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ボイスドラマシナリオ『好み』

《 登場人物 》

◯ふたりの家 (昼)

    美容室から帰ってきた女を見て、激しく動揺する男

  切ったの。

  うん。

  染めたの。

  うん。

  何でだよおおー。

  いいじゃん!  かわいいじゃん!

  不良ー!

  ええ……すごい偏見だな。
   そんなに好きなの?  黒髪ロング。

  大好き……

  へー。好きなのは黒髪ロングで、私じゃなかったわけだ。

  そういうわけじゃ……黒髪ロングのおまえが好きだったー!

  どっちだどっちだ。

  どっちもだよー!

  えっこわ、泣いてる?

  見んなよおおお。

  あのさ、染めたけど金髪とかじゃないし、長さもほら、セミロングだよ。
   ショートにしたんじゃないんだから。ねっ。

  でも……

  じゃなくて。見た目より中身を愛してくれませんかね。
   中身に褒めるところはないんでしょうか、私……

  ……優しいところ?

  漠然としてるね……

  えっと、えっと、料理がうまいところ。

  あー、まあ自信あるけど。

  何でも楽しそうなところとか。

  その方が人生充実するもんね。

  取れたボタンを一瞬で付けてくれるところ。

  あ、そう~~、君の服ボタン取れすぎじゃない?
   何で?  ケンシロウごっこでもしてる?

  結構男前なところ。

  無視?  えっ、男前……?

  こんな感じかな。

  終わり!?
   うーーん、あんまり褒められた気がしないなぁ。

  ぜんぶ良くてぜんぶ好きなんだよ。
   具体的にどこがどうなんて、今さらもう分かんないよ。

  ええ?  私は言えるけど。

  言えるの?  えっ例えば?

  そうね、まず、オシャレすぎないところ。

  それ褒めてんの……?

  普通がいいってこと。
   そんでねー、正直なところ。 

  黒髪ロングが好きだよ!!

  はいはい、それは却下。
   で、ケンカができないところ。

  え?  遠回しに弱いって言ってる?

  そうじゃなくて。平和が一番でしょ。
   強くてもケンカはしない、そのハートが大事。
   あっ、人の悪口を言わないところもいいよね。

  ありがと……

  えーそれからねー、いつも私を心配してくれるところ。

  いや、まあ……おまえ頑張りすぎるからさ。

  君もね。
   あ、たまにドジッちゃうけど、めげずに何事にも一生懸命なところ。

  ……うん。

  物を大切にするところ。

  婆ちゃんの教えなんだよね。

  動物が好きなところ。

  好き好き。

  あ、もちろん、料理をおいしいって食べてくれるところもね。

  いやあ、本当うまーい。おまえすごいよね!

  ふふん、どうも。作り甲斐しかない。
   ……ふむ。ここまでが基本スペックかなあー。

  基本スペック?

 そ。ここから徐々に細かくなります。

  細かく。

  うん。歩くはやさを合わせてくれるところ……面倒がらずに話を聞いてくれるところ……私の好きなものを覚えててくれるところ……自分の好きなものも教えてくれるところ……したいことをハッキリ言葉にできるところ……寂しいときにタイミングよく構ってくれるところ……やると決めたらやり通すところ……信号無視しないところ……変なくしゃみするところ……かき氷食べたら絶対に舌の色を見せてくるところ……時々すっごい少年なところ……すぐプロレス技かけたがるところ……でも多分ちょっと手加減してるところ……ギュッてするとき心臓めちゃめちゃバクバクしてるところ……キスするときこっそり薄目開けてるところ……そういうのぜんぶ私にバレちゃうところ……いつも手があったかいところ……指の形が綺麗なところ……お箸の持ち方も綺麗なところ……やんちゃな字を書くところ……意外とまつ毛が長くて、謎にお肌がつやつやなところ……これまじ悔しい。スキンケアなんかしてないくせに。
   髪がふわふわなところ……触るとくすぐったそうにするところ……我慢しないでちゃんと泣けるところ……静かにしゃべると結構声がいいところ……
   まだたくさんあるけど……あっこれ大事、私を好きでいてくれるところ。

  ……えっと。

  ん?

  俺、今どんな顔してる……?

  真っ赤っかー。

  だよなあ!
   死ぬ死ぬ……照れて死ぬ……ちょっとよく分かんないやつもあったけど……
   何、俺ってもしかして、かなり愛されてる?

  そうだよ。え、今頃?

  だって普段そんなこと言わないじゃん。

  言ってほしいならいつでも言うけど。

  いや、大丈夫……俺が保たない……

  私はいつだって言ってほしいよ。
   好きって。ここが良いねって。

  努めます……

  さて、改めて伺います。
   まだ黒髪ロングにこだわる?

  ……いえ、そのままのおまえが好きです……

  えへへ!  どもども!

  ボロ負けした気分……

  勝ちも負けもないでしょ。

  そうなんだけど。

  ねえねえ。

  ん?

  本当さ、大好き。

  お、おう。

  お、おう、じゃなくてー。

  …………俺も……大好き。

  ふふ、照れ屋さん。
   そういうところも好きよ。

  ねっねえもう許して……心臓が……心臓が……

  ごめんごめん!  えっ死ぬ?  どんだけ純情!?
   こんなのでポックリいかないでよー!?

  おまえは……オトナだね……ガクッ。

  あんたーーッッ!!

    ふたり、顔を見合わせて

  ぷっ。

  うくくっ……あははは!
   ばっか、何やらせんの!

男  おまえノリよくて好きー。

  私もー。

  あーでもこれ本当、一生分照れた。
   何か腹へった。

  作ったげよっか。オムライスとかどう?

  好き好き!
   ……あっ!  でもおまえの方が好き!  ねっ!

  ねっ!  て……オムライスと比べる?
   まあでも、私の絶品オムライスを食べちゃったら、勝負の行方は分かんないな……

男  勝ち負けじゃないんだろ。

  そうなんだけどー!

  ねぇ、はやく作って……今度は空腹で死ぬかも。

  はーい、じゃあちょっと手伝ってー。

  はーい。

おわり


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