していない中小企業のチェックを強化する.
虚偽報告防止のため,抜き打ち検査を実施する.

この不正により,まっとうな事業者と NEDO がこれまで必要のなかった手続きをすることになりました.

最後に

この件に関するPEZY社員のツイートを引用します.


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