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恋心

きれいになりたい。
好きな人のために。

ここまでは今まで数えきれないほど経験してきた恋と同じ。

でもその先に、
少しでも不快にさせないように
無理させないように
ほんの一瞬でもかわいいと思ってもらえる瞬間があるように
そういう下から目線のイイワケがついてくるのは生まれて初めての経験だ。

つまり劣等感。
劣等感なんていうものを感じる
その理由は明白だ。
年齢。
年上であること、それもひと回り近く、
それがこんなにも自分を萎縮させるとは思わなかった。
同年代の中で抱いたことのない感情。
私は狩猟民族ゆえ、
好きになった人は押し倒してきたし、
押し倒すように仕向けてきた。

それが彼を前にすると
こんなにも自信が無くなるなんて。
キスなんて、
体を触るなんて、
人前で手を繋ぐなんて、
ハグするなんて、
舐めるなんて、
舐められるなんて、
そういうの一つ一つ、
本当はイヤじゃないかな?
我慢させてないかな?
申し訳ないな…
そんな気持ちになる。

できれば全盛期に会いたかった。
肌ももっとハリがあって
もう少し各所引き締まっていて
小じわも無くて。
同じクラス、職場の同期、合コン、クラブ、
そういうので出会いたかった。
でもそんなところで出会っていたらこんな風にはなってなかったかな…。
昔はね、
なんて言うことほどイタいことも無いから、そんなことは言わないけれど。
言ったところで仕方がないことだしね。

後輩に誘われることもある。
外見が若い頃より衰えたって
蓄積した中身の魅力があるのだと普段は胸を張って歩いているのに。
ひとたび彼の前に立つと、
知らない街の雑踏に置き去りにされた幼い子どものように途端に不安に駆られる。

おいおい。
かわいいじゃん私。

自重気味の突っ込みをしつつ、
今が、出会うべくして出会った時だったのだと信じることにする。

それでも
少しでもきれいになりたい。
そんなこと全然気にしてない気がするけれど、というかそもそもそういうことを求める相手ではないのだと思うけれど、
これは自分が自分を恥じないため。

週末、土日は欠かさず泳ぐようになった。
毎日腹筋やスクワットをやるようになった。
職場から渋谷まで自転車で帰るようになった。
バストアップして見えるブラジャーやTバックも数年ぶりにセットで購入した。
シミ取りにも行ったし全身脱毛ももうすぐ5回目。
しばらく行っていなかったネイルサロンにも通うようになったし
脱がしやすくてイイ女の香りがする服も増えた。
LUSHのマスクも欠かさないし
Aesopのスキンケアシリーズも揃えた。
苦手だったヘアアイロンも買って今さらながらちょっとずつ自然に巻けるようになってきた。

完全に乙女…。
年甲斐もなく…とも思うけれど
家族や職場で褒められれば素直に嬉しい。
肌艶も良くなったし二の腕やお腹も出産前に近くなってきた。
仕事のモチベーションも上がって
ベストBOSS賞にも選ばれたし業績も上がった。
子どもにイライラすることが格段に減って笑顔が増えた。
抵抗力をキープするために健康維持にも前より気をつけるようになって、体調をくずしにくくなった。

ん?
これ、いいことばっかりじゃない??

…恋ってすごい。

高校生の頃、塾で声をかけてきた人と親に内緒で付き合った。
模試も講習も楽しくて点が上がった。
バレた時、親に反対されて理由を聞くと、
勉強に差し障るから、と言われたから、
じゃあ受かればいいんでしょ?
と言い放って脇目も振らず勉強し
現役合格を勝ち取った。
昔から、私にとって「好き」はものすごいパワーをもたらしてくれる存在だったな…
そんなことをほんのり思い出す。

今までの恋と違うのは、
その先に何もないこと。
目指すべきものがないこと。
…でもいいんだ。
この、
恋に溺れて、
恋のスペシャルな力で
いろいろ良い方向に回る、
自分が変わっていく過程を楽しんで行くんだ。
きっとそれが私らしい、今の生き方。

もうすぐ会える。
見つめられた目を、一度だけでも、恥ずかしがらず、遠慮なく、見つめ返すことができますように!

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